中国全人代を徹底検証 経済&香港&対米政策 習主席の狙いと実情は 【後編】
動画 fnn.jp
https://www.fnn.jp/articles/-/155302
習近平政権の“外交戦略”は
プライムニュース 「中国全人代を徹底検証 経済&香港&対米政策 習主席の狙いと実情は」
2021年3月12日 BSフジ
【キャスター】長野美郷、反町理 【ゲスト】宮本雄二(元駐中国大使)、興梠一郎(神田外語大学教授)、杜進(拓殖大学国際学部教)
中国の国会「全人代」が、1週間の日程を終えて閉幕。世界に先駆けた“コロナ禍”からの脱却を誇示するかのように、経済目標「6%成長」を掲げた。GDP規模でアメリカに肉薄する勢いを加速する一方、香港に対する“新たな選挙制度”を導入するなど、国際社会の懸念に関しては意に介さない姿勢を貫いている。
国の内外に強硬政策を打ち出す習近平政権は、どのような戦略と展望を描いているのか。外からは見えにくい内情に“危うさ”は無いのか。
●習近平政権の“国家戦略”は
中国・全人代(全国人民代表大会)が7日間の日程を終え、3月11日閉幕。
全人代は毎年の政策方針、予算、法改正を審議する“中国の国会”。
全国の省や市の代表者と軍関係者ら約3000人が参加。
基本政策は党執行部により昨年10月に決定済。
経済界TOPも集まり中期的な方針を周知。
宮本雄二、「前の年に党が基本方針を打ち出しているので、そこに対しては挑戦できない。日頃、住民が困っている問題や農村の人たちが困っている問題については全人代の委員がその場で発言して、それに対して政府がどうするか答える義務がある。大きな方針に関しては党が決めたことをそのままやるということ。中国共産党規約には、中国共産党の中で物事をやる時には中国式根回しをやらないといけないと書いてある」
興梠一郎、「組織法を今回改定した。もともと総則がなかったが、そこに『中国共産党の指導を堅持』と入れた。習近平思想を指導として全人代を運営すると書き込んだ。憲法では全人代は国家の最高機関となっているが、これだと共産党が国家の最高機関の上に行くということ。習近平は中国化政策を打ち出してきた。少数民族、宗教の中国化だ。最終的には中華民族思想に統一化することを目指している」
反町理、「全人代は国家の最高機関であるといいながら、共産党が全人代の上にあるというのはおかしいのではないか」
興梠一郎、「香港の選挙制度の改定のやり方もそっくり。本当は香港の議会で議論しないといけないが、今回は全人代の決定を香港に下して、香港が後でやる」
●習近平政権の“国家戦略”・香港めぐる法改正の狙い
今回の全人代では世界から注目されている香港問題についても新たな動きが見られた。
去年6月に施行された「香港国家安全維持法」に続き、今回の全人代では「選挙制度改正案」が承認された。
全人代議員らの「選挙委員会」が行政長官と議員を事実上選出する仕組みとなり、李克強首相は改正について「愛国者による香港の統治を堅持し、一国二制度を安定的に維持する」と説明。
宮本雄二、「数年前から香港が不安定化して、香港当局が完全になす術がないということで漂い始めた。あれに中国・北京は大変な危機感を持った。中国当局は今、管理することしか考えていない。いかに上手に管理して社会を安定化するか。一国二制度、香港人による香港人の統治、高度な自治をやると彼らは言っている。これをやるためには香港に住んでいる人たちの観点が必要不可欠。今日に至るまでそれが見えていない。全部上からいかに管理するかということで決められている。中英共同声明で英国に対する国際約束だが、中身に修正を加えつつあるのは間違いない。国際社会からは強い反発が出る。中国は最後まで突き進むと思う」
香港の選挙制度改正について。
杜進、「今回の選挙制度の改正は香港の情勢が不安定化して、何年も前から中国政府は考えてきた。政治制度の中でも政府がいて行政府、法による支配、政府の説明責任。今回の改正は基本的に政府の説明責任のところ。他のところで法による支配、行政の独立性が全然動いていない。金融については香港ドル、香港の制度、全然違うことをやる。そういった意味では限定的と考えるべき」
