じじぃの「科学・地球_133_がんとは何か・悪性腫瘍の3つの特徴」

がんの転移いつおこる?癌転移の時期について医師が解説します

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=eR1gESQ4Mgo

がんとは一体どんなものなのか

島根大学医学部 附属病院 先端がん治療センター(腫瘍センター)

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3. がんとは一体どんなものなのか

例えば、胃の粘膜のポリープなどは良性の腫瘍で、外科的に切除すれば治りますし、場合によっては切除の必要もありません。
これに対し、悪性腫瘍には以下のような厄介な特徴があります。
1)自律性増殖:
がん細胞はヒトの正常な新陳代謝を無視して、自律的に勝手に増殖を続け、止まることがない。
2)浸潤と転移:
周囲にしみ出るように拡がる(浸潤)とともに、血液やリンパを通って身体のあちこちに飛び火(転移)をし、次から次へと新しいがん組織をつくってしまう。
3)悪液質(あくえきしつ):
がん組織は他の正常組織が摂取しようとする栄養をどんどんとってしまい、またがん細胞から毒性物質が出されることで、食欲低下、全身倦怠、体重減少がおこり、身体が衰弱する。
https://www.med.shimane-u.ac.jp/hospital/cancer/?p=21013

「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで

編:国立がん研究センター研究所
いまや日本人の2人に1人が一生に一度はがんにかかり、年間100万人以上が新たにがんを発症する時代。
高齢化に伴い、今後も患者は増加すると予測されるが、現時点ではがんを根治する治療法は見つかっていない。しかし、ゲノム医療の急速な進展で、「がん根治」の手がかりが見えてきた。世界トップレベルの研究者たちが語ったがん研究の最前線
第1章 がんとは何か?
第2章 どうして生じるか?
第3章 がんがしぶとく生き残る術
第4章 がんと老化の複雑な関係
第5章 再発と転移
第6章 がんを見つける、見極める
第7章 予防できるのか?
第8章 ゲノムが拓く新しいがん医療

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『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで』

国立がん研究センター研究所/編 ブルーバックス 2018年発行

第1章 がんとは何か? より

細胞の増殖が腫瘍をつくる

私たちの体は、数十兆個もの細胞からなっています。しかし、その始まりは、受精卵というたった1個の細胞です。それらが分裂を繰り返して増殖し、増殖の過程でさまざまな種類の細胞に分化します。そして、それらの細胞が組織や臓器を形づくり、体ができあがっていくのです。
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一方で、体のなかでいちばん重い臓器である脳の細胞は基本的に増殖しません。肝臓や心筋の細胞もやはり増殖しません。体のなかでどのような細胞がどれだけ増殖するかは、きちんとコントロールされています。それによって体のなかの組織や臓器は適切な状態を保ち、私たちは健康でいられるのです。
しかし、このコントロールを逃れ、必要とされる量を超えて細胞が増殖し続けることがあります。すると、増殖でできた余分な細胞は「かたまり」をつくります。このかたまりを腫瘍と呼びます。腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍があり、「がん」という言葉は悪性腫瘍とほぼ同じ意味で使われます。

