じじぃの「歴史・思想_417_社会はどう進化するのか・文化的進化」

What is Cultural Evolution?

What is Cultural Evolution?

The core idea of cultural evolution is that cultural change constitutes an evolutionary process that shares fundamental similarities with - but also differs in key ways from - genetic evolution. As such, human behavior is shaped by both genetic and cultural evolution. The same can be said for many other animal species; like the tool use of chimpanzees or Caledonian crows or the complex social organization of hives for ants, bees, termites, and wasps.
https://culturalevolutionsociety.org/story/What_is_Cultural_Evolution

『社会はどう進化するのか――進化生物学が拓く新しい世界観』

デイヴィッド・スローン・ウィルソン/著、高橋洋/訳 亜紀書房 2020年発行

加速する進化 より

明らかに、進化論の世界観の妥当性を十分に理解するためには、遺伝を含めながらもそれを超える方法で進化を考えねばならない。本章では、ヒトの免疫系、個人としての学習する能力、文化とともに変化する能力という、3つの進化的プロセスをめぐる3つのストーリーを紹介する。これらのプロセスはすべて、遺伝的な進化よりはるかに迅速に生じる。しかしそれらは、遺伝的な進化の産物でもある。言い換えれば、遺伝的な進化は、他のタイプの進化プロセスを生み出し、それとともに共進化してきたのである。そしてこの共進化は、現在も続いている。この拡張された進化の見方は、政策立案に密接に関連する。私たちの周囲や内部で渦巻く迅速な変化に注目するだけでなく、現代の環境に適応するために、私たちは新たな進化プロセスを築いていかなければならない。

人類が持つ文化的変化の能力

私たちの学習システムにも当てはまることだが、免疫系が機能するためには、それを構成する各部位同士の精緻な協調が必要だと、私は指摘した。この協調は、組織間選択の産物である。
原理的に言えば、1世代のうちに学習によって獲得された情報は、洗練し拡張して次世代に受け渡すことができる。ところがそのためには、グループを形成して生きている個体間の高度な強調を求められる。このレベルの協調を促進するにあたっては、おそらくグループ間選択が必要とされるだろう。
第4章(「善の問題」)で学んだように、グループ間選択は、人間以外の社会的な生物においてもある程度作用しているが、グループレベルでのあらゆる形態の協調を制限する、グループ内の個体間の破壊的な選択圧力が強力に拮抗している場合が多い。そのため、個体が生涯を通じて学習した適応は、その個体とともに死に絶え、次世代の個体によって初めから学び直さねばならない。これに対して文化的伝統の継承は人間以外の生物にも認められるちはいえ、明らかにその点で人間は際立っている。私たちの祖先は、グループ間選択が第1の進化的圧力になるよう、グループ内の個体間の破壊的な競争を抑制する手段を発見した。そしてそれによって、学習した情報を世代間で受け渡すことを含め、グループレベルでのあらゆる形態の協調が選好されるようになったのだ。こうして遺伝的進化と並行して文化的進化が作用し始め、2つのプロセスは相互に影響を及ぼし合うようになったのである。
文化的進化が作用している証拠は、それに気づけるようになりさえすれば、私たちの周囲にいくらでもあることがわかるはずだ。ヒトの進化生物学を専攻するハーバード大学教授ジョセフ・ヘンリッチは、著書『私たちの成功――いかに文化はヒトの進化、自己家畜化、知性の獲得を駆り立てているのか(The Secret of Our Success: How Culture Is Driving Human Evolution, Domesticating Our Species, and Making Us Smarter)』で、文化的進化の重要性を巧みに解説している。そこで彼は、まるまる1章を費やして、北極、オーストラリア内陸部の砂漠地帯、アメリカ南西部の砂漠などの、人が住めない地域に残された探検家たちを取り上げている。食糧が底をつき、探検家たちは、現地で食物を調達しなければならなくなる。しかし一人ひとりの知力では何が食べられるのか、どうやって手に入れられるのか、いかに調理すればよいのか、厳しい地形や天候からいかに身を守ればよいのかがまったくわからなくなった。死ぬ者もいた。また、とても住めない土地をわが故郷と呼ぶ、地元の親切な先住民に助けられて生きながらえた探検家もいた。そのような土地で先住民が繁栄していたのは、一人ひとりの知性のゆえではなく、代々の祖先が学習し、文字の支援なしに現世代まで受け継がれてきたぼう大な量の情報のおかげだった。
先住民でさえ、状況によっては蓄積されてきたぼう大な情報を失うことがある。ここでは、ヘンリッチが言及しているよく知られた事例を取り上げよう。オーストラリア大陸の沖合に浮かぶタスマニア島は、かつては陸続きであったが、およそ1万2000年前に海面が上昇したために大陸から分離した。島の人口が少なかったので、情報を蓄積してのちの世代に受け継ぐ集団的能力も低下してしまう。

やがて彼らはより原始的な生活を送るようになるが、その理由は環境が本土と異なっていたからではなく、文化的に獲得された情報を保存できるだけの人数が揃わなかったからである。

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ひとたび見方がわかれば、およそ10万年前に始まる人類の全歴史は、学習による世代間の情報の伝達によって可能になった。高速の進化プロセスとして見ることができる。人類のアフリカからの出立と他地域への移住、狩猟採集民としてあらゆる気候帯やさまざまな生態的地位で暮らす能力の獲得、農夫として食糧を生産する能力の獲得、文字の発明、化石燃料の利用などはすべて、世代間の情報の伝達によって可能になった。本書の冒頭で取り上げた、科学者で司祭でもあったピエール・テイヤール・ド・シャルダンは、人類を生命の木の1つとして想像するよう促した点で時代をはるかに先んじていた。彼によればこの枝は、急速に生育したため、すぐに他の枝より高く成長し、やがて多数の小規模社会(小さな思考の粒)が大規模社会へと合体していったのだ。
したがって世代間の文化の変化は、遺伝的進化、免疫系、そして個人として学習する能力に類似する進化のプロセスと見ることができる。