●経済成長の実態とリスク
李克強首相・全人代“政治活動報告”(要旨抜粋)経済政策の方針
・今年の経済成長率目標名目GDP6%以上
・外需依存から内需主導へ双循環実現
・民間と外資の参入で国有企業改革推進など
杜進、「報告の中でも雇用が最初に出てきた。環境、社会保障など様々な問題があって成長のみということではない。目標値を設定したほうが調整しやすいということで6%以上と言う結果になったと思う。いちばん重要なのはおそらく雇用」
宮本雄二、「コロナ対策の頃から眺めているが、李克強首相はよく見てよく状況を分析してそれに対する対応策を打ち出している。国務院で経済を実際に管理しているのは李克強首相という印象を強く持った。地に足のついたしっかりした経済政策をやってきていると思う。今回の全人代の報告を見ても記者会見を見てもそこは変わりない」
6%という数字、双循環という言葉について。
興梠一郎、「中国国内での色々な専門家の議論で李克強首相の出している数字とぜんぜん違う。具体的には北京大学の教授は失業率は20%だといっている。新華社が出している雑誌では100万ぐらい店が潰れていると書いている。人民大学の研究員は統計局が出しているGDPは5%だと発表しているが実質は1.67%だといっている。このことはユーチューブで流れたが、おしかりを受けてその後情報は消えてしまった。報告書に出ている数字は全くどうなのか。失業、財政難、高齢化の構造的な問題。研究者たちの発言の方が遥かに正直だ。構造的に公共事業で経済を回すのがもう難しくなってきている」
●習近平政権の“外交戦略”は
王毅外相・全人代“外交方針会見”(要旨抜粋)対米、対欧、対日。
宮本雄二、「私からすると相当抑えた記者会見をやったなと。中国指導部として米国との関係改善に努めたいと伝わってくる。習近平就任以来やってきた対外政策、国防政策が今日の米国と中国の対立関係の根本にある。それに手をつける気配はない。中国の理性的認識というのは、私から言わせると中国の主観的認識になる。国内で正しいと思われることを対外発信すれば今みたいなことに全部なっていく。王毅外相も日本を離れて長い。今の日本のことをあまり知らないと思う。そのことでこうした発言につながっている面もある。後は国内への配慮」
反町理、「王毅外相が日本に理性的な行動を求めると言っていることをどう思うか」
宮本雄二、「尖閣などを含めて日本は右傾化しているのではないかと言っている。彼の考えは中国の立場だけでしか発言していない」
興梠一郎、「王毅外相の会見内容は支離滅裂で矛盾している。ポイントは習近平国家主席が“日本のメディアに問題がある”と発言したことがある。王毅外相は習近平国家主席の顔色を見て話している。今は強気に出たほうが国内的に有利」
【提言】 「これからの中国との向き合い」
宮本雄二 「戦略的、能動的に」
日本が「クアッド」の一員として行動すれば、中国に対する圧力になるだろう。
杜進 「建設的な競争」
お互いの競争が国の発展につながる。
興梠一郎 「物極必反」
中国は極端な方向に行っている。習近平の言うことに日本は振り回されている。いろいろな国と関係を深めていく。習近平のことをあまり気にしない。
●習近平政権について聞きたい事、言いたい事
視聴者からの質問、メッセージ。
質問者、「香港の再編はあと20数年待てば堂々と実行できたはず、なぜ今のタイミングで国際世論の反発を買ってまで強行したのか」
宮本雄二、「習近平政権は盤石でコントロール出来ているというのが外から見たイメージだが実、実際はそうではないと思う。国内が脆弱だから一生懸命管理しようとする。習近平政権が管理しなくてはいけないということで香港があの事態」
質問者、「習近平国家主席は軍出身でもなく過去の指導者と比べても実績やカリスマ性で見劣りする。何が一強独裁を支えているのか」