じじぃの「科学・地球_65_レアメタルの地政学・レアアース戦争・尖閣問題」

China's rare earth monopoly

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=4wPYbSjVrVQ

China control of rare earths as national strategy

Japan to pour investment into non-China rare-earth projects

February 15, 2020 Nikkei Asia
TOKYO -- The Japanese government will cooperate with the U.S. and Australia on investing in processing facilities for rare-earth metals, looking to ease reliance on imports from China.
Rare earths are essential to such high-tech machinery as motors for electric vehicles. But Japan imports 58% of its supply from China, leaving it vulnerable to manipulation by Beijing. Tokyo plans to bring the Chinese share down to 50% or less by 2025.
https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/Japan-to-pour-investment-into-non-China-rare-earth-projects

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

第4章 禁輸下の欧米諸国 より

世界規模の影響を及ぼした貿易戦略

この(2010年9月、中国政府はレアアースの禁輸を宣言した)突発的な出来事の発端は、尖閣問題(中国での呼称は釣魚群島)を巡る、日本と中国の長年の対立だった。尖閣諸島東シナ海の台湾の北東に位置する5つのごく小さな島と3つの岩島からなる。たったそれだけと思われるだろうが、天然ガスと石油の膨大な埋蔵が確認されており、そのために以前から中国と日本が領有権を争っている。

尖閣諸島は1895年の日清戦争後、日本が支配し、第二次世界大戦後はアメリカに占領され、1972年、1972年に日本に返還された。中国は常に日本に対して領有権を主張してきた。2010年9月7日、中国漁船が尖閣諸島沖で漁をしていたところ、日本の海上保安庁の巡視船は、この領海侵犯を挑発とみなし、漁船を拿捕(だほ)した。その後の模様は撮影され、インターネットで見ることができるが、驚くべきものだ。中国漁船の船長は日本の巡視船の命令に従うことを拒否し、巡視船に漁船を衝突させた。船長の逮捕は中国で大スキャンダルとなった。少しでもナショナリズムを呼び起こすものがあればすぐにたきつける中国メディアは、中国国民の怒りを維持する方法を心得ている。
不思議なことに、2週間後の9月22日、中国のレアアースの日本への輸出は、中国公式に禁輸宣言をすることなく停止された。「漁船事件がナショナリズム的反応を凝集させた」と、北京で会ったレアアース企業の副社長である除占恒氏は言う。同氏は「多くの中国企業が自主的に日本への供給をやめたのだ!」と中国政府のレトリックをまくし立てた。世界貿易機構(WTO)に反しないよう、公式には禁輸はなかったという姿勢なのだ。
事件から1年経った後も、日本の工業界はそんな言葉を信じていない。北京から2000キロメートル離れた東京を発った新幹線は、秋空に円錐形のシルエットをくっきりと浮かび上がらせた富士山を迂回した。大阪で、あるレアメタルの輸入業者は自社の倉庫で事件についての自身の見方を語ってくれた。「中国はいつも、天然資源を政治的圧力の手段として利用してきた」
ダークスーツにヘルメットを被ったその人は、精密エレクトロニクス製品に使われるレアアースイットリウムに近づいた。イットリウムは2010年9月に突然、納品されなくなったのだ。「日本の産業界はパニックに陥りました」と彼は言う。レアメタルは日本のハイテク産業にまさに不可欠なものなので、「主婦でも何のことか知っている」。1隻の漁船の事件が日本にとっては大事件に発展したのだ。
まもまく、その危機は世界規模に拡大した。数日後に多くのヨーロッパやアメリカのレアメタル輸入業者は中国からの輸入が激減したことにあわてた。
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前述の大阪のレアメタル輸入業者は、中国漁船拿捕の後、原料不足のために「メイド・イン・ジャパン」のハイテク商品不足に中国が陥るのに気づくまで、6ヵ月は非公式な禁輸が続いたと言う。その間、レアメタル市場はパニック状態だった。供給不足に対する認識が急激に広まり、中国の禁輸によって生じた不安感や中国のトレーダーの投機的なやり方から価格が急騰し、その煽りでほかのレアメタルの価格も上昇した。その結果、世界中で仲買人、トレーダー、輸入業者らが中国の供給者から当てにならない納品の約束を取り付けようとしたり、その前代未聞の混乱の影響を素人の顧客に押し付けようとしたりするのに躍起になった。「とにかく、無茶苦茶でした!需要供給の自然のルールとはまったく関係のないものでした」と、当時を振り返る。

影響力を持つ金属、危機をはらむ金属

こうした状況は特殊なレアメタル市場においてはいっそう深刻になり得る。
●これまで見てきたように、レアメタル市場はまず非常に小さい。生産量は通常の金属(鉄、銅、アルミニウム、鉛など)に比べて非常に低く、レアメタルの世界生産量は鉄鋼のわずか0.01パーセントしかない。
レアメタル市場はごく少数の買い手と売り手によって取り引きされる閉鎖的な市場である。取引する人が少ないほど、彼らによって需要と供給のルールが妨げられる危険性が高くなる。つまり、一供給者のせいで消費する側にパニックが起きる可能性があり、あるレアメタルを利用する新たなテクノロジーの発展によって突然、供給不足になる可能性もある。
レアメタル市場は不透明である。取り引きは目立たないように行われ、明確な手続きもない、というのがルールだ。したがって、ロンドン金融取引所(LME)に上場される一握りのレアメタル以外は公式価格がほとんど存在しない。すべては交渉次第ということだ。買い手は専門誌を見たり、ブローカーが最近の取り引き価格について漏らす中国のSNS「微博」にアクセスせざるを得ない。
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こうした非常に敏感な市場を予測することはほとんど不可能だ。「レアメタル市場は不安定で予測不可能だ」とヴィヴィアン・ウー氏も強調する。レアメタルの安定供給が見込めないなら、せめて今後の計画の端緒だけでも立てられるよう少なくとも安定した価格をあてにできれば、という国や企業の思いはむなしい努力に終わる。フランス地質鉱山研究所(BRGM)の専門家が「レアメタルは危機の金属だ」というように。