じじぃの「科学・地球_66_レアメタルの地政学・スーパー磁石の戦い」

The battle over rare earth metals

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=OhFpa_92jog

中国・内モンゴル自治区の中の包頭市(baotou)

包頭市

ウィキペディアWikipedia) より
包頭市(英語:Baotou)は中華人民共和国内モンゴル自治区に位置する地級市。
市の名称はモンゴル語で「鹿のいる場所」を意味するところから、中国語では「鹿城」とも称された。市のランドマークとなっているのが第一工人文化宮門の前の「人」の字形の彫刻で、頂部の三匹の駆け回る鹿が「鹿城」を象徴している。市区は東河、青山、昆都侖、九原の4つの区に分かれ,建設路と鋼鉄大街で繋がっている。
バヤン鉱区のバイヤンオボ(白雲鄂博)では鉄鋼、レア・アースを豊富に産する。

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レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第5章 ハイテクノロジーの獲得 より

中国にとってレアメタルの独占は最初の勝利だったが、それで満足していないことはすぐに明らかになった。中国はその川下、つまりレアアースを使用するハイテクノロジー産業をわがものにしようとし始めたのだ。

スーパー磁石の戦い

磁界に電流が流れると動力が生じることは知られている。従来、磁石は酸化鉄を主成分とするフェライトで作られていた。しかし、十分な磁場を作るためには、磁石のサイズも重さもかなり大きくしなければならない。「初期の携帯電話の大きさがレンガくらいだったことを覚えているでしょう?」と、ある専門家は冗談交じりに言った。磁石が大きすぎたせいでもあるのだ。
モビリティー関連産業において、軽量化とエネルギー効率化の競争が始まり、より軽く、よりコンパクトなモーターの実用化が課題となった。確かにモーターのサイズが縮小されれば、それを内包する製品のサイズと重さもそれに応じて縮小される。こうした進歩は大幅なエネルギー節減につながる。
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1980年代、レアアース磁石は目覚ましい成功を収め、世界の製造業のあらゆる分野を席巻していた。レアアース磁石の適用特許を有する日立金属がある日本は、工業技術的に絶対的優位な立場にあった。事実、「日本人はその技術を中国に輸出することを禁止した」と除占恒氏は回想する。
この技術移転禁止にも中国は戦意を喪失せず、レアアース資源のほとんどを確保するだけでなく、それを最終製品に応用する先端技術は自分のものにしなければならないと考えた。除占恒氏によると、中国は「自国の産業のためにレアアースの付加価値から利益を引き出す」という隠された意図を持っていた。どんな手段を使ってでも……。
最初は通常の方法によってだった。80年代、磁石製造は主に日本で行われ、世界の需要の多くに応えていたが、やがて中国の磁石産業の甘いささやきに惹きつけられていった。中国の磁石産業は最先端でない磁石を自分たちが製造することで重要でない仕事の荷を軽くしてやろうと日本企業にもちかけた。「中国人は『広東に来なさい! レアアースの低レベル応用を中国で生産すればいい。われわれはローテク分野で何でもやってあげよう!』と誘ったのです」と、あるオーストラリア人コンサルタントは語る。
日本は技術をもっており、中国は低コストの生産を約束した。つまり、日本企業は利益率を上げることができるわけで、中国の誘いに長くは抵抗しなかった。当時、日本には雇用があふれ、円は強かった。中国の誘いはもっともだと考えたのだ。いつの日か、歴史の教科書は、世界第2の経済大国である日本が意図的に競争相手にテクノロジーを輸出したと書くかもしれない。

