じじぃの「歴史・思想_471_腸と脳・心と腸のコミュニケーション」

Inside a Stomach - Guts: The Strange and Mysterious World of the Human Stomach - BBC Four

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=3AUlUH4-13Q

GUT HEALTH DISRUPTORS

Exploring the Connection Between Gut Health and Hair

SEPTEMBER 2019 Practical Dermatology
●GUT HEALTH DISRUPTORS
Threats to a healthy gut microbiome include stress, frequent antibiotic use, poor diet, and other behaviors.
Antibiotic overuse, societal obsession with “germ” avoidance, and use of diet and grooming products antithetical to fostering commensal bacteria have all been cited as potential contributors to the trend for decreased microbial diversity in adults.
https://practicaldermatology.com/articles/2019-sept-supplement/exploring-the-connection-between-gut-health-and-hair

腸と脳―体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか 紀伊國屋書店

エムラン・メイヤー/著 高橋洋/訳
腸と脳のつながりを研究し続けてきた第一人者が、腸と腸内の微生物と脳が交わす緊密な情報のやりとりが心身に及ぼす影響や、腸内環境の異変と疾病の関係などについての最新知見をわかりやすく解説する。
健康のための食事や生活についての実用的アドバイスも必読。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011570

『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』

エムラン・メイヤー/著、高橋洋/訳 紀伊國屋書店 2018年発行

第2章 心と腸のコミュニケーション より

胃腸こそ情動のドラマが上演される劇場であることを、もっと多くの医師や患者が知っていれば、ドラマが患者を主人公とする悲劇と化す可能性を減らせるはずだ。アメリカ人のほぼ15パーセントは、IBS過敏性腸症候群)、慢性の便秘、消化不良、機能性胸焼けなど、胃腸に何らかの異常を抱えている。これらはすべて脳腸相関の障害に分類され、患者は吐き気、腹鳴(ふくめい)、腹部膨満から耐え難い痛みに至るまで、さまざまな症状を呈する。驚くべきことに、胃腸に異常を抱える患者の多くは、その問題が情動状態の反映であることをまったく知らない。
それどころか、その事実を知らない医師も多い。

嘔吐が止まらない男

胃腸病専門医としての長い経歴を通じて、私がこれまで診察してきた患者のなかでもビルは際立つ。52歳の母親に連れられてきた当時のビルは25歳で、胃腸の症状を除けば至って健康だった。驚いたことに、口火を切ったのは母親のほうだった。「どうかビルを助けてください。あなたが最後の望みです。私たちは藁(わら)にもすがる思いでここまで来ました」
それまで8年にわたり、ビルはあちこちの緊急救命室(ER)で相当な時間を過ごしてきた。激しい胃の痛みと、とどまるところを知らない嘔吐に悩まされ続けていたのだ。ひどいときには、1週間に数回、ERの世話になっていた。ERのの医師たちは、苦痛を和らげるために鎮痛剤や鎮静剤を与えるのが関の山で、何が真の問題なのか、誰も的確に把握していなかったらしい。さらに具合の悪いことに、ビルの訴える症状の激しさと診断の結果がマッチしないために、彼が薬物をほしがって病院に来ているのではないかと疑う医師すらいた。
    ・
一般に周期性嘔吐症候群では、強いストレスがかかる人生の重大事を経験することによって発作が引き起こされる。無理な運動、月経、高地での滞在、あるいは長期にわたる心的ストレスなど、見かけは無関係に見えるさまざまな刺激が重なると、発作を引き起こすのに十分な身体的不均衡が生じかねない。意識的か無意識的かを問わず、このような脅威を検知した脳は、生存のために必要なあらゆる機能を調整する脳領域、視床下部にシグナルを送り、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)と呼ばれる、脳(と身体)をストレス反応モードに置く作用を持つストレス分子の分泌を促す。この障害を抱える患者は、CRFシステムがつねに働きかけられていても、数ヵ月、あるいは数年にわたり、症状をまったく呈さないこともある。しかし何らかのストレスがさらに加わると、症状が発現する。
CRFのレベルが一定の限度を超えると、腸を含む身体のあらゆる組織や細胞がストレスモードに切り替える。UCLAの同僚で、ストレスに起因する脳腸相関の障害を専門とする世界的な研究者の一人イヴェット・タシュは、一連の巧妙な動物実験を行なって、CRFがさまざまな身体の変化を引き起こすことも明らかにした。
CRFレベルの上昇は不安の高まりをもたらし、腸からのシグナルを含めさまざまな刺激に対してその人を鋭敏にする。だから激しい腹痛を感じるのだ。

