じじぃの「科学・地球_100_学者の暴走・日本の科学の弱点・同調圧力」

学者の暴走 (扶桑社新書

掛谷英紀
学者は本当に信用できるのか?
イデオロギー」「金銭(利権)」「同調圧力」によってウソをつく学者たち。そして新型コロナウイルスでは学者の罪が疑われている。倫理感なく突き進む学者の実態に警鐘を鳴らし、学術界の悪の正体を暴く!
第1章 新型コロナウイルスと悪魔の科学
第2章 科学とは何か

第3章 日本の科学の弱点

第4章 世界の学問の危機
第5章 学問の再建に向けて

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『学者の暴走』

掛谷英紀/著 扶桑社新書 2021年発行

第3章 日本の科学の弱点

3 学者の村社会

学者集団の同調圧力

日本の研究者集団の日本的な特徴として、もう1つ挙げられるのが同調圧力の存在である。聖徳太子の十七条憲法に、「和を以って貴しとなす」とあるが、これは今でも日本人を強く縛る規範である。しかし、学問は真理の探究であるから、同調圧力に屈することは真理から遠ざかることにつながりかねない。
現実には「和を以って貴しとなす」の精神が学者の良心を凌駕するケースは少なくない。データを隠すと公言している人間を入学式に登壇させるのもその例の1つと言えよう。フェミニストをはじめとする左翼系学者は、基本的に声が大きい。そういう人に対して「データを隠す」と言ったことを追求して、余計な揉め事を起こしたくないという「和を重んじる」学者は非常に多い。
今の学者は基本的に学歴エリートたちである。ずっと周りに褒められて育ってきた。だから、揉め事を極端に嫌う傾向にある人が多い。逆に、自分の無理な要求を通したい人にとっては、それが付け入る隙になる。左翼はそれをうまく利用する。
政府による学術会議の人事への干渉に対して、学問の自由の侵害だと左翼学者が騒ぎたてたのもその一例である。この件については、その後左翼学者の側が、各学会に政府への非難の声明を出すよう強力に求めており、それに従う学会は多い。その中には、会員の意見を聞かず、学会の上層部だけで声明に加わる決断をした学会も少なくない。これも左翼が同調圧力をうまく利用した例と言えるだろう。
本来、学問の自由の侵害とは、特定の研究活動を妨害したり、特定の学説を唱える人に圧力をかけて黙らせることである。その基準で考えれば、政府が学術会議の人事へ干渉することは、学問の自由の侵害に当たらない。それに該当するのは、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイを裁判で有罪にした当時のローマ教皇庁のような例である。実は、これと同じことは、それから約400年経った今も起きている。
たとえば、2020年10月6日に新型コロナウイルス人工説を唱えているウイルス学者 閻麗夢博士の母親が中国政府に逮捕されたとの報道があった。彼女が人工説の根拠を述べた2本目の論文を発表する前の出来事である。他にも、中国政府の圧力で発言を撤回させられた中国の研究者は少なくない。このような形で学者の発言を封じようとすることこそが本当の政府による学問の自由への介入である。それに対して、学問の自由を謳う左翼学者たちは、何の抗議の声も上げていない。この事実は、彼らの目的が学問の自由を守ることではなく、自分の政治的主張を通すことでもあることを如実に物語る。
日本の同調圧力は、研究不正の追求においても障害となる。1章で述べた通り、研究不正に関する国際的な追及の公開質問状に、日本人の署名が出ることは少ない。疑惑の段階で、自ら名乗り出て問題を指摘する勇気がないのである。
もちろん、日本にそういう例が全くないわけではない。たとえば小保方晴子論文不正では、最初にkahoと名乗って論文の問題点を指摘し、後に、身分を明かした理研の遠藤高帆(たかほ)研究員(当時)がいる。あるいは、ナバルティヌの高血圧治療薬ディオバンを巡る論文データ不正事件で、データの不審な点を告発した東京都健康長寿医療センターの桑島巌副院長(当時)や京都大学医学部附属病院の由井芳樹助教(当時)の例がある。
しかしながら、日本ではこのような不正の発見に貢献した人が称賛されることはない。むしろ、告発者が「和を乱す裏切者」と見なされることが多い。米国の技術者倫理教材では、チャレンジャー事故で打ち上げに反対していたサイオコール社の技術者ポジョリーがしばしば好意的に取り上げられるのとは対照的な扱いである。
本章の最初に、論理を扱う言語としての日本語の弱点を述べたが、YESとNOの使い方も、日本語で科学を論じるときの障害になる。日本語では、相手の意見に賛同するか否かでYES、NOを使い分ける。一方、英語では事実に関する肯定か否定かで使い分ける。

相手に同調するか否かに焦点が当たる日本語の肯定・否定の用法は、和を重んじる日本文化の中で、事実に焦点を当てた議論をするのをさらに難しくしている面がある。