じじぃの「科学・地球_69_レアメタルの地政学・レアメタルは枯渇するか」

Why China's Control Of Rare Earth Minerals Threatens The United States

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=NtNU261NVrg

RARE EARTHS OUTSIDE OF CHINA: OLD AND NEW SOURCES, URBAN MINING AND ALTERNATIVES TO RARE EARTHS

●FINDING NEW SOURCES OF RARE EARTHS
Foreign companies and governments are scrambling to find new sources of rare earths as China threatens to further tighten restrictions or even ban exports of some elements and close mines.
Dudely Kingsnorth, an Australia-based independent rare earth analyst, told AFP, “It's crunch time, In the next few years, we are going to be in a situation where [export and production] quotas are reduced and unless we have sources outside China, more companies are going to have to relocate to China to secure access."
http://factsanddetails.com/china/cat9/sub63/item1730.html

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第8章 鉱業分野の拡大 より

エネルギー転換とデジタル転換は危機に瀕している。

必要な金属が十分になかったら、外交的成功も、エネルギー転換を図る野心的法律も、熱心な環境保護の主張も無駄になる。現時点でのデータから見ると、「グリーン革命」は期待されたより時間がかなりかかりそうだ。なぜなら、この革命は適切な供給戦略を有する数少ない国のひとつである中国に先導されるだろうからだ。中国政府は世界の需要を満たすためにレアメタルの生産を急激に増やすことはしないだろう。中国は貿易政策によって欧米諸国を供給困難に陥らせることができるばかりでなく、自国の資源が早くに欠乏することを懸念しているからだ。公式な需要の3分の1を占めるレアアース闇市場もこの欠乏傾向を助長しており、今のペースでいくと、一部のレアメタルの埋蔵は2027年頃から枯渇してしまう可能性がある。

したがって今後は、ある種のレアメタルの採掘増加を抑える必要がある。そのために、中国は自国で生産したものを自国のために保持しようとしている。中国は現在、自国で採掘したレアアースの4分の3を国内で消費しているが――レアアースを供給できるのは中国だけだ――その消費量推移を見ると、2025~30年にはすべてを国内消費するようになるかもしれない。将来、中国がレアメタル鉱山を国内外に新たに開発したら、一番高い値をつけた人に売るどころか、市場には出さずに中国企業にのみ売るだろう。どんなに高くついても資源を保護するだろう。「他の国々には何が残るだろう? 答えは何もない。完全に何も残らない、ということだ」とあるアメリカ人専門家は断言する。中国は自国のグリーンテクノロジー産業の利益を優先し、他国のことは顧みずに、自国のエネルギー転換とデジタル転換の発展を支援するだろう。

こうして、世界でもっとも汚染された国のひとつである中国が、大方の先入観に反して、よりクリーンな世界と地球温暖化との闘いの先兵になろうとしている。

鉱山前線は多様化する

こうした現象(鉱山会社が世界中のレアメタル鉱山の開発に乗り出した)は理不尽な行為を煽った。埋蔵量が予想したほど豊富ではなかったと鉱業会社らが認めたとき、バブルがはじけた。ギャンブル化した鉱物市場では短期間に巨額の富を築くこともできる一方で、人のいい小さな出資者はわくかな蓄えを一夜にして失う。いずれにせよ、こうした混乱によって引き起こされた地政学的な動揺は、パリ合意の締結の際の友好的理想主義とは対照的だった。
さらに、レアメタル採掘を巡って新たな協力関係が成立した。日本とインドはインドで採掘されるレアアースの輸出に関して合意を交わした。日本はオーストラリアやカザフスタンやヴェトナムのレアアースに関する敵対的な政策を嘆く。メルケル独首相は鉱山分野の強力関係を締結するために何度かモンゴルに足を運んだ。韓国の地質学者たちは北朝鮮の鉱山の共同開発について北朝鮮と協議を行っていると公表した。フランスはカザフスタンで踏査を始め、EUはパートナー諸国との鉱山投資を促進する経済外交を展開している。レアメタルの供給を安定化させるためのに2国間合意が次々と誕生する現象を、冷戦の遺産である2極世界が崩れ、外交の舞台に官民の鉱業関係者の介入が増えていることを物語っている。
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世界中にレアメタルの探究を強いるエネルギー転換とデジタル転換は、必ずや対立や不和を生み出すだろう。従来のエネルギー地政学終結させるどころか、より激化させることだろう。そして、中国はエネルギーとデジタル転換を遂げる新たな世界を自分の思い通りにしようとするだろう。ヴィヴィアン・ウー氏も同意見のようだ。「需要の増加により、中国は5年後には国内需要すら満たすことができなくなるだろう」。そのため、中国もカナダ、オーストラリア、キルギス、ペルー、ヴェトナムなどにレアメタルを求めて動き出した。
とくにアフリカは渇望の的だ。とりわけ南アフリカブルンジマダガスカルアンゴラなどである。中国の外交政策が実って、アンゴラのジョゼ・エドゥアルド・ドシ・サントス元大統領は中国の需要に応えるために、レアアースを鉱山開発の優先課題とした。中国はコバルトの豊富なカタンガ州南部への交通の便をよくするためにコンゴ民主共和国に鉄道を建設する計画だ。
鉱山が増えることで、当然、中国のレアアース独占はなくなるはずだ。中国政府はその犠牲を払う覚悟なのだろうか? 答えはイエスでもノーでもある。共産党は全部ほしいのだ。戦略的な鉱物の市場への主導権を保持しつつ、採掘の重荷を他国と分担したいのだ。そのために、中国はすばらしい戦略を練り上げた。
ロンドンでも、トロントでも、シンガポールヨハネスブルクでも、レアメタル関係のシンポジウムで、ある問いが上がらないことはない。「いったい中国は何をやっているのか?」という問いだ。2010年の禁輸後に最高値をつけたレアアースの価格は急落した。需要と供給の差はずっと大きいままなのだから、急落の理由はよくわからない。オブザーバーの多くは、中国が価格を下げるように操作していると見ている。「中国人はレアアース市場では何でも好きなことができる」と、クリストファー・エクレストンは嘆く。中国はストックすることもできるし、反対に大量に放出して値段を暴落させることもできる。市場を不安定にする中国がいるために、それ以外の国の鉱物部門は、長期的に採算のとれる経済モデルを構築することが非常に難しい。価格が予測の5分の1、10分の1になったときにどうやって倒産を免れればいいのだろうか?
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中国は他の競合会社にも資本参加している。グリーンランドでは先の盛和資源がウラニウムレアアースの豊富なクヴェーンフェルドの開発にかなり高い割合で資本参加している。頭のいいやり方だ。必要なときは手ごわいライバルの出現を阻止できる。
こうした鉱業拡大戦略を通じて、中国は国内産の鉱物資源に依拠した独占政策を放棄し、多種類のレアメタルの生産を世界規模で支配して新たな独占的地位を確立しようという大胆な目標を掲げている。まるで、すでに世界最大の原油資源を持つサウジアラビア石油輸出国機構OPEC)の加盟14ヵ国の原油を独占しようとするようなものだ。
世界の再生可能エネルギーの割合が上昇するにつれて、レアメタルに関する中国の優位性もますます強くなっていくだろう。
欧米諸国が真に鉱山を守る闘いに挑むのでなければ……。