じじぃの「科学・地球_38_世界史と化学・夢の物質の暗転・DDT」

Climate 101: Ozone Depletion | National Geographic

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aU6pxSNDPhs

Ozone hole

Causes and Effects of Ozone depletion

pinterest.jp Ozone hole
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フロンによるオゾン層の破壊

気象庁
1970年代半ば、人工的に作り出された物質であるクロロフルオロカーボン類(CFC 類:フロンとも呼ばれます)がオゾン層を破壊する可能性が指摘されました。
フロンの多くは、かつてはエアコン、冷蔵庫、スプレーなどに使われ、大気中に大量に放出されていました。 フロンは、地上付近では分解しにくい性質をもっているため、大気の流れによって成層圏にまで達します。
高度40km付近の成層圏まで運ばれると、フロンは強い太陽紫外線を受けて分解し、塩素を発生します。 この塩素が触媒として働きオゾンを次々に壊してゆきます。
オゾン層を破壊する物質には、フロンのほかにもいくつか存在し、消火剤につかわれる ハロンなどの物質が放出する臭素によってもオゾン層が破壊されます。
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-25ozone_depletion.html

ダイヤモンド社 絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている 左巻健男(著)

【目次】
1  すべての物質は何からできているのか?
2  デモクリトスアインシュタインも原子を見つめた
3  万物をつくる元素と周期表
4  火の発見とエネルギー革命
5  世界でもっともおそろしい化学物質
6  カレーライスから見る食物の歴史
7  歴史を変えたビール、ワイン、蒸留酒
8  土器から「セラミックス」へ
9  都市の風景はガラスで一変する
10 金属が生み出した鉄器文明
11 金・銀への欲望が世界をグローバル化した
12 美しく染めよ
13 医学の革命と合成染料
14 麻薬・覚醒剤・タバコ
15 石油に浮かぶ文明

16 夢の物質の暗転

17 人類は火の薬を求める
18 化学兵器核兵器
https://www.diamond.co.jp/book/9784478112724.html

『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』

左巻健男/著 ダイヤモンド社 2021年発行

16 夢の物質の暗転 より

沈黙の春』の警告

  アメリカの奥深くわけ入ったところに、ある町があった。生命あるものはみな、自然と一つだった。その町には豊かな自然があった。ところが、あるときから家畜や人間が病気になり、死んでいった。野原、森、沼地――みな黙りこくっている。まるで火をつけて焼き払ったようだ。小川からも、生命の火は消えた。
  庇(ひさし)のといのなかや屋根板のすき間から、白い細かい粒がのぞいていた。何週間前のことだったか、この白い粒が、雪のよう、屋根や庭や野原や小川に降りそそいだ。
  病める世界――新しい生命の誕生をつげる声ももはやきかれない。でも、魔法にかけられたのでも、敵におそわれたわけでもない。すべては、人間みずからまねいた禍(わざわ)いだった。本当にこのとおりの町があるわけではない。だが、多かれ少なかれこれに似たことは起っている。
  これらの禍いがいつ現実となって、私たちにおそいかかるか――思い知らされる日がくるだろう。いったいなぜなのか。
これは、アメリカで1962年に出版されたレイチェル・カーソン(1907~1964)著『沈黙の春』(新潮文庫)の冒頭にある「明日のための寓話」の要約である。
彼女は、ベストセラーとなった同書の中で、おびただしい合成物質(多くは農業)の乱用に警告したのだ。その「白い細かい粒」の代表がDDTである。DDTは、有機塩素系殺虫剤のジクロロジフェニルトリクロロエタンの略である。

DDTとは

1874年時点で、DDTは合成されていたが、「殺虫」の特性は発見されていなかった。スイスのパウル・ヘルマン・ミュラー(1899~1965)が1939年、第二次世界大戦中にDDTが効き目の強い殺虫剤であることを確認する。彼は、「虫が薬を食べなければ死なないというのでは効き目が弱い。虫の体についただけで、麻痺させるような毒薬(接触毒)はつくれないものか?」と考え、天然物質や合成物質を調べた。そして、接触毒を持ち、しかも日光にも強い殺虫剤DDTを発見したのだ。
彼は、DDTをジャガイモ畑を荒らすカブトムシの幼虫にふりかけた。すると幼虫はすぐに地面に落ち、翌朝にはみな死んでいた。
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時代は第二次世界大戦の最中。戦争に不衛生はつきものだ。DDTの高い殺虫活性が戦場における疫病の回避に役立ち、兵士の健康を維持できることを知ったイギリスとアメリカは1943年頃にDDTを工業化し、マラリア発疹チフスといった病気を媒介する蚊やシラミを退治して、患者を激減させることに成功した。
終戦後、日本に入ってきたアメリカ軍は発疹チフスを媒介するシラミの撲滅のため、日本人の体に真っ白になるほどDDTをかけて回った。空襲により街が破壊され衛生状況の悪くなった当時の日本では、発疹チフスにより数万人規模の死者が出ると予想されていたが、DDTの殺虫効果によって予防に成功。1950年代には日本では見られなくなった。
DDTは日本だけではなく、発展途上国などで、昆虫を原因とする感染症の撲滅に一役買った。DDTの殺虫効果の発見の功績によって、1948年、ミュラーノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、感染症撲滅への貢献があったためである。

代替フロンの問題点

そこで(フロンによるオゾン層の破壊)、従来のフロンと同等の性質を持ちながら、オゾン層を破壊しない物質の開発が進められた――「代替フロン」の誕生だ。代替フロンには、塩素原子をふくまないもの、あるいは、オゾン層に到達する前に分解されてしまうものがある。

ところが、この代替フロンにも問題があった。代替フロンオゾン層を破壊する性質は弱いものの、二酸化炭素の数千~数万倍も温室効果が大きい物質だったのだ。フロンにも温室効果があることはわかっていたが、「オゾン層破壊」がより問題視されたため代替フロンの開発の際には考慮されなかったのである。

現在、フロン類の代替品としてイソブタンや二酸化炭素が使われている。イソブタンは石油由来の物質であり可燃性。二酸化炭素は不燃性ではあるが、熱効率が悪いのが難点だ。
合成物質は、人間生活を便利で豊かにしてきた。
その一方で、合成物質のなかには自然環境や人間生活に対して重大な影響を及ぼすものがあることが次第に明らかになった。DDTやフロンはその2例にすぎない。