じじぃの「科学・地球_61_レアメタルの地政学・イントロダクション」

【中国】F 35戦闘機製造にレアアース400Kg以上が必要!日本に対して切り札にならなかった、対米国には切り札になるのか?…米中貿易戦争(2020 10 16)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=V__DVuD7JVQ

レアメタルの用途 (env.go.jp HPより)

環境省_平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第1章第3節 社会経済活動と環境負荷

地下資源の採掘と持続可能性

レアメタル
世界的な精密機械の普及等に伴い、有用性が高い一方で希少性も高いレアメタルに関する注目が高まっています。
レアメタルは、それぞれ耐熱性、耐食性、蛍光性に優れるなど特殊な性質を有しており、自動車、IT製品などの精密機械の原材料等として、幅広く使用されています。
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h24/html/hj12010103.html

レアメタル地政学 資源ナショナリズムのゆくえ』

ギヨーム・ピトロン/著、児玉しおり/訳 原書房 2020年発行

イントロダクション より

人間は長い間、一般によく知られる鉄、金、銀、銅、鉛、アルミニウムといった金属を採掘してきた。ところが、1970年代からは土中の岩石に微量に含まれるレアメタルの磁性や触媒・光学特性が注目されるようになった。レアアースバナジウムゲルマニウム、白金、タングステンアンチモンベリリウムレニウムタンタル、ニオブなど約30種の金属である。これらのレアメタルは、自然界に最も豊富な金属類に混ざっているケースが多い点が共通している。
自然界から微量に生み出されるあらゆるものと同様に、レアメタルも素晴らしい特性を持つ濃縮物のようなものである。たとえば、オレンジの花の精油を抽出するのはうんざりするほど長いプロセスが必要だが、たった1滴の精油の香りの素晴らしさや治療効果は今なお研究者を驚かせる。コロンビアのジャングルの奥地でコカインを製造することは簡単な作業ではないけれど、たった1グラムの粉でも中枢神経に影響を与えることができる。
非常に希少なレアメタルでも同じことだ。バナジウム1キログラムを生産するにも8.5トンの岩石を、セリウム1キロは16トン、ゲルマニウムは50トン、さらに希少なルテチウムにいたっては1200トンという驚くべき量の岩石から精製しなければならない。レアメタルは、いわば地殻の「有効成分」、驚くべき特質を持つ原子を濃縮したようなものだ。何十億年という地質活動が人類にもたらしてくれたものだ。こうしたレアメタルは精錬されれば、ごく少量で、同量の石炭や石油が生産するより多くのエネルギーを生み出す磁場を作り出す。そこに「緑の資本主義」の鍵がある。何十億トンという二酸化炭素を排出する資源の代わりに、燃焼しない、つまり二酸化炭素を全く排出しない資源を利用しようということだ。
汚染は少ない代わりに、より多くのエネルギーを生産する。レアメタルのひとつに、チャールズ・コリエルという化学者が1940年に発見した元素をプロメチウムと名づけたのは偶然ではない。彼の妻グレース・マリーがギリシャ神話のプロメチウムにちなんだ名前を夫に助言したといわれている。プロメチウムは女神アテナの助けで神々の地であるオリュンピアに秘かに入り込み、天界の火を奪って人間に与えたとされる神だ。
この名前は、人間はレアメタルを制して手に入れた強大な力を雄弁に物語っている。まるで造物主のように、われわれ人類はエネルギー転換の主要な2分野――「グリーンテクノロジー」と「デジタルテクノロジー」――でさまざまな利用をしてきた。なぜなら、よりよい世界はグリーンテクノロジーとデジタル化の結合から生まれるとされているからだ。前者(風力発電機、ソーラーパネル、電気自動車)はレアメタルのおかげで二酸化炭素を排出しないエネルギーを生産し、エネルギーを節約できる「超効率的な」送電線で電気を送ることができる。しかも送電は、これもレアメタルが多用されたデジタルテクノロジーによって制御される(レアメタルの主な用途は画像参照)。
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イギリスは石炭生産における主導権のおかげで19世紀に支配的地位を築いた。20世紀の世界的事件の多くは、石油の生産とその輸送経路の安全保障におけるアメリカとサウジアラビアの影響力というプリズムを通して見ることができる。21世紀はある国がレアメタルの輸出と消費における支配的地位に就こうとしている。それは中国だ。
まずは経済面と産業面でこのことを確認してみよう。エネルギー転換に取り組むということは、中国という虎口に飛び込むことだ。中国はエネルギー転換のふたつの柱である低炭素化とデジタル化に欠かせないレアメタルの多くについて支配的地位にある。ほとんど独占していると言っていい。後で詳しく述べるが、レアメタルのなかでもとくに希少で代替品を見つけるのが難しいもの、多くの企業にとって欠かせない戦略的なレアメタルの唯一の供給者であるという唖然とするような状況なのだ。

こうして欧米諸国はグリーンテクノロジーとデジタルテクノロジー、つまり未来産業の根幹の運命を一国の手に委ねてしまった。レアメタルの輸出を制限することで、中国は自国のテクノロジーの成長を育み、世界中を相手にした経済的対立を強めている。結果として、フランス、アメリカ、日本で経済的、社会的に大きな問題が起きている。

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しかし、欧米はまだレアメタル戦争に負けてはいない。中国は重大なミスを犯した。欧米はまだ抗戦できる。われわれがまだ知らない技術革新が富とエネルギーを生産する方法を変化させるだろう。
ともかく、本書で語りたいのは来たる世界へのアンチテーゼである。進歩を約束するテクノロジーの数奇な運命の隠された話であり、解決策よりもむしろ多くの危険をもたらす野心に満ちた将来の舞台裏である。