腸内の鏡像

ビルのような周期性嘔吐症候群の患者や、他の脳腸相関の障害を抱える患者に、私が提供できる重要な情報の1つとして、何が苦痛に満ちた症状を引き起こすのか、そしてその患者が抱える症状の治療法の決定に、この知見がいかに役立つのかをわかりやすく説明する科学的論拠がある。単純な説明ではあれ、論拠を示すことで、診断にともなう不確実性がある程度取り除かれ、患者や家族の不安が和らげられる。またもちろん、科学は効果的な効果的な治療を実施するための合理的な基盤を与えてくれる。
私はビルに、彼の脳がCRFを過剰に分泌していることを説明した。脳内でCRFが過剰に分泌されると、不安のみならず、動悸、手の平の発汗、さらには蠕動を逆転させて内容物を上に向かって戻す胃の異常な収縮が引き起こされる。また、結腸の過度の収縮が起こり、それによって痙攣性の痛みが生じ、胃の内容物が下方に送られる。この説明を聞いたビルと彼の母親は、安堵の表情を浮かべていた。というのも、症状に関する科学的な説明を聞いたのは、そのときが初めてだったからだ。
「でも、発作がつねに早朝に現れるのはなぜでしょうか?」と、母親が訊いてきた。その質問に対して私は、「腸内での聖城なCRFの分泌は早朝にピークを迎え、それから正午になるまでゆっくりと減退していくからです」と答えた。だから周期性嘔吐症候群の患者の場合、脳内のCRFが早朝になると不健康なレベルに達する可能性が高い。
    ・
ビルもそのような(適切な治療を受けたこと)経過を辿った。3ヵ月後の再診時には、「発作はたった一度しか起こりませんでした」といった。私が処方した抗不安薬のクロノビンが効いて、発作がほとんど起こらなくなったようだ。彼は、何年にもわたって苦しみ続け、ERの医師たちの屈辱的なコメントをさんざん耐え抜いて、ようやく普通の暮らしを取り戻したことを喜んでいた。私が診察した他の周期性嘔吐症候群患者は、回復するのに認知行動療法や睡眠など他の治療法を必要としたが、ビルは投薬だけで済んだ。彼は再び大学に通うようになり、やがて投薬量も大幅に減っていった。
私たちは、ビルのような患者の症例から大くを学べる。私も、日夜診察室でさまざまなことを学んでいる。就職面接にたいする不安、交通渋滞に巻き込まれたときのいらいら、約束の時間に遅れそうになったときの焦りなどによって引き起こされる正常な内臓反応は、大きな問題ではない。とはいえ、怒り、悲しみ、不安などの情動が恒常的に生じる場合には、腸やそこに宿る微生物に有害な影響が及ぶことを知っておく必要がある。内臓反応が上演される舞台は広大で、登場する俳優は無数にいることを覚えておこう。コップ一杯の水を飲みさえすれば癒せる喉の渇きや、数分しか続かない一過性の痛みは大事ではない。

だが、情動はつねに腸内に鏡像を持つこと、また、恒常的な怒り、悲しみ、恐れは、消化器系のみならず健康全般にも多大な影響を及ぼすことを考えれば、そう安心してはいられないだろう。