じじぃの「科学・地球_67_レアメタルの地政学・中国が欧米を追い抜くとき」

Top 10 Countries for International Patent Applications (1991-2020)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=L5RR6VPk7uQ

China takes over world leadership in international patent applications

April 22, 2020 Inventa International
In 2019, China became the world leader in international patent applications, according to the annual report of the World Intellectual Property Organization, presented in Geneva, having overtaken the United States of America and ended a period of leadership that had lasted since the creation of the WIPO Patent Cooperation Treaty (PCT) in 1978.
https://inventa.com/en/news/article/496/china-takes-over-world-leadership-in-international-patent-applications

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第6章 中国が欧米を追い抜くとき より

われわれが直面している新たな戦い――想像力の戦い――をものにするためにはレアメタルが必要だ。世界の国々は、最も優秀な才能を求め、最も革新的なスタートアップ企業を探し、文化と才能の使者となるような特許をわがものにするために競い合っている。新たなテクノロジーは、新たな経済モデルや社会モデルを生み出し、世界の見方を教える。レアメタル関連の産業戦略が科学的発展に大いに貢献し、国民の創造的な精神を鼓舞し、欧米に牛耳られた規範とは異なる文明的な提案を促進させることを、中国は十分に認識している。

中国のやり方は「ハイテク・コルベール主義」

この戦略の原理(外国のテクノロジーを吸収して国内に移転すること)は2006年に中国政府が発表した工業政策の文書の中で示されている。「高邁な意図と国際強力と友好を謳ったレトリックに満ちた文書」、と北京在住のあるアメリカ人コンサルタントは皮肉る。中国政府はこの中で、外国から輸入したテクノロジーに手を加えて自国に適用させることによって中国のテクノロジーを発展させることを「現地化革新」と定義している。「この戦略は、多くのハイテク企業からの前代未聞の技術掠奪を意図するとみなされている。技術現地化の工業政策によって、中国が守りの姿勢から攻撃の姿勢にシフトしていることは明らかだ」と、2010年のあるアメリカの報告書は警告を発した。
このやり方はレアメタル磁石で中国がやったのとまったく同じだ。中国政府はまず甘い誘いや力関係によって外国企業を国内に誘致し、ジョイント・ベンチャーで提携し、「共同革新」あるいは「再革新」のプロセスを行い、日本やアメリカのスーパー磁石製造企業の技術をわがものにした。
外国企業の「想像力」を利用した後、中国政府は国内生産のエコシステムを立ち上げた。政府は「工場をラボに転換する」目標を打ち立てた。この試みは1980年代初めにスタートした様々な研究プログラムによって具体化された。そのうちの最も重要なものは「863計画」であり、7つのハイテク産業部門――その多くはグリーンテクノロジー関係――で中国を世界のリーダーに押し上げようというものだ。最近では、「中国製造2025」計画のスタートで全国約40ヵ所の産業革新センターの設置が始まった。中国政府の研究部門への投資は2019年で5200億ドルにも上り、この数字はアメリカよりは低いが、EUを上回る。

テクノロジーの驚くべき発展

以上のようなことは、なぜ中国共産党が驚くほどの成功を遂げたかを理解する助けになる。「私は10年前にはもう中国にいたが、その頃は繊維や玩具、電気製品の組み立てばかりだった。だが、それ以降に中国で生産されてきたものを、当時はだれも想像できなかっただろう」と、北京在住のあるフランス人ジャーナリストは言った。エレクトロニクス、航空機、運輸、生物学、工作機械、ITなどの分野における驚異的な発展は、共産党の上層部すら予想していなかっただろう。宇宙開発分野でも、中国はすでに月にロボットを送り、2036年までに人間を送ろうとしている。2018年だけでも37回のロケット打ち上げに成功し、宇宙開発競争においてアメリカのライバル、ロシアを追い抜いた。つまり、もはや新たなテクノロジーを求める側にとどまるのではなくて、それを提供する側に回り、知識を消費する立場から知識を供給する立場に変ったのだ。その変化は、中国が2018年に申請した特許数が世界最多の140万件であることからもうかがわれる。
欧米諸国が嘆いている間に、中国はさらに加速する。レアアースの未知の性質をさらに研究して新たな利用法を開発しようとする。大学の研究プログラムの中には非常に先駆的なものがあり、あるアメリカ国防総省の研究者は呆然としてこう言った。「わが国の供給網が断ち切られたことだけでも大問題なのに、中国はわれわれより10年も先を行こうとしている。将来、重要な利用法が出てきたときに、その知的財産権をわが国が得られない危険性がある」。中国はその野心を隠そうともしない。ヴィヴィアン・ウー氏が「レアメタルのおかげでテクノロジーの世界的リーダーになりたいのだ」と言うように。

2つの世界ヴィジョンが対立するとき

その間(中国が世界の工場になってから)、欧米は工業政策を無に帰した短期的視点に対して、中国は長期にわたる忍耐を奨励する政策を経済発展によって促進することができた。「その強権主義的な資本主義は[中略]、ほかの専制的な国々を勇気づけた」と、あるインド人研究者は分析する。

安定した成長と安定した政治を同時に得られることが証明された。こうして「北京コンセンサス」、つまり中国の経済発展モデルがほかの新興国の手本になるという考え方が広がった。この考え方は、冷戦終了以降に主流になった、経済発展と民主主義の進歩を根本とした「ワシントン・コンセンサス」に対抗するものだ。レアメタル戦争、そしてグリーンテクノロジーの雇用は今日、新たなイデオロギー闘争をあぶり出していると言ってもいいかもしれない。それぞれの政治システムの原則を通して中国と西洋を対立させるものだ。

文明の衝突というのは非常に西洋的なものの見方だ!」と、哲学者の趙汀陽氏は言う。彼は孔子の教えから着想を得て国際機関の調和を図る「天下」理論を一般に広めたことで中国で有名になった人だ。趙汀陽氏は、西洋と中国の将来の関係について話してくれた。同氏の理論によると、グローバリゼーションの遠心力が「世界の人々をますます互いに依存し合うように仕向ける。すると、軍事的なものであれ、経済的なものであれ、紛争を生じさせるのだが、それはだれにとってもいいことではない」。この平定された世界では「天下」が支配すると、趙汀陽氏は予言する。その「天下」とは、コスモポリタンな指導者エリートを連携し、西洋と中国の価値観を共有し、通信と輸送手段のグローバルグローバル化によってもたらされた新たな力の空間である。「このシステムは平和的な相互作用を生み出し、異なり国民間の理解を向上させる」
高級な料理を満載した食卓を囲んで、ある中国レアメタル界の大物も同じようなことを私たちに語った。「未来の世界はよりオープンで協力的になる」と彼は強調した。その友好的な言葉の当然の帰結として中国は、外交関係を強化した国にパンダを送る「パンダ外交」を強調する。インターネットの動画でも笹を食べたり、でんぐり返しをしたりする様子を見ることができるが、中国を象徴するこの動物に夢中にならない人はいないだろう。パンダを通して、中国は平和的発展の思想を広めようと躍起だ。
私たちは異なる文化の混じった平穏な世界を信じ、夢見ることに惹かれそうになった。しかし、現実が邪魔をする。アメリカの鼻先で、インディアナ州の戦略的レアアース会社を買収した中国は、大がかりな軍事計画を披露し始めた。