じじぃの「歴史・思想_476_腸と脳・直感的な判断」

The Salience Network | Drugs Live: Cannabis on Trial | Channel 4

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=67SAIei401c

Brain Salience network

Understanding Neurogastroenterology From Neuroimaging Perspective: A Comprehensive Review of Functional and Structural Brain Imaging in Functional Gastrointestinal Disorders

●Abstract
This review provides a comprehensive overview of brain imaging studies of the brain-gut interaction in functional gastrointestinal disorders (FGIDs).
Functional neuroimaging studies during gut stimulation have shown enhanced brain responses in regions related to sensory processing of the homeostatic condition of the gut (homeostatic afferent) and responses to salience stimuli (salience network), as well as increased and decreased brain activity in the emotional response areas and reduced activation in areas associated with the top-down modulation of visceral afferent signals.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6175554/

腸と脳―体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか 紀伊國屋書店

エムラン・メイヤー/著 高橋洋/訳
腸と脳のつながりを研究し続けてきた第一人者が、腸と腸内の微生物と脳が交わす緊密な情報のやりとりが心身に及ぼす影響や、腸内環境の異変と疾病の関係などについての最新知見をわかりやすく解説する。
健康のための食事や生活についての実用的アドバイスも必読。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011570

『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』

エムラン・メイヤー/著、高橋洋/訳 紀伊國屋書店 2018年発行

第7章 直感的な判断 より

私たちが日常生活で下す判断の多くは慎重な熟慮の産物であり、論理に基づく。しかしその一方、分析や理性的な考察を経ずになされる選択もある。その種の選択は、何を食べるか、何を着るか、どの映画を観に行くかなど、意識的な気づきをともなわずになされる場合も多い。
2002年にノーベル経済学賞を共同受賞した心理学者ダニエル・カーネマンは、ベストセラー『ファスト&スロー――あなたの意思はどのように決まるか?』で「直感的な判断は、私たちの行なう多くの選択や判断の背後にあるもの」だと述べた。ここでは、理性的な思考という衣装をまとうのではなく、直感、すなわち内臓感覚に基づいて、自分にとって何が最善かを判断できるという考えが、人間性に対する見方の中心をなしている。
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内臓感覚と直感は、同じコインの表と裏であり、直感は既製の洞察をすばやく手にする能力と見なせる。私たちは、理性的思考や推論を経ずにただちにものごとを見抜き、理解することができる。ときに、何かがおかしいと直感する。見知らぬ人と馬が合うと感じることがある。カリスマ的な政治家のテレビ演説を聞いて、その嘘を確信する。他方の内臓感覚は、自分でアクセスできる独自の広大で深い知恵の体系であり、私たちはその感覚を、家族、高額で雇っているアドバイザー、自称専門家、メディアなどの助言より、強く信頼している。
では、内臓感覚とは正確には何なのか? その生物学的な基盤は何か? 腸が発するシグナルは内臓感覚の生成どのような役割を果たしいるのか? いい換えると、内臓刺激はいつ情動的感情になるのか?
1つの回答は、バド・クレイグが行なった画期的な研究に見出せる。ちなみにクレイグは、脳が身体に、そして身体が脳に傾けることを可能にする神経回路に関して理解を深めた神経解剖学者だ。最新の著書『私たちはいかに感じるか――神経生物学的自己との内受容的な邂逅(How Do You Feel? An Interoceptive Moment with Your Neurobiological Self)』で提起されている彼の考えは、腸、腸内微生物、脳の相互作用について探求する私にも多大な影響を与えた。
内臓刺激の形態で常時送られてくる膨大な情報をもとに、脳が主観的な内臓感覚を構築する複雑な神経生物学的なプロセスは、たとえば目覚めた瞬間、豪勢な料理を食べたあと、長時間のすきっ腹のあとなどに、私たちが感じる主観的な経験の基盤をなす。(マイクロバイオ―タのおしゃべりを含め)腸から送られてくる内受容情報の恒常的な流れが、内臓感覚の形成に必須の貢献を果たし、私たちの情動に影響を及ぼすことを示す科学的証拠は、日々集まっている。
(内臓感覚を含め)感覚とは、脳のいわゆるサリエンス・システムを利用する感覚シグナルを指す。前でも説明したが、サリエンスとは、環境内で際立つ重要な事物や事象が注意によってとられられ、維持されるレベリをいう。本書を読んでいる最中にハチが周囲を飛んでいたら、本の内容よりハチに注意を向ける必要があるだろう。さもなければ、ハチに刺されるかもしれない。戸外に響きわたる雷鳴も、本書からあなたの注意を逸らすはずだ。それに対し、音量を絞ったBGMや、戸外のそよ風には気づきさえしないだろう。脳のサリエンス・システムとは、このように、自分の身体に由来するものだろうが、外界に由来するものだろうが、入力されたシグナルが注意のプロセスに入り、意識にのぼるに値するか否かを評価する仕組みである。
吐き気、嘔吐、下痢などの、内臓刺激に関連するサリエンス・レベルの高いできごとには、通常は不快感、場合によっては痛みなどの痛みなどの情動的感情がともなう。このような情動的感情は注意を向けるに値するものであり、何らかの行動を起こす必要のある重要なできごとが起こっていることを、私たちに報せてくれる。しかし情動的感情は、満足、満腹、完全にリラックスしているときの胃の心地良い刺激など、良好な内臓刺激に結びつく場合もある。脳が何かを際立っていると評価する際に適用される閾値(スレショルド)は、遺伝子、幼少期の経験の質、気分(不安であればあるほど、スレショルドは下がる)、身体刺激に対する注意深さ、それまでの人生を通じて獲得されてきた情動体験の膨大な記憶など、さまざまな要因に左右される。しかし、消化器系に端を発するシグナルに関していえば、サリエンス・システムはたいてい、意識的な気づきの埒外(らちがい)で機能する。つまり、消化器系が恒常的に発している無数の感覚シグナルは、脳のサリエンス・システムで処理されるが、そのほとんどは本人の注意を引くことなく、潜在意識のもとで沸き立つにすぎない。

