じじぃの「歴史・思想_499_思考地図・出力・書くことと話すこと」

Emmanuel Todd : ≪ Les inegalites n'augmentent pas dans l'ensemble ≫

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=0SH9YJfdE78

Emmanuel Todd:From dechristianization to ideology

E.トッド著/21世紀フランスの階級闘争 (未邦訳)

LES LUTTES DE CLASSES EN FRANCE AU XXIE SIECLE (SCIEN HUM (H.C))

●基本説明
Macron et les Gilets jaunes ont ouvert une page nouvelle de l'histoire de France, qui mele retour des luttes sociales et apathie politique, sursaut revolutionnaire et resignation devant les degats de l'euro, regain democratique et menace autoritaire.
Pour la comprendre, Emmanuel Todd examine, scrupuleusement et sans a priori, l'evolution rapide de notre societe depuis le debut des annees 1990 : demographie, inegalites, niveau de vie, structure de classe, performance educative, place des femmes, immigration, religion, suicide, consommation d'antidepresseurs, etc.
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-02-9782021426823

筑摩書房 エマニュエル・トッドの思考地図 エマニュエル・トッド 著 大野舞 訳

【目次】
日本の皆さんへ
序章 思考の出発点
1 入力 脳をデータバンク化せよ
2 対象 社会とは人間である
3 創造 着想は事実から生まれる
4 視点 ルーティンの外に出る
5 分析 現実をどう切り取るか
6 出力 書くことと話すこと
7 倫理 批判にどう対峙するか
8 未来 予測とは芸術的な行為である
https://www.chikumashobo.co.jp/special/emmanuel_todd/

エマニュエル・トッドの思考地図』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 筑摩書房 2020年発行

6 出力 書くことと話すこと より

学ぶことや理解すること、アイディアを得ることの喜びとは。本来それだけで存在するものです。本を読むだけで満足する人もいるでしょうし、自分なりのアイデアを得たとしても、必ずしもそれを広く人々に知らしめたいとは思わない人もいるかもしれません。ではなぜ、それをアウトプット――それは具体的には、「話すこと」と「書くこと」という2つのかたちをとります――しようと思うでしょうか。
私の場合、もっともシンプルな答えは、それが学者の仕事だから、というものです。書籍であれ、論文であれ、あるいは講演やインタビューであれ、何らかの手段を通じて自分の研究や考えを表明することというのは、学者であればだれでもやらなければいけないことです。
それから個人的なことを言えば、書くことや考えを表現することについては、私の家系のなかにそれに対する断固とした決意のようなものが存在するのだと思います。私の父親は有名なジャーナリストとしてさまざまなメディアに執筆し、小説なども書いていました。そして私の祖父はポール・ニザンです。若くして亡くなったので私自身は直接知らないのですが、このように著述家として本を書くことで人々に語りかけるという行為は、非常に平凡ですが、家系のなかで脈々と継がれてきたのです。

ディクテーションという方法

書くという作業について、新たな試みの話をしてみたいと思います。まず、私は頭のなかで物事がしっかりと明白になってからでないと書き始めません。書くという行為は私にとっては頭のなかでしっかりと構築されたモデルを放出するという作業です。もちろん書くことで改善ももたらされますが、私は書くと言う行為自体にはあまり関心がないのです。
ですから最新作に関しては、リサーチなどはもちろんしましたし、章立てもすべて頭で考えましたが、書くという作業に関しては章ごとに友人に口頭で話をし、彼に託したのです。いわゆるディクテーションという手法です。もちろん出来上がった原稿はすべて読み直し、かなり修正などもしました。今回は初めてこのような手法をとりましたが、フランス社会の構造の発展に関する分析から入り、完全なそして新しい社会モデルについてきちんと提示しています。
すべては私の頭のなかで完成します。というのもモデル自体はたいてい非常にシンプルな要素から成り立っているものだからです。構想を目もやカードでまとめたりすることもしません。私の書き方は、それこそ高校で教わるようなオーソドックスな組み立てそのものですから。新刊は、『21世紀フランスの階級闘争』というタイトルですが、これは明らかにマルクスが説いたフランスの階級社会を意識しているわけです。ですから私も、マーストリヒト条約以降のフランス社会の発展について描くために、マルクス主義的な概念を使って出発しました。

章立てはチェックリスト

始める前にすでに構成も頭のなかにありました。章立てといってもスタンダードなものです。第1部では社会構造を描写しました。そこでは、意識されているもの、潜在意識レベルのもの、それから無意識レベルのものといういつもの変数を用い、まず最初に経済から入ります。その次に教育、家族、人口、そして宗教まで広げます。
それから第2部では1992年から2017年の政治的な発展について考察し、「危機」と題した第3部ではマクロンの当選、黄色いベスト運動、マクロン支持者たちのリアクション、さらには欧州議会議員選挙について言及しました。このような本の構成については頭のなかで最初から明確だったのです。
なぜそこまで明確だったかといえば、この本が社会に政治的に介入するエッセイのようなものであり、学術書ではないというのがまず挙げられます。もちろん社会学的な意味でとても重要なことを述べたわけですが、書くという作業が省かれることで、データのリサーチとそれを形にする作業にエネルギーを注げましたし、また、話をすると人は自由になります。習慣やら何やらから解放されるのです。この本を作ることで新しい観点を示唆でき、私がこれまで使ってきた家族構造の不変性に関する仮説自体が古くなってしまったことにも気づかされました。
この過程をすべて口頭ですることで効率的に、迅速に進めることができたのです。もちろん、その裏にはこれまでのほぼ半世紀にわたる研究人生があります。つまり、それだけの期間、思考を形にする作業というのに費やしてきたわけです。もちろん、自分が化石化してしまうことは避けなければいけませんが、もう一方ではこの作業そのものが1つのプロセスとして私というハードウェアに埋め込まれたような状態になっているのも事実です。私はこれ以外の作業が何もできない人間なのです。
このように私の場合、章立ては非常にシンプルなもので、基本的に社会人口学的な構造に関する分析から入ります。社会の発展に関する考察をするときは、まず経済発展の描写から始めます。そして社会職業分類の発展、それから教育の発展、家族、人口、宗教の発展を考察するのです。
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私のチェックリストというのは、不平等とその進化、生活水準の発展、出生率や乳児死亡率の変化、社会職業分類の発展などです。これらの変数を対象の空間と時間に当てはめるのです。このように私のチェックリストはとても普通のものなのですが、もしかしたらわりと広範囲をチェックするという点で、特殊だと言えるかもしれません。しかし、作業自体はもはやルーティンと言えるものなのです。
一方でいま進めている学術研究のほうはもっと複雑です。遺伝学に関する研究を読み込み、さらに分析された骨や歯がどこからきた人々のものなのかについて考えるというような作業は、新たな研究技術を含んでいて、理解するのも大変ですし、それをどう利用すべきなのかについてもたくさん悩みます。こうした新しい研究技術には、まずは慣れる作業が必要ですし、非常に疲れるものです。ですからそれに比べるとフランス社会あるいはアメリカやイギリス社会でもいいですが、その発展に関するチェックリストからの分析というのは、インターネットもある今日、私にとって容易なものなのです。