【3分でわかる宇宙】宇宙の加速膨張とダークエネルギーについて
宇宙の膨張が加速している (ダークエネルギー?)
宇宙の起源と未来を解き明かす新プロジェクトSuMIRe発足
IPMU-カブリ数物連携宇宙研究機構 村山斉
●研究計画解説:
「万物は原子で出来ている」と言われ、身の回りの自然界の理解は過去2世紀に亘って大きく進歩してきました。しかし過去この十年間に人類の宇宙像は革命的に変わりました。
1998年に宇宙の膨張が加速していることが発見されました。宇宙の膨張はアインシュタインの一般相対性理論理論で予言されたことですが、あくまで重力による現象なので、宇宙の膨張は基本的に地表から真上に投げたボールの運動と同じはずです。つまり重力に引っ張られて徐々に減速するはずです。
ところが徐々に減速してきたボールが最近(約70億年前)逆に加速し始めたということになります。つまりなぜかエネルギーが増えている訳です。これは宇宙が膨張するとともにエネルギーが湧き出していることを意味し、ダークエネルギーと名付けられました。
これが本当だとすると宇宙の約73%がこの未知の不可思議なダークエネルギーで占められていることになります。あまりに衝撃的な発見なので、アインシュタインが間違っているのではないかという説すら出ていて、世界中で注目を浴びている謎です。この謎を解明するために欧米で厳しい競争になっています。
https://www.ipmu.jp/ja/node/478
人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ
ミチオ・カク(著)
地球がいずれ壊滅的なダメージを受けることは避けがたく、人類は生き延びるために宇宙に移住する必要がある。
本書は世界的に高名な物理学者が、1)月や火星への移住、2)太陽系外への進出、3)人体の改造や強化、の3段階で宇宙の進出の方途を示す。NASAやイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスらの宇宙開発への挑戦を追いながら人類の未来を見通す、最高にエキサイティングな一冊!
第Ⅰ部 地球を離れる
第1章 打ち上げを前にして
第2章 宇宙旅行の新たな黄金時代
第3章 宇宙で採掘する
第4章 絶対に火星へ!
第5章 火星──エデンの惑星
第6章 巨大ガス惑星、彗星、さらにその先
第Ⅱ部 星々への旅
第7章 宇宙のロボット
第8章 スターシップを作る
第9章 ケプラーと惑星の世界
第Ⅲ部 宇宙の生命
第10章 不死
第11章 トランスヒューマニズムとテクノロジー
第12章 地球外生命探査
第13章 先進文明
第14章 宇宙を出る
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』
ミチオ・カク/著、斉藤隆央/訳 NHK出版 2019年発行
第Ⅲ部 宇宙の生命
第14章 宇宙を出る より
遠い未来のあるとき、宇宙は冷たくなり、闇に閉ざされる。星々は光をうしない、宇宙がビッグフリーズへ突入するのである。宇宙そのまのが死を迎え、ついには温度が絶対零度近くに到達すると、あらゆる生命は死滅する。
しかしここで問う。何か抜け道はあるのか? この宇宙の破滅は回避できるのか? われわれはアメリカの俳優・マシュー・マコノヒー(地球を救うために宇宙へと旅立つ、映画『インターステラー』の登場人物。かつてはNASAの技術者でテストパイロットを務めていた)のように、超空間に救いを見つけられるのだろうか?
