じじぃの「歴史・思想_459_サピエンスの未来・進化の複数のメカニズム」

10. Teilhard De Chardin

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=BrN7kpB16WM

Pierre Teilhard de Chardin

PIERRE TEILHARD DE CHARDIN’S LEGACY OF EUGENICS AND RACISM CAN’T BE IGNORED

MAY 21, 2018 Religion Dispatches
Born in 1881, Teilhard wrote dozens of books and hundreds of essays on the intersection of science, theology, and mysticism.
Soon after he began writing on evolution, however, his work was censured by his Jesuit superiors and Pontifical Councils for his desire to see the evolution of humanity as a central part of Christian theology. Nevertheless, Teilhard continued to write, and in doing so produced an expansive corpus of theological, philosophical, and mystical volumes on the possibilities of interacting Christianity with evolutionary biology.
https://religiondispatches.org/pierre-teilhard-de-chardins-legacy-of-eugenics-and-racism-cant-be-ignored/

ピエール・テイヤール・ド・シャルダン

ウィキペディアWikipedia) より
ピエール・テイヤール・ド・シャルダン(Pierre Teilhard de Chardin,1881年5月1日 - 1955年4月10日)は、フランス人のカトリック司祭(イエズス会士)で、古生物学者・地質学者、カトリック思想家である。
主著『現象としての人間』で、キリスト教的進化論を提唱し、20世紀の思想界に大きな影響を与える。彼は創世記の伝統的な創造論の立場を破棄した。当時、ローマはこれがアウグスティヌスの原罪の教理の否定になると考えた。北京原人の発見と研究でも知られる。

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『サピエンスの未来 伝説の東大講義』

立花隆/著 講談社現代新書 2021年発行

はじめに より

この本で言わんとしていることを一言で要約するなら、「すべてを進化の相の下に見よ」ということである。「進化の相の下に見る」とはどういうことかについては、本文で詳しく説明しているが、最初に簡単に解説を付け加えておこう。
世界のすべては進化の過程にある。
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我々はいま確かに進化の産物としてここにいる。そして、我々の未来も進化論的に展開していくのである。
我々がどこから来てどこに行こうとしているのかは、進化論的にしか語ることができない。もちろん、それが具体的にどのようなものになろうとしているのかなどといったことは、まだ語るべくもないが、どのような語りがありうるのかといったら、進化論的に語るしかない。
そして、人類の進化論的未来を語るなら、たかだか数年で世代交代を繰り返している産業社会の企業の未来や商品の未来などとちがって、少なくとも数万年の未来を視野において語らなければならない。人類の歴史を過去にたどるとき、ホモ属という属のレベルの歴史をたどるなら、100万年以上過去にさかのばらねばならない。
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本書では、ジュリアン・ハックスレーやテイヤール・ド・シャルダンといったユニークな思想家の発想を手がかりとして、そこを考えてみたいと思っている。