悪性腫瘍の3つの特徴――がんの定義に代えて

では、良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは何でしょうか。悪性腫瘍の特徴として、以下の3つがあげることができます。
1つ目は「自律性増殖」です。先に述べたように、がん細胞は、細胞の増殖を適切に保つ制御機構を逃れ、自律的に(つまり、体全体の都合にはおかまいなしに勝手に)増殖を続け、基本的には増殖が止まることはありません。
2つ目は「湿潤と転移」を起こすことです。湿潤とは、水が少しずつしみ込んでいくように、がん細胞が次第に周囲の組織に入り込み、腫瘍が拡大していくことです。転移とは、がん細胞が、最初にできた腫瘍から離れて血流またはリンパ系に入り、その流れに乗って体のほかの部分に移り、そこで新しい腫瘍をつくることです。
そして、3つ目の特徴が「悪液質」という状態を引き起こすことです。悪液質とは、栄養不足により体が衰弱した状態を指す言葉です。そのメカニズムはまだはっきりしていませんが、腫瘍と体の相互作用によって全身性の慢性炎症が起こることが悪液質の本態だと考えられています。悪液質に陥ると、食欲不振やエネルギーの無駄な消費が起こり、脂肪や骨格筋が減るなどして体重が減少します。
良性腫瘍も、自律性増殖をします。たとえば、大腸にできるポリープには、腺腫や、過形成性ポリープ、炎症性ポリープなど何種類かあります。これらのうち、過形成性ポリープや炎症性ポリープは良性腫瘍で、増殖が進んでも湿潤と転移を起こすことはありません。ですから、外科的に切除すれば、通常はその後は何も起こりません。しかし腺腫は増殖を続けるうちに、湿潤と転移を起こすように変化することがあります。良性腫瘍だったものが、湿潤能を新たに獲得することにより悪性腫瘍に変化するのです。
悪性腫瘍は、湿潤と転移によって症状が重くなり、治療が次第に難しくなっていきます。また、悪液質が起こると、抗がん治療への耐久力が弱くなり、quality of life(QOL)も低下して予後が短くなるといわれています。このように、悪性腫瘍の特徴は命を脅かすものであり、そのために「悪性」といわれるのです。

湿潤と転移にかかわる遺伝子

さて、ここまで取り上げてきたのは、すべて「細胞の異常な増殖」にかかわる遺伝子の話です。がんの2つ目の特徴である湿潤と転移にはさまざまな遺伝子がかかわっているため、増殖のように限られたメンバーの関与できれいに説明することは難しいのです。
たとえば、癌腫で湿潤が起こるときには、がん細胞が基底膜を突き破り、間質のなかへと侵入していきます。このときのがん細胞は、細胞外マトリックスを分離する働きをもつメタロプロテアーゼという酵素を異常にたくさんつくっています。この酵素が働くとがん細胞は動けるようになり、基底膜を突破して間質を進んでいけるのです。
また、一般に細胞は細胞骨格というタンパク質の網目で形が保たれており、網目の伸び縮みで運動することもできます。この運動を制御するタンパク質に変異が起きると、湿潤が起こりやすくなることも知られています。
これだけでなく、図(画像参照)に示した湿潤と転移のステップのひとつひとつにさまざまなタンパク質がかわっており、そのもとになる遺伝子の変異が大きな役割を果たしています。

なぜがんで死ぬのか

感染症心筋梗塞なら、なぜヒトが亡くなるのかがわかりやすいですが、がんでなぜヒトが亡くなるのかは、ちょっとわかりにくいかもしれません。がんのできる臓器や転移先の臓器などによりケースごとに状況は異なりますが、大きくは次の3つをあげることができます。
1つ目は、がん細胞がどんどん増殖して腫瘍が大きくなると、その場所をふさぎ、場合によっては出血を引き起こすからです。たとえば、消化管や気管をふさいでしまい、切除もできないとなると致命的になります。
2つ目は、腫瘍によって臓器の本来の機能がブロックされてしまうからです。たとえば、肝臓で腫瘍がとても大きくなると、肝臓の正常細胞が働かなくなり、肝機能が極端に落ちてしまいます。そのために黄疸が出たり、肝性脳症になったりして、最後は死にいたります。白血病の場合も、正常な血球細胞の代わりに白血病細胞ができるので、正常な血小板が減って出血が起こりやすくなったり、正常な白血球が減って感染症にかかりやすくなったりし、それが原因で亡くなることが多いのです。胃がんのように、それだけでは致命的ではないがんでも、転移した先の臓器が機能を果たせなくなり、亡くなることがあります。
そして3つ目は、がんによって悪液質に陥り、体力が消耗してしまうからです。悪液質は、がん細胞の刺激により体中で炎症がずっと起こっているような状態です。炎症を起こすと内臓や筋肉はふだんより多くエネルギーを消費したり、タンパク質を分解したりします。食べ物から栄養をとることもうまくできなくなるので、ついには自分の体内の脂肪や筋肉を分解してエネルギーや栄養をとるようになります。こうして、体重は減り、体力は消耗して、免疫機能も弱くなり、薬にもあまり反応しなくなります。そして、命が奪われるのです。