じじぃの「歴史・思想_456_韓国社会の現在・国民総高学歴社会・ヘル朝鮮」

『韓国社会の現在―超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』

春木育美/著 中公新書 2020年発行

第4章 国民総高学歴社会の憂鬱―「ヘル朝鮮」の実情 より

日本と韓国の学歴観

近似性が高い韓国と日本だが社会の構成員の属性を、学歴という観点から比較すると何がみえるのか。
国際比較でみると、韓国社会は大卒の高学歴者の多さで際立つ。2018年度版『図表で見る教育OECDインディケータ』によれば、若年層(25~34歳)で大卒以上の高学歴者の割合がもっとも多い国は韓国がトップ(70%)で、日本(60%)を上回った。両国はOECD平均(44.3%)と比べてもはるかに高い。
一方で、2009年に韓国の大学進学率(大学登録者基準)は77.8%とピークに達した後、高学歴者の就職難が深刻化するや18年には69.8%に低下した。それでも同年に57.9%だった日本の大学進学率よりは約12ポイント高い。
韓国の高騰教育課程は、大別して4年制の大学課程と、実践的な職業技術教育を行う2~3年制の専門大学過程に分かれている。4年制以上の学科の大学を韓国語では「大学校」と呼び、学校名に「大学」とだけついているのは専門大学である。
在学率でみると、約3割は専門大生である。専門大学を除くと4年制大学の進学率は50%前後となり、日本の短大を除く4年制大学の進学率(53.7%)と、実はほとんど変わらない。つまり、韓国では専門大学の存在が進学率を押し上げているといえる。
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近年、日本では優秀な人材が研究職を目指さなくなっている。博士号の取得者は、韓国や欧米諸億では増加傾向にある。一方、主要国では日本だけが減少している。
文部科学省科学技術・学術政策研究所による2019年の調査によれば、日米英独仏中韓の7ヵ国のうち、人口100万人当たりの博士号取得者数で日本は118人と6位だった。1位は英国の360人、韓国は271人で3位に位置している。韓国の産業界は理系の博士号取得者の増大を求めている。
日本では博士課程に進学しても就職できず、企業からも敬遠されるため「高学歴プア」になる現実が、近年の博士課程離れを深刻化させている。これが日本が先進国のなかで低学歴国に位置づけられる一因となっている。
韓国でも文系の博士号取得者の就職難は日本と変わらないが、高度な知識や学位の獲得に価値を見出す儒教的価値観が強く残ること、大学院進学は兵役延期や就職の準備をする猶予期間として有用なこともあり、進学者は多いままだ。

成均館大学校サムスン財団

「THE世界大学ランキング」の2017版の111位から順位を上げ、18年版で82位とトップ100入りした成均館大学校は、THEの「アジア大学ランキング」で10位に選ばれた。しかも、成均館大学校は国際性、産業界からの収入、論文引用数など研究の影響力の3項目で、韓国のトップ校でアジアでは9位のソウル大学校を上回った。(日本は世界大学ランキングで、東京大学が36位、京都大学が65位)
成均館大学校が躍進した要因は、国際評価機関が重視する項目を意識した改革を次々に進めてきたことにある。留学生に対し「バティ」となる韓国人学生を1対1でつけるなど、成均館大学校は留学生のケアに手厚いことで知られる。留学生数は国内トップ級で、国際性の評価は高い。
産業界からの収入の項目に関しては、1996年からサムスン財団が成均館大学校の運営に参加していることもあり、資金投入が継続的になされているのが強みだ。
韓国では起業との提携により、産学密着型で即戦力となる人材養成を行う学科の設置や運営が盛んである。成均館大学校半導体システム工学科は、こうした企業との提携で設置した学科のモデルケースとして知られている。学生の授業料はサムスンが負担し、卒業後に希望者はほぼ全員、サムスン電子に就職することができる。
成均館大学校は、産業界のニーズの高い学科の設置にも余念がない。新しい産業として有望視されているバイオ医療の分野で、2015年にグローバルバイオ医療工学学科を新設した。産学・官学協力分野での相互協力にも積極的で、国内外のスタートアップ企業の誘致にも熱心である。こうした取り組みが、産業界からの収入の項目で高い評価につながっている。

移民の奨励、「ヘル朝鮮」批判

大韓民国の若者がごっそりいなくなるほど、中東に進出してみたらどうか。あれ、韓国若者はどこに消えてしまったのか。みんな中東に行きましたよ、と言えるくらいに」
2015年3月の貿易投資振興会での朴槿恵大統領の発言である。韓国政府は、かつて炭鉱夫や看護婦が不足した旧西ドイツや建設ブームに沸く中東へ、自国の労働者を積極的に送り出していた。外貨獲得と失業対策のためだった。朴正煕大統領の頃の話だ。
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韓国の20代は、いま自分たちが起これている境遇を「ヘル朝鮮」と自嘲する。ヘル朝鮮とは、韓国社会の不条理なさまを地獄のようだと喩(たと)えた造語である。大韓民国ではなく、なぜ朝鮮なのか。身分が固定した朝鮮時代のように、現代韓国は階層上昇機会が閉ざされた不条理な階級社会であると強調するためである。本人が選ぶことができない出身家庭や出身地域といった、生まれによって人生が決まることへの怨嗟(えんさ)が投影されている。
この造語がよく使われるようになったのは2015年以降で、ネット上に「ヘル朝鮮」というコミュニティサイトが解説されるや、就職難、失業、差別、貧困、政府の政策に対する批判などが次々と書き込まれた。進学から就職問題まで、日々直面している韓国社会の現実がつらくて地獄のようだと訴える書き込みが相次いだ。