第2章 進化の複数のメカニズム より

ハックスレーが説く進化の3つのメカニズム

ジュリアン・ハックスレーは、この全宇宙で普遍的に進行している進化が人間進化という新しい相に入ったとき、全く新しい段階に入ったというわけです。人間は特別に発達した脳を持つことによって新しい生活領域、新しい活動領域を開拓し、そこにおける新しい進化の方法を獲得したからです。脳が人間にもたらした高度な知的能力、すなわち、思考能力、推論能力、想像力、コミュニケーション能力などなどを駆使して、人間は1つの文化的な共同体世界を作り上げ、それを共有し、発展させていくことをもって、人間の主要な営みとしたわけです。
人間以前の物質進化、生物進化などと全くちがうのは、そこのところです。人間以外の生物進化が、物質的な自然環境をフィールドと展開されてきたのに対して、人間進化は、人間自身が作り上げた物質的な人工物文明と、人間の精神活動を作り上げた非物質的なカルチャーの双方が入りまじったハイブリッドな世界をその主たるフィールドとして展開されてきたわけです。そして、人間が作り上げた世界は文明も文化も基本的な知的世界です。知的世界という意味は、クレヴァーな世界という意味ではなく、ナレッジ(知識)をベースにして、その上に築き上げられた世界だという意味です。人間活動というのは、すべてが人間社会が歴史家に積み上げてきた共有知の上に乗っかっています。この共有知、知の総体をリファインしながら拡大しつづけ、それを世代から世代へ受け渡していく、これが人間の歴史の主要な骨格であるわけです。
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要するに、ここでハックスレーがいわんとしていることは、すべてを進化の相の下に見るといっても、進化にはちがうレベルの進化があり、そこで必ず創発(エマージャンス)が起きるから、すべてを同じことばで語ることは不可能だということです。
物質進化、生物進化、人間進化、この3つのレベルは決定的にちがうわけです。この3つの大進化によって飛びこえられたギャップはあまりにも大きいから、そこではぜんぜん質のちがう現象が起きている。その各領域で成立しているサイエンスは、みんなちがう方法論を持ち、ちがう概念体系を持っている。だから物質科学の言葉では生物を語れないし、生物科学の言葉では、人間社会に起きている現象、あるいは人間の心の中で起きている現象については語りきれないわけです。
進化のメカニズムも三者みんなちがいます。「無機的進化のメカニズムは物理的な、ときには化学的な相互作用で、それは極端にゆっくり作用」します。「生物進化のメカニズムは自然淘汰」です。それに対して、人間社会における進化のメカニズムは何かというと、「主なメカニズムは文化的圧力を通して働く精神的社会的淘汰である」とハックスレーはいいます。
ここでハックスレーは、人間の精神活動における産物、つまり、観念とか、思想とか、価値観とか、信念、信仰といったもののサバイバル競争についていっているわけです。より多くの人により強く信じられ、支持されるものが、人間社会の精神生活の中で生き残っていく。同様に経済システム、政治システム、法制度のあり方においても、より多くの人に強く信じられ、より支持されるものが生き残っていくというわけです。

「知的巨人」テイヤール・ド・シャルダン

ジュリアン・ハックスレーに近いのは、スペンサーではなくて、実はテイヤール・ド・シャルダンです。テイヤール・ド・シャルダンを知っている人はどれくらいいますか?(手をあげる人はほとんどなし。)そんなに知らないのかな。この人は、進化論者、古生物学者として世界的に有名な人手、20世紀の知的巨人として指おり数えられる人間の一人です。せめて名前ぐらいは知っておいてください。
ユネスコ編『科学と綜合』白揚社を示して)さっき紹介したハックスレーの「科学と綜合」というペーパーは、ユネスコ主催のシンポジウムで発表されたものだといいましたが、このシンポジウムは、この本の副題にもあるように、「アインシュタインとテイヤールをめぐって」開かれたものなんです。このシンポジウムが開かれた1965年は、2人の没後10年にあたるとともに、アインシュタイン一般相対性理論の発表後50年にあたりました。そこでそれを記念して開かれたシンポジウムなんです。されに参加した人たちはというと、オッペンハイマー、ハイゼンブルグ、ド・ブロイといった物理学者、生物学のハックスレー、哲学者のメルロ・ポンティなど、超一流の人たちでした。
きみらはその存在を知らなかったかもしれないけど、テイヤール・ド・シャルダンは、アインシュタインとならぶような20世紀を代表する知的巨人だったんです。死後10年を記念して、これだけの人が集まってシンポジウムが開かれたような人なんです。このシンポジウムの開会の辞を時のユネスコ事務局長のルネ・マウがやっています。それを読めば、もう少しテイヤールのことがわかるでしょう。

ハックスレーとテイヤールの知的交流

テイヤール・ド・シャルダンは、イエズス会の神父でした。イエズス会というのは、知的活動に熱心な組織で、ヨーロッパでは初等中等教育から大学までたくさんの有名教育機関を持っており、そういう教育機関の教師はみんなイエズス会の神父なんですね。そこから有名な学者もたくさん生まれています。
テイヤールは、古生物学者としても大変有名な人で、誰でも知っている業績の1つとしては、北京原人の発掘があげられます。
しかし、彼の進化論には、キリスト教の教義と合わない部分があり、生前は、教会から、著作の発表が禁じられていました。ですから生前は、きわめて一部の人にしか彼の思想が伝わらず、一般には無名のままに終わっています。彼の死後、はじめてこの『現象としての人間』が発表されると、世界的な反響を呼び、それから次々と彼が秘かに書きためていた膨大な著作が発表されていったわけです。
ハックスレーは、生前からテイヤールを知る少数者の一人だったので、この本の出版にあたって、「テイヤール・ド・シャルダン――生涯と思想」という長文の解説をつけ加えています。それを読むと、2人がどういう関係だったか、彼がテイヤールをどう評価していたかがよくわかります。