じじぃの「歴史・思想_505_日本の論点2021・米中ハイテク・海洋覇権争い」

中国軍機が台湾防空識別圏に進入 1日としては最多の28機

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=x2PNrMqdRiM

中国軍機が台湾防空識別圏に進入 1日としては最多の28機

China’s war games raise fears for Taiwan’s security

Aug 30th 2020 The Economist
CHINA HAS never renounced what it says is its right to “reunify” Taiwan by force if peaceful means are thwarted.
So armies on both sides have to prepare for war, however remote it may seem. Of late the number of naval exercises China has conducted has caused alarm-all the more so at a time of worsening relations between China and America on a number of fronts, including American policy towards Taiwan. The delicate status quo, in which China insists Taiwan is part of its territory but the island functions as an independent country, is fraying. As the Global Times, a tub-thumping official Chinese tabloid, puts it: “The possibility of peaceful reunification is decreasing sharply.” Mercifully, that does not mean war is imminent.
https://www.economist.com/asia/2020/08/30/chinas-war-games-raise-fears-for-taiwans-security

『これからの日本の論点2021』

日本経済新聞社/編 日経BP 2020年発行

論点16 米中、仁義なき「政治戦争」のトンネルに より

【執筆者】秋田浩之(コメンテーター)

コロナ前の対立、3つの土俵

コロナ前、米中対立の第1の土俵は「通商」だった。トランプ大統領が中国の対米貿易黒字や国有企業への補助金などに怒り、空前の制裁関税をかけ続け、いまに至っている。
第2は、「ハイテク覇権」をめぐる争いだ。華為技術(ファーウェイ)に代表される中国のハイテク大手を次世代通信網の5Gや重要な国内インフラから締め出したほか、中国への技術移転の制限を強めているのが典型例だ。さらに、通信やコンピューター、原発といった中国基幹企業に対し、半導体などの重要部品の輸出を禁じる措置にも出ている。
米国がここまでしゃかりきになるのは、「中国にハイテク覇権を奪われたら、経済だけでなく、軍事面でも力関係が逆転してしまう」(米国防総省ブレーン)という懸念が強いからだ。現代の軍事作戦は衛星やサイバー、人工知能(AI)に頼る比率が高まっている。この心臓部を中国に握られたら、戦後、アジア太平洋で米国が保ってきた軍事優位が崩されかねないというわけだ。
そして、第3の対立の舞台が「海洋覇権」である。かつての大英帝国がそうであったように、米国が超大国でいられるのは、最強の海軍力によって世界の海を支配していることが大きい。海洋を支配すれば、貿易の大動脈であるシーレーン海上輸送路)を押さえされる。それにより、米国は軍事、経済ともに絶大な影響を振るってきた。
米側からすれば、中国はそうした自分たちの海洋覇権を切り崩しにかかっているようにみえる。特に、中国が7つの軍事拠点をつくり、南シナ海を自分の「内海」にしようとしていることに、米側は反発を強めている。トランプ政権は中国を牽制するため、オバマ前政権よりも頻繁に空母や戦艦を南シナ海に派遣し、中国軍との緊張が高まっていた。

バイデン政権誕生でも潮流は変わらない

こうした(中国への強硬姿勢)米国の対中外交の潮流は、11月の米大統領選でバイデン民主党候補が勝っても変わらないだろう。バイデン陣営で外交・安全保障のブレーンを務める側近たちは2020年夏以降、シンクタンクのオンライン会議に登場し、「バイデン外交」について発信を強めている。なかでもバイデン氏の公約づくりに大きな影響力を持つのが、オバマ政権で国務副長官を務めたトニー・ブリンケン氏と、当時バイデン副大統領の補佐官(国家安全保障担当)だったジェイク・サリバン氏だ。
対中政策について2人が強調しているのは主に3つの点である。第1に、「バイデン政権」が誕生しても、中国への圧力を弱めたり、融和的な政策に転じたりすることはない。第2に、トランプ政権と異なり、日本やオーストラリア、欧州などの同盟国と連携を深め、一緒に対中政策を進めていく。第3に、トランプ大統領が軽視している人権や香港問題をバイデン氏は真正面から取り上げ、改善を求めていくという。
バイデン氏が対中弱腰とみられることは大統領選上、望ましくないため、ことさらタフな姿勢を強調している面はある。バイデン陣営は気候変動問題では中国と協力する方針を示しており、どこまで対中強硬を貫けるのか、疑う向きもある。だが、これらの点を割り引いたとしても、「バイデン政権」でオバマ前政権の1期目のような対中協調路線に逆戻りすることはないだろう。

バイデン陣営に近い元米政府高官はこう解説する。「バイデン氏が大統領になれば、『ソフトな対中封じ込め路線』を進める。トランプ政権のように(乱暴に)中国をたたくのではなく、同盟国や多国間の枠組みを使って中国を包囲し、じわりと行動を改めさせていく」。いわば、棍棒でたたくのがトランプ流とすれば、真綿で首を絞めるのがバイデン流というわけだ。

軍事的な緊張が一気に高まる恐れ

今後、気がかりなのは、米中による強硬策の応酬が軍事衝突につながる危険だ。そうしたリスクがあるとすれば、南シナ海台湾海峡である。米国は7月上旬と中旬、南シナ海に空母2隻を送り込み、8月後半には10ヵ国の同盟・友好国による海上演習を太平洋で実施した。米軍は偵察機を頻繁に中国沿海にも飛ばし、牽制を強めているもようだ。
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台湾問題という最も敏感な内政にまで、米国が手を突っ込んできた……。中国側はこう受け止め、猛反発している。台湾側によると、9月下旬には20機近くの中国軍機が台湾海峡にやってきて、その一部が台湾の防空識別圏に入った。今後、ただちに米中紛争に発展することはないにしても、中国はすかさず8月半ば、台湾海峡などで軍事演習を強行しており、軍事的な緊張がさらに高まる恐れがある。
コロナ危機があってもなくても、台頭する中国と超大国・米国の軋轢が強まるのは避けられなかっただろう。だが、ウイルスによって約20万人もの米国人が命を落とす悲劇がなければ、ここまであっという間に米中が敵対関係にはまり込むことはなかったはずだ。
いつかワクチンや特効薬が開発され、感染が収束する日はやってくる。そうなれば、新型コロナは勢いを失うだろう。だが、いったん米中関係に侵入し、その巨体を蝕んでいる「ウイルス」はそう簡単には消えない。