じじぃの「歴史・思想_497_思考地図・視点・ルーティンの外に出る」

Brave New World - Official Trailer (2020) Sci-Fi

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=AyPL5VKSLnc

Michael Young

マイケル・ヤング (社会学者)

ウィキペディアWikipedia) より
マイケル・ヤング(Michael Young, Baron Young of Dartington、1915年8月9日 - 2002年1月14日)はイギリスの社会学者、社会活動家、政治家である。
メリトクラシーと言う造語を初めて使用したことで知られる。ダーティントン男爵と言う称号を持つ。

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筑摩書房 エマニュエル・トッドの思考地図 エマニュエル・トッド 著 大野舞 訳

【目次】
日本の皆さんへ
序章 思考の出発点
1 入力 脳をデータバンク化せよ
2 対象 社会とは人間である
3 創造 着想は事実から生まれる
4 視点 ルーティンの外に出る
5 分析 現実をどう切り取るか
6 出力 書くことと話すこと
7 倫理 批判にどう対峙するか
8 未来 予測とは芸術的な行為である
https://www.chikumashobo.co.jp/special/emmanuel_todd/

エマニュエル・トッドの思考地図』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 筑摩書房 2020年発行

4 視点 ルーティンの外に出る より

現実を直視する条件

どうすれば現実が見えるようになるのか。断定したくはありませんが、私には現実が見えているという未確認の原則をベースに話を進めるとしましょう。なぜ私は極右政党に投票する労働者階級の人々が見ている現実を理解できるのか、そしてそれに加えて、なぜソ連の崩壊やアメリカの脆弱化を予測できたのでしょうか。
社会をよりよく理解するための条件として挙げられるのは、個人的な経歴や出身地などにおいて、その社会の外側に属している部分があるということです。いわゆる「外在性」です。文化的な意味で社会とのあいだに不一致を抱えていたり、外国出身だったり、あるいは宗教などにおいてマイノリティに所属していたり、とにかく一部が社会の外側にいるということが重要です。
そういう意味で私はこの条件にぴったり当てはまってしまうのです。私の家系は外国出身ですし、そもそもの出目が非常に多様なのです。同時に私の家系はフランス系ユダヤ人でもあり、知識人階級に属しています。ただしユダヤ人ということもあっても、信者として信仰を実践するユダヤ教徒ではありません。実践を伴うユダヤ教徒であることは、社会を理解するという意味ではあまり役に立ちませんからね。私の家族のなかには、ユダヤ人であることはいろんな扉を開いてくれるが、そのためにはユダヤ教から脱することが条件だとされていました。
ほかにもたとえば、カトリック教徒がマジョリティのフランス社会において、プロテスタント系のインテリであるというのは、この構図と同じ本質を持っているわけです。このユダヤ系であるということは、私に宗教に対する一種の懸念を残しました。それと同時に、宗教の相対化をも促したのです。なぜならば私の家系はユダヤ教からは離脱したからです。その後、私の家族はカトリックプロテスタントと混ざり合ってきましたし、一部はムスリムもいるくらいです。それからもう1つの家系、父方の出身についてですが、こちらはイギリスから来た家系です。そしてこちらは、知性の面でいうと、非常に経験主義を大切にしています。これはフランスの文化と真っ向から対立するものです。

別の世界を想定する

つまり、自分の社会に正しい視点を持つためには、その他の社会をいくつも見ること、そして自分の社会をその外の世界と関連づけて考えることが必要なのです。それは自分の家から出るということにどこか似ています。これは明確なわかりやすい話ではないでしょうか。
ちなみに先に述べたマイケル・ヤングについて補足すると、彼は『メリトクラシーの法則』や、ロンドンの労働者階級の風習を描いた『イースト・ロンドンにおける家族と親類関係』(未邦訳)などを書いた人物です。彼はフィールドでの研究を続けた敬虔主義者で、1950年代の親族関係の構築のなかでの母親たちの役割などについて研究しました。そして高学歴化が能力レベルを口実に人々を選別していくことを理解した彼は、『メリトクラシーの法則』のなかで、それがマルクス主義が言うところの経済格差に根ざした階級化よりも、さらにゆがんだかたちで社会を階層化していくと言ったのです。
なぜならばこの社会では、成功者はその成功に対して自分たちにはその価値があると認識し、一方で教育レベルの低い人々もまた、その状況が正当なものであると認識してしまうからです。ですから私にとってマイケル・ヤングは最も尊敬する人物です。彼はエリートと大衆の対立を理解した人でした。それから、最近ではデイヴィッド・グッドハートも同様のことを述べていて、彼も著作のなかでヤングを引用しているのです(『「どこか」に続く道』、未邦訳)。
さて、ヤングが外在性の条件に当てはまるかどうかはわかりませんが、彼の本はSFエッセイのような見せ方をしています。本自体は1950年代終りのものですが、主人公が2034年の時点に立ち、2033年までのイギリスで何が起きたのか、その過去を振り返るという作りになっています。そもそもSFというジャンルはイギリスが生み出したものです。

マイケル・ヤングH・G・ウェルズなどを拠りどころにしています。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』やジョージ・オーウェルの『一九八四年』などもイギリスの作品ですね。イギリスにはSFと社会の未来とを結びつける伝統があるかもしれません。

とにかくヤングは、そうであるかもしれないような別の世界を構築し、そこから未来の社会を捉え直したのです。そして実際に今日、ヤングが描いたような社会が訪れているのです。
私自身もSFはたくさん読みました。SFというのは自分で創造できる外の世界なのです。つまり、自分の社会を見るためにはそこから出ないといけないのです。井戸から出る蛙というような感じです。社会から逃げることが大切なのです。フイリップ・K・デックのようにドラッグをしろとは言いませんが。

別のかたちで刺激を与える

私は自分自身のことはかなり理解できていると言えます。そして自分自身をデータ化してみて1つはっきりと言えることは、アイディアが浮かぶのは鬱状態に陥っているときなのです。元気なときは絶対、何1つ浮かびませんから。不幸な天才というイメージを作りたいわけでは決してありません、別に特に不孝なわけでもないですから。何か突破できた、と感じるとき、「ああ、やっぱり。いま精神的に落ちているからだな」と納得することはよくあるのです。

さて、以上のことを踏まえて、私なりの助言をまとめましょう。

(1)思考の面では自分の国に留まらず、外へ行ってしまいなさい
(2)SFを読み、想像の世界へ行きなさい
(3)すでに死んだ人の作品をより多く読みなさい
(4)恋愛面で危機にあるときほど研究に邁進しなさい
こうしていつもとは違う刺激が与えられることでアイディアが浮かぶ、つまり思考が進むのです。私の場合は感情面で不安定になったときにも、思考が一歩進むという経験をするのですが、外的な刺激によって思考がルーティンから出るということが重要なのです。