では、サリエンス・システムは、内臓感覚として意識状に取り上げるべきシグナルを、いかに決定しているのか? このプロセスに必須の脳領域は、サリエンス・ネットワーク(Figure 1. salience network、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6175554/)の中枢たる島皮質である。島皮質と呼ばれているのは、この組織が側頭皮質の下に「隠れた島」として存在しているからだ。脳神経科学者バド・クレイグの画期的なコンセプトと豊富な科学的データに基づいて構築された理論によれば、この脳の「隠れた島」を構成する各領域は、内受容情報を記録、処理、評価し、また、内受容情報に反応する役割をそれぞれ果たしている。

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つまり喚起された感情に対処しようと、何らかの行動を導く衝動が生じるのだ。そしてその時点で、脳に送られた内臓刺激や消化管で生じた事象に応じて、私たちは何かを食べる、排便する、休む、駆け出す、体力を節約する、必死に努力するといった行動を起こそうとする欲求を感じる。このプロセスの流れが前部島皮質に達すると、身体イメージは、私たちが自己の感覚と結びつけている、身体全体の状態を表わす意識的な情動的感情が持つすべての特徴をまとうようになる。私たちはこのようにして、満足、吐き気、のどの渇き、飢え、満腹感、リラックスした気分、気分の悪さを覚える。神経生物学的観点からいえば、これが真の内臓疾患だ。島皮質はこのプロセスにおいて働きを担ってはいるが、この並外れた課題を単独で成し遂げているわけではなく、脳幹のいくつかの神経核や皮質のさまざまな領域を含め、内受容ネットワークに属する他の脳領域と密接な連携を取りながら遂行している。