じじぃの「科学・地球_64_レアメタルの地政学・カーゴ・カルト(貨物船信仰)」

If you create a good enough airport-the cargo will come.

Upgrade your cargo cult for the win

Meta-rationality
●Cargo cult science
Richard Feynman-the foremost physicist of the mid-20th century-gave a famous commencement address on “cargo cult science.”
During World War II, many Pacific islands that previously had little or no contact with the modern world were used as air bases by the Americans or Japanese. Suddenly, enormous quantities of food, clothes, tools, and equipment, such as the islanders had never seen, appeared out of the sky in magic flying boats. Some of this “cargo” trickled down to the natives, and it was fabulous. Then the war ended, the planes vanished, and-no more cargo!
How to make the cargo flow again- The islanders had observed that, just before cargo arrived, the foreigners performed elaborate rituals involving inscrutable religious paraphernalia. Clearly, these summoned the sky spirits that brought cargo.
https://metarationality.com/upgrade-your-cargo-cult

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第3章 汚染を他国へ移す より

レアメタルのリーダーシップを取る代わるに、欧米諸国はその生産を――当然、汚染のセットにして――豊かさと引き換えに環境を犠牲にする貧しい国々に移転するすることを選んだ。
このことを理解するあめに、私たちは2011年夏のある朝、にぎやかなラスベガスを出発して州間高速15号線を南西に向かった。ネヴァダ州とカリフォルニア州の広大な自然のなかを2時間走ると、腐食した施設に隣接する石切り場に着いた。頭上によれよれになったアメリカ国旗がはためいている。岩と低木がまばらにあるこの土地で、アメリカの鉱物会社、モリコープが世界一のレアアース産出量を誇るマウンテン・パス鉱山に1990年代まで運営していた。

アメリカがレアアース市場を独占していた時代

この環境破壊(マウンテン・パス鉱山の採掘場の汚染)は周辺住民を直撃した。土壌を汚染した水はウラニウムマンガンストロンチウム、セリウム、バリウムタリウムヒ素などを含んでいた。汚染された砂の嵐や地下水の汚染がモハーヴェ砂漠を半径数キロメートルにわたって汚染した。「訴訟がいくつも起きて、モリコープ社は環境問題に取り組まざるを得なくなったのです」と、ハダー氏は回想する。裁判で同社は重い懲罰刑を言い渡された。
モリコープ社には銃器と盾と防弾チョッキで武装した連邦捜査官たちが押しかけてきたことがある。カリフォルニア州の環境規則の度重なる違反を通知に来たのだ。周辺のカメの生息地を保護するために、当局は鉱山の300人の従業員にサバクゴファーガメについての講義を受けさせ、甲羅の中に隠されたカメから30メートル以内に近づくことを禁じた。新たな廃水漏れが起こる可能性があり、設備の近代化に莫大な費用がかかることから、モリコープ社は1990年代終わり頃から、マウンテン・パスで操業を続けることに疑問を抱き始めた。
同じ頃、経済発展を模索する中国は、欧米諸国の工業企業が苦境に見舞われていることに乗じて、次第にレアメタル市場の主役になっていった。その野心に見合うだけの手段はあった。私たちが訪れた包頭市の鉱山には世界のレアアース埋蔵量の40パーセントがあったからだ。欧米から自国に鉱物生産を移すために、中国は恐るべき策略を使った(それは今でも続いている)。その戦略は一言で言えば、ダンピングだ。生産コストを低く抑える経済ダンピングと、環境ダンピングだ。後者については、環境保護活動家の馬軍氏が言うように、「環境破壊を修復するコストは生産コストに含まれていない」ために起こる。中国は被害を隠すためには何でもやってきたのではないかと……。
この二重のダンピングは中国の価格政策にも表れている。2002年には中国産のレアアースのキロあたりの平均価格はアメリカの半分の2.8ドルだった。中国との容赦ない価格競争にモリコープ社は対抗できなくなった。マウンテン・パス鉱山は操業を停止し、2002年の閉鎖までストックでしのいだ。

鉱物資源の主権性を放棄する政策

自国で資源を開発すること、あるいは海外からの資源供給を持続的に確保することは、昔からエネルギーの独立性を保つための戦略の基本的なふたつのルールだ。それなのに、レアメタルに関しては今日までそのルールは適用されなかった。われわれが消費する膨大な化石燃料に比べると、必要なレアメタルの量は取るに足らないからだという反論もあるだろう。しかしながら、これまで見てきたように、レアメタルは目立たないながらも不可欠なのだ。地球の住民ひとり当たりではレアメタルを年間20グラムしか消費しないが、そのわずかな鉱物がないと、世界の動くスピードは遅くなるだろう。にもかかわらず、人類が1970年代から選択したテクノロジーを考慮してレアメタルの重要性の将来を予測する人はまれだ。他者に完全に依存し、それを認めることは、ほとんど自殺的な政策とみなされていたのに、現在では広く認められているのだ。
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宝物を満載した船や飛行機が到着するのを見た現地人の驚きを想像してほしい。豊富な物質が簡単に目の前に現れることに彼らは目を丸くした。無線通信で欲しいものを頼めば、薬品でも食糧でも道具でも、魔法のように海や空から届くのだ。メラネシア人たちはその裏にある産業構造については何も知らなかった。物がほしければ頼みさえすればいいのだから、彼らは欧米人たちのまねをした。注文するために偽の無線機をすえ、偽の滑走路を作った。そして、願いがかなうのを長い間待ったのだ。欧米人はその様子を「貨物船信仰(カーゴ・カルト)」と名づけた。

21世紀、地球の反対側でわれわれの合理的な物質主義社会は、同じような信仰に頼っている。ロジスティクス工学のおかげで、7万年もの間われわれの祖先を脅かしていた恐怖、物不足の恐怖を捨て去ることができた、だが、何にでも代償はある。供給網のグローバル化消費財を与えてくれる代わりに、それらの出所への興味を私たちから奪った。購買力は高まったが、購買の知識は失った。1600万人のアメリカ人が、ココアドリンクは茶色の牛から絞られると信じているというのおうなずける。
しかし、欧米のまどろみは不幸な人だけを生み出したのではない。われわれはレアメタル生産をよそに移転することで、”21世紀の石油”の重荷をグローバル化の苦力(クーリー)に任せただけでなく、独占的地位を潜在的なライバル――中国に委ねたのだ。