じじぃの「科学・地球_30_世界史と化学・土器からセラミックスへ」

ファインセラミックスとは?

●名付け親は京セラの創業者
金属、有機材料、セラミックスは「三大材料」と呼ばれています。Ceramics(セラミックス)の語源は、粘土を焼き固めたものを意味するギリシャ語のKeramos(ケラモス)と言われています。
もともとは陶磁器を、最近では耐火物、ガラス、セメントを含む非金属・無機材料を指して使用されることが多いようです。そのようなことから、現在では、セラミックスは、「非金属・無機材料で、その製造工程において高温処理を受けたもの」となります。
https://www.kyocera.co.jp/fcworld/first/about.html

ダイヤモンド社 絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている 左巻健男(著)

【目次】
1  すべての物質は何からできているのか?
2  デモクリトスアインシュタインも原子を見つめた
3  万物をつくる元素と周期表
4  火の発見とエネルギー革命
5  世界でもっともおそろしい化学物質
6  カレーライスから見る食物の歴史
7  歴史を変えたビール、ワイン、蒸留酒

8  土器から「セラミックス」へ

9  都市の風景はガラスで一変する
10 金属が生み出した鉄器文明
11 金・銀への欲望が世界をグローバル化した
12 美しく染めよ
13 医学の革命と合成染料
14 麻薬・覚醒剤・タバコ
15 石油に浮かぶ文明
16 夢の物質の暗転
17 人類は火の薬を求める
18 化学兵器核兵器
https://www.diamond.co.jp/book/9784478112724.html

『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』

左巻健男/著 ダイヤモンド社 2021年発行

8  土器から「セラミックス」へ より

焼成レンガとインダス文明

世界史で四大文明とは、エジプト、メソポタミア、インド、中国に発祥した古代文明の総称である。
いずれも、ナイル、ティグリス・ユーフラテス、インダス、黄河の大河流域で起こった。
このうち、インダス文明(紀元前3000~紀元前1500。最盛期は紀元前2350~紀元前800頃)は、20世紀初頭、インドを統治下に置くイギリスにより、ハラッパ―遺跡とモヘンジョ・ダロ遺跡(ともに現パキスタン)が発見され、調査によって実態がわかってきた。この文明はインダス水系を中心にして、東西1600キロメートル、南北1400キロメートルにわたる広範な地域で築かれた。
インダス文明の特徴は、焼成レンガで建てられた建造物群と、きわめて綿密に計算された都市計画にある。
市街地は、全域がほぼ東西南北に走る5、6本の大通りによって区画され、さらにそれぞれは、ほぼ直角に交差し小路によって碁盤目状にくぎられていた。密集して建つ家々は焼成レンガで建てられており、各戸に井戸があり、炊事場や洗濯場が併設されていた。各戸からの排水は、レンガ造りの下水道へと導かれていたのだ。
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インダス文明の滅亡は世界史の大きな疑問の1つだ。原因には諸説あり、たとえば「膨大な焼成レンガをつくるために過剰に森林が伐採され、大洪水の原因に1つになった」などの自然環境悪化説などがある。インダス文明の後、インド北部は、アーリア人によるハラッパー農耕文化に変わっていく。おそらくはインダス文明は完全に途絶えて終わったのではなく、さまざまな面で後のインド亜大陸の文化の大きな源流となっているのだろう。

中国での磁器の発展

陶磁器のなかの磁器のうち、白磁は中国の南北朝時代北斉(550~577年頃)に始まるが、唐代(618~907年)に発達し、次の宋代(960~1279年)に最盛期を迎える。カオリン(白陶土)、石英、長石などを原料にした粘土で、1300℃台の高い温度で焼成してきれいな白色の硬質磁器をつくった。できあがったものは、強くて、軽くて、透明感を持ち、きわめて滑らかな美しい器になった。
中東や西洋の貿易商は、この硬質磁器に大きな商品価値を見出した。当時のヨーロッパ人は飲み物を木材、銀、土器の器などで飲んでいたためだ。17世紀、硬質磁器が飲茶の作法とともに中国からヨーロッパに輸出され、次々で熱狂を巻き起こした。
そして、中国の陶磁器は宋・元・明・清の時代(960~1912年)を通して重要な輸出品となり、遠く西アジア、ヨーロッパにも運ばれた。インド洋を経てイスラム圏に運ばれたルートは「陶磁の道」と呼ばれた。
磁器は12世紀には朝鮮へ伝えられ、江戸時代初期より朝鮮の陶工により日本でもつくられるようになった。有田焼、伊万里焼が有名だ。

セラミックスとファインセラミックス

日本の焼き物は縄文土器から始まるが、およそ1500年前からは「ろくろ」を利用し、窯を使って土器を約という技術が日本に入ってきた。約1300年前には釉薬を用いるようになり、焼き物に色を付けることができるようになった。そして、100年ほど前に、焼き物の世界にも工業化の波が押し寄せる。トンネル窯で、大量に焼き上げられるようになったのだ。
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最近では精製した原料を用いて耐熱性や硬度以外の新しい性質を備えたセラミックスが広く使われるようになっている。このため、現在では「非金属の無機材料で製造工程において高温処理を受けたもの」全般をセラミックスと呼ぶようになった。
私たちの生活のなかで、セラミックスとしてすぐ目に付くものとして、たとえば包丁や皮むき器の刃があげられる。これらは、ジルコニア(酸化ジルコニウム)を原料とし、硬くて(ダイヤモンドの次に硬い)頑丈で粘りのある性質を利用している。セラミックスの刃のナイフ類はさびにくく、切れ味も長持ちし、食べ物の匂いが移りにくいといった特徴もある。

なお、高い精度や性能が要求される電子工業などに用いられるセラミックスを、ファインセラミックスと呼び、区別することがある。

たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム)は、窒化ケイ素と同様に耐熱性、耐摩耗性、絶縁性といった優れた性質を備えているので、これを利用して、IC基板、切削工具、軸受け、ノズルなどに、窒化ケイ素は自動車のエンジン部品、ベアリング、切削工具などに利用されている。
また、ジルコニアは融点が2700℃と高いため、耐熱性セラミックス材料である。酸素センサーとしてはたらくので酸素濃度の測定に用いられて、自動車エンジンの燃費の向上、排ガスの浄化の最適な燃焼条件の設定などの用途に利用されている。なお、立方晶ジルコニアは、透明でダイヤモンドに似て高い屈折率を有することから、宝飾品としても用いられているのだ。
チタン酸バリウムコンデンサー部品に、チタン酸ジルコン酸鉛は圧電素子や圧電振動子、超音波洗浄機、赤外線センサーに、酸化スズは可燃性ガスのセンサーとして利用されている。
また、アルミナ、ジルコニアハイドロキシアパタイト(歯や骨の成分物質)などは、バイオセラミックスとして人工関節、人工歯根や人工骨などにも用途が広がっている。
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セラミックスは容器の形になっただけではない。かわら、土管、タイル、レンガなどの建築材料や、台所の流し、トイレの便器などのセラミックス衛生用にとさまざまな形になった。コンクリートをつくるセメントとして、鉄筋コンクリートやダムなど社会の土台にもなっていった。
さらに高性能のファインセラミックスまで、ずいぶんと進化した。今後もさまざまな種類と用途が研究・開発されていくだろう。
セラミックスは金属やプラスチックと比べると、「最後には土壌に戻る」という大きな利点がある。