レアアースシリコンバレー」への旅

2011年10月、さまざまな国から80人にも上るビジネスマンの訪問団が訪れた。中国政府の招きでレアアースについての国際会議に参加するためだ。中国は招待客を魅了したいようだ。訪問団の人々は市の中心街と緑あふれる公園に面したスイートルームのある高級ホテルに滞在するよう手配されていた。そのために空すら晴れ渡っているように思えた。
会議場では包頭市経済振興地区担当の自治区高官、孫永革氏が熱弁を振るう。「包頭市はレアアースの都です! われわれはハイテク企業の到来を歓迎します。必要な鉱物はほとんどすべて供給できますから」
実際、包頭市はテクノロジーを経済発展の要にしている。その牽引力は中国がいやというほど供給できるレアアースの鉱山に近いということだ。孫永革氏はこう主張した。「われわれは単なる原料供給者でいたくない、より手を加えた製品の供給者でありたい。昔の植民地主義者のように資源を採掘しに来て、自国に帰って付加価値を付けようという西洋企業は包頭市には来てほしくない。反対に、テクノロジーを中国に移転する加工企業には門戸を広く開けている」
勧誘か、強制か……鉱物資源供給の利便性に誘われて、多数の外国企業がすでに市の周辺部に広がる120平方キロメートルの経済特区にやってきた。それを証明する数字もある。孫永革氏によると、包頭市は世界総生産量の3分の1にあたる3万トンのレアアース磁石を毎年生産している。先の訪問団もその生産工場を見学した――ジャーナリストは中に入れなかったが。私たちがジャン=イヴ・デュムソー氏に託した小さなビデオカメラは工場の能力を如実に語っていた。「ここはiPhoneiPadに使われる磁石の工場だ」と、デュムソー氏はビデオを見ながら説明してくれた。「欧州のノウハウをコピーした技術を獲得するのに、中国は莫大な投資をしたんだ」
中国は磁石工場の移転とともに、レアアース産業のダウンストリーム(下流部門)、つまりレアアース磁石を利用する産業をすべて包頭市の経済特区に移し始めた。「中国は電気自動車、発光団や風力発電機のタービンの製造も始めた。バリューチェーンすべてが稼働したのだ!」と、デュムソー氏は語った。それ以外にも、「1万トンの研磨剤、1000トンの三元触媒コンバータ、300トンのルミネセンス素材」などと、孫永革氏は数え上げた。

包頭市はもう単なる鉱山地帯ではない。中国人は「レアアースシリコンバレー」という呼び名のほうを好む。同市は3000以上の工場を擁し(うち、50社ほどは外国資本)、どれも高度な設備を有し、何十万人という労働者を雇用し、年間45億ユーロ近い売上を上げている。このペースで行くと、「10年後にはこの市の生活水準はフランス人のそれと同等になるだろう」と、孫永革氏は誇張でなく請け合った。

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北京で出会ったジャーナリストによると、モリブデンゲルマニウムでも同じこと(中国はタングステンの生産の支配権を握っている)が起きている。リチウムやコバルトでも同様だ。「鉄、アルミニウム、セメンt、それに石油化学製品すらそうだ。あらゆる資源について、同じ政策なのです」と、ドイツの工業界の人は警告を発した。中国は複数のレアメタルの合金からつくる新素材にも同じ政策を適用するという。世界中がそれなしにはいられない新たな合成素材を、中国が開発したらどうなるのだろうか? 自国のほかの資源よりも漢代に売ることはないだろう……。供給機器にある鉱物資源のリストに加えて、EUは供給危機状態になり得る合金のリストも作らなければならなくなるだろう。
欧米諸国は、鉱物を支配する者が今後は産業を支配するようになるという危惧を口にするようになった。最初は資源に限定されていた中国への欧米の依存が、その資源に依存するが、その資源に依存するエネルギー転換・デジタル転換のテクノロジーにまで拡大した。「これは非軍事的な紛争なのだろうか? 答えは明らかに”イエス”だ」と、あるアメリカ人レアメタル専門家は言う。われわれが勝とうとしているのか、負けようとしているのか、という問いには、あるフランス鉱物専門家は「われわれは、その状況を把握してすらいない!」と直言した。
当然ながら、中国の戦略は世界中のほかの鉱山国にインスピレーションを与えた。とりわけ、インドネシアのジャワ島の中心にあるジャカルタに。