じじぃの「科学・地球_68_レアメタルの地政学・精密誘導ミサイル競争」

The F-35: Mission ready, interoperable and combat-proven.

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=9LgH-Rwdwhs

American fighter F-35

American fighter F-35 will remain without rare earth materials

July 15 2020 top war
China intends to stop the supply of resources, including rare earth metals, necessary for the production activities of the American corporation Lockheed Martin.
This step can cause stagnation. aviation United States industries.
https://en.topwar.ru/173105-amerikanskij-istrebitel-f-35-ostanetsja-bez-redkozemelnyh-materialov.html

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第7章 精密誘導ミサイル競争 より

ハリウッドですらレアアース熱に浮かされている。レアアースは石油と同じくらい不可欠な資源となったことから、中国の脅威と、それに抵抗するハイテク産業の闘いはまるでサスペンスドラマのようだ。アメリカの有名なTVシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の脚本家もそれに目をつけた。アメリカの政治家フランク・アンダーウッド(ケヴィン・スペイシーが演じた)は権力の階段を上がるためには手段を選ばない。シーズン2の陰謀のひとつはレアメタルに関するもので、脚本は事実に似た点もある。
シーズン2の中で、中国は、アメリカの原子力発電所稼働に必要と設定されたサマリウム149という非常に希少なメタルの世界生産の95パーセントを占め、その優位性を生かして、アメリカに高く売りつけようとする。そうなれば、国民の払う電気料金が高騰することから、政治的危機を生み出す恐れがある。アメリカ政府はフランク・アンダーウッドの提案のもと、サマリウムをほかの国から買うことによって中国の独占を回避する。アンダーウッドは「われわれと直接に取引を続けるためには、中国は価格を下げざるをえないだろう。そうすれば、軍事的に必要なサマリウムを備蓄し、余った分は同盟国に売ったらいい」と考えた。
軍事に必要なレアメタルの備蓄については、アメリカ国防総省の戦略はかなり以前から熟考されている。レアメタルアメリカの軍備に不可欠なもので、戦車、駆逐艦、レーダー、精密誘導爆弾、対人地雷、暗視装置、ソナー、さらにアメリカ海軍がすでにペルシャ湾で射撃試験を行った新型レーザー砲などに使われている。
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軍事に必要なレアメタルは量的には少ない。専門家によると、アメリカの軍事産業は年間200トンの磁石を輸入しており、これは世界生産の0.25パーセントにすぎない。レアアースに限れば、ロンドンの分析家によると、アメリカ軍が今後3年間に必要とする量はリュックひとつに収まる程度の寮だ。しかしながら、トランプ大統領の決定により2020年度7380億ドルの国防予算を有するアメリカは、少量にしてもレアメタルを確保できなければ、世界一の軍事大国の地位を降りなければならないだろう。

南シナ海におけるアクセスの拒否

「マグネクエンチ社(インディアナ州にある高性能磁性材料の開発会社)を買収したことで、中国は長距離ミサイルを完成させるのに欠けていた技術を獲得した」。このことだけは確かだと、ピーター・ライトナー氏(アメリカ国防総省の高官)は言う。このひと昔前の技術が、その後、弾道ミサイル「東風26」や対艦ミサイル「東風21D」に使われたのかどうかが問題だ。東風26はグアム島アメリカ基地まで届くといわれる。東風21Dは2015年に北京で行われた大規模な軍事パレードで世界にお披露目されたものだ。
2010年に配備された「空母キラー」と呼ばれる東風21Dは、南シナ海へのアクセスを禁止する「接近阻止・領域拒否」という近年の中国の政策の柱になるものだ。中国大陸からヴェトナムの南まで含む南シナ海支配下に置くことは、中国に戦略的厚みを与え、多数の海底油田の採掘権、さらには世界の石油輸送の半分を占める海域のコントロールを可能にする。日本、韓国、ヴェトナム、フィリピン、とりわけアメリカにとっては許しがたいことだ。対抗するアメリカは2020年までに海軍艦艇の6割を太平洋に配備する予定だ。船舶関係の問題が1週間のあいだに一度も起こらないのは珍しいほどで、米中戦争を勃発させ得る「海の火薬庫」となっている。
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2019年、アメリカ政府はレアアース鉱山の再開、リサイクル、新素材の研究によって、アメリカが中国からの供給に全く依存しないよう推奨する報告書を公表した。また、ウィルバー・ロス商務長官は「わが国が重要な素材を欠くことのないよう保証するような、これまでにない措置を連邦政府はとる」と確約した。また、国務長官も「アメリカの経済と国防に不可欠」とされる鉱物の数を35種に引き上げた。この問題に非常に敏感なアラスカ州共和党上院議員のリーサ・マーカウスキー氏もアメリカの鉱物の安全確保に関する法律を成立させる意欲を明らかにした。その理由は、「中国への依存は雇用を奪い、わが国の競争力を弱め、地政学的にもわが国の立場を不利にさせる」からだと説明した。しかし現実は、「トランプ氏の宣言にもかかわらず、今日までに変化はほとんどない」と、あるアメリカ人専門家は言う。この問題について政府内の意見は分かれている。