宇宙がどのように死を迎えるかを明らかにするのは、アインシュタインの重力理論がもたらす遠い未来の予測を分析してから、ここ10年でなされた驚くべき新発見を検討する必要がある。
そうした予測をする数式によれば、宇宙の最終的な運命については3つの可能性がある。
ビッグクランチ、ビッグフリーズ、ビッグリップ
ひとつめの可能性はビッグクランチだ。この場合、宇宙の膨張は減速したあと停止し、それから逆戻りする。このシナリオでは、散開していた天空の銀河はやがて止まり、凝集しだす。遠くの星々が近づくにつれ、温度は激しく上昇する。最終的にすべての星が合体し、原初の超高熱のかたまりとなる。シナリオによっては、ビッグバウンス(大反跳)が起こり、再び宇宙がビッグバンから始まる可能性さえある。
ふたつめの可能性はビッグフリーズだ。このシナリオでは、宇宙はたゆまず膨張しつづける。熱力学第2法則によればエントロピーの総和はつねに増大するため、やがて物質や熱がどんどん拡散して、宇宙は寒くなるはずだ。星々は光を失い、夜空は漆黒に呑まれる。温度はほぼ絶対零度にまで下がり、分子さえほぼすべての運動を止める。
数十年にわたり、天文学者はどちらのシナリオがこの宇宙の運命を決めるのか明らかにしようとしてきた。使われた手だては、宇宙の平均密度を割り出すことだった。宇宙の密度が十分に高ければ、遠くの銀河を引き寄せて、膨張を逆転させるだけの物質と重力が存在することになり、ビッグクランチの可能性が現実味を帯びる。一方、宇宙に十分な質量がなければ、膨張を逆転させるだけの重力が存在せず、宇宙はビッグフリーズへ向かう。このふたつのシナリオの分かれ目となる臨界密度は、1立方メートル当たりおよそ水素原子6個である。
だが2011年、何十年も大事にされてきた考えを覆した発見の功績により、ソール・パールムター、アダム・リース、ブライアン・シュミットにノーベル物理学賞が贈られた。3人は、宇宙の膨張が減速するどころか、実は加速していることを突き止めたのである。
・
ここでビッグクランチとビッグフリーズに加え、3つめの可能性がデータから浮かび上がる。ビッグフリーズをパワーアップしたような、ビッグリップだ[リップ(rip)は引き裂くという意味]。これは宇宙の一生をはなはだしく加速させたものとなる。
ビッグリップの場合、遠くの銀河はやがて光速を超えるほど猛スピードで遠ざかるようになり、見えなくなる(これは特殊相対性理論に反しない。光より速く広がるのは空間だからだ。物体は光より速く動けないが、空っぽの空間はどんな速度でも伸びて広がることができる)。すると夜空は真っ黒になる。遠くの銀河があまりにも速く遠ざかるので、その光がわれわれのもとに届かなくなるのだ。
この急激な膨張はいずれ圧倒的になりすぎて、銀河を引き裂くばかりか、太陽系をバラバラにし、われわれの体を構成する原子さえも引きちぎる。われわれの知る物質は、ビッグリップの最終段階では存在できない。
ダークエネルギー
宇宙の最終的な運命の理解に、この突然の変化をもたらしている要因は何なのだろう?
アインシュタインの相対性理論によると、宇宙の進化を押し進めるエネルギー源はふたつある。ひとつは「時空の曲率」で、これは恒星や銀河をとりまくおなじみの重力場を生み出している。この曲率のおかげで、われわれは地に足をつけていられる。これは、宇宙物理学者に最も研究されているエネルギー源である。
一方、もうひとつのエネルギー源は、ふだんは無視されている。それは「無」すなわち真空のエネルギーであり、「ダークエネルギー」と呼ばれている(ダークマターと混同しないように)。まさに空っぽの空間に、エネルギーが収められているのだ。
ごく最近の計算から、このダークエネルギーは反重力のように働き、宇宙を押し広げていることが示されている。宇宙が膨張するほどダークエネルギーが増え、宇宙をさらに速く膨張させることになる。
現時点で最高のデータによれば、宇宙に存在する物質/エネルギー(物質とエネルギーは互換性があるため)のおよそ69パーセントはダークエネルギーだ(一方、ダークマターは約26パーセント、水素原子とヘリウム原子が約5パーセントで、地球やわれわれの身体を構成する重い元素はわずか0.5パーセントにすぎない)。したがって、種々の銀河をわれわれから引き離しているダークエネルギーは、明らかに宇宙の支配的な力であり、時空の湾曲がもつエネルギーよりはるかに大きい。
だから宇宙論のすべてで中心的な問題のひとつは、ダークエネルギーの起源を明らかにすることなのである。ダークエネルギーはどこから生じているのか? それは最終的に宇宙を破壊するのか?
一般に、相対性理論と量子論をただ強引にくっつけてもダークエネルギーの量を推測できるが、得られる推測値は観測値と10120倍も異なる。これは科学史上最大のずれである。ここまで大きな食い違いはどこを探しても見つからない。宇宙に対するわれわれの理解に、ひどい間違いがあることを示しているのだ。そのため統一場理論は、科学的な興味の対象にとどまらず、あらゆるものの仕組みを理解するうえで不可欠となる。この問いに答えられれば、宇宙とそこに住むあらゆる知的生命の運命がわかるはずだ。