中国の磁石が米国防省を揺るがす

F-35戦闘機問題の発端は1973年にさかのぼる。この年、アメリカは兵器に組み込まれる特殊な金属を外国から購入することを禁じる法律を可決した。コバルト、ジルコニア、チタンなどを用いる部品の重要性が高まっていることから、そうした部品を供給できる産業基盤を持続させることが、有事においてもアメリカの自給自足を確保できると判断されたためだ。
1990年代初め、アメリカはフランスのラファール戦闘機に対抗すべく、ロッキード・マーティン社による第5世代ジェット戦闘機F-35の開発に乗り出した。アメリカとその同盟国の共同出資によるこの戦闘機開発にはすでに4000億ドルかかっており、アメリカ軍の開発計画のなかでも過去最高のものだ。この戦闘機へのアメリカの期待も、その莫大な開発費に見合うものだ。F-35は戦闘機としての機能の優秀さだけでなく、軍事産業を振興し、貿易収支を向上させ、何万もの雇用を創出するプロジェクトである。今後数十年間に2500機がオーストラリア、イギリス、オランダ、イスラエル、イタリア、トルコ、日本、韓国に納入されることになっている。
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国防総省もこの件(F-35に中国製のレアアース磁石材料が使われていた)を知らされた。調達・技術・兵站担当国防次官フランク・ケンドール氏がその件を調査することになった。状況は複雑だった。アメリカの磁石企業が中国の製品に相当するものを供給できるのを待つと、F-35の配備が遅れる可能性がある。しかも、戦闘機を分解して中国の製品をアメリカ製品に替えるのは莫大なコストもかかる。
したがって、国防総省では、アメリカの国防にとって非常に重大である場合には1973年法に例外条項を設ける可能性を検討し始めた。しかし、省の高官のなかには慎重論を唱える人もいた。中国が供給したレアアース磁石にスパイソフトが仕組まれていないだろうか? 4000億ドルの肺発計画が1個2ドルもしない磁石に「汚染」されている危険はそもそもあるのだろうか? レアアース産業の下流部門の独占を中国に明け渡したことで、アメリカは自国の軍事機密をかすめとって遅れを取り戻す機会を中国に与えたのではないだろうか?
こうした問いは、アメリカが過去に何度も自問した、より大きな国防上の問いを投げかけた。中国が欧米軍を含む世界中に輸出する、レアメタルを含むマイクロプロセッサーなどの半製品に「トロイの木馬」を仕掛けていないと断言できるだろうか? 米国防総省の2005年の報告書では、アメリカ軍が好んで使うエレクトロニクスシステムに仕込まれた有害なマルウェアが戦闘中に戦闘機器の機能を妨害する可能性に言及している。ボーイング社開発のロックウェルB-1戦略爆撃機ロッキード・マーティン社のF-16戦闘機、レイセオン社のSM-3ブロックⅡ迎撃ミサイルといった他の重要な武器にも中国から輸入した材料が使われていることが国防総省によって判明したことにより、この懸念はいっそう強まった。
ケンドール国防次官はロッキード・マーティン社に解決策を見つけるよう命じた。その間は磁石をひとつひとつ交換することはしない。中国やロシアが自前のステルス戦闘機を開発していることもあり、この件にはアメリカと欧州同盟国の技術優位性がかかっている。時間がないこと、予算面の制限もあり、中国が有害な製品を仕込んだというリスクは架空のものだと判断し、ケンドール国防次官は態度を決定した。1973年法が規定する禁止事項は成都恒力磁性材料製のある種のレアアース磁石には適用されないと判断したのだ。こうして同社はF-35戦闘機の公式な供給者になった。

アメリカが中国のレアアース磁石なしではやっていけないなら、米国防総省は特例措置を繰り返すだろうと、アンソニー・マーチーズ氏は警告する。「F-35関連企業は中国からレアアースを買い続ける、ということだ」