じじぃの「歴史・思想_419_社会はどう進化するのか・人新世・平等社会へ」

リチャード・ウィルキンソン 「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」

動画 TED
https://www.ted.com/talks/richard_wilkinson_how_economic_inequality_harms_societies/transcript?language=ja#t-138587

The Science Is In: Greater Equality Makes Societies Healthier and Richer

Evonomics
By Richard Wilkinson and Kate Pickett
Inequality is associated with lower life expectancy, higher rates of infant mortality, shorter height, poor self-reported health, low birth weight, AIDS, and depression. Knowing this, we wondered what else inequality might affect. To see whether a host of other problems were more common in more unequal countries, we collected internationally comparable data from dozens of rich countries on health and as many social problems as we could find reliable figures for.* The list we ended up with included:
・level of trust
・mental illness (including drug and alcohol addiction)
・life expectancy and infant mortality
・obesity
・children’s educational performance
・teenage births
・homicides
・imprisonment rates
・social mobility
We start by showing, in Figure 1, that there is a very strong tendency for ill health and social problems to occur less frequently in the more equal countries. With increasing inequality (to the right on the horizontal axis), the score on our Index of Health and Social Problems also increases. Health and social problems are indeed more common in countries with bigger income inequalities. The two are extraordinarily closely related-chance alone would almost never produce a scatter in which countries lined up like this.
https://evonomics.com/wilkinson-pickett-income-inequality-fix-economy/

『社会はどう進化するのか――進化生物学が拓く新しい世界観』

デイヴィッド・スローン・ウィルソン/著、高橋洋/訳 亜紀書房 2020年発行

グループから多細胞社会へ より

地球の全人口は現在およそ76億人である。そしてこの76億人はほぼ200ヵ国に分かれて暮らしているが、統治状態は国によって大きく異なる。NATO、国連、EUなどの超国家的な統治機構は力が非常に弱く、国家は国際的な影響力という側面で巨大な多国籍企業と競い合っている。栽培植物や家畜も加え、私たちは野生世界を急速に縮小させている。地球や大気への人類の集合的な影響は、新たな地質時代を指す「人新世」という新語を生んだ。地球温暖化に関する科学的な予測は、これまではあまりにも控えめであった。地球は、私たちが恐れていた以上に急速に温暖化しつつある。それにもかかわらず、意思決定者の多くはその見方に否定的な態度を示しており、陰惨な真実を正しく理解している人たちも、どう対応してよいのかがわかっていない。
地球レベルで私たちが直面している問題は、理論的な展望がどうであれ、解決するにはあまりにも巨大かつ複雑すぎると結論づけるのは実に簡単だ。しかし、大きさや複雑さの認識は欺かれやすい。
思い出してほしいのだが、私たちの身体は数兆個の細胞から成り、そのうちの数十億個が毎日入れ替わっている。そして他の無数の生物から成る多様な生態系を指す一種の惑星として機能している。しかし、ようやくわかり始めてきたことだが無数のきわめて複雑な相互作用が進行しているにもかかわらず、私たちの身体は、少なくとも健康という面では、スイス製の時計を恥じ入らせるほど精確に機能しているのだ。
あるいは次の事実を考えてみよう。およそ1万年前には、大規模な人間社会は存在せず、数千人からなる部族のみが存在していた。ところが地質学的な時間の尺度からすれば一瞬のあいだに、数百万、あるいは数十億の人口を抱える国家が生まれた。超国家的な統治機構は力が非常に弱いのかもしれないが、2世紀前には想像すらできなかった。1万年前に比べれば、地球規模の健全な統治は、すぐにでも手が届きそうなところにあるように思われる。

過去1万年間

ピーター・ターチンという名の生物学者の分析によれば、文化的進化は、遺伝的進化にも似たマルチレベルのプロセスである。学習行動は、同じグループの他の個人より特定の個人に、また、近隣の他のグループに優位性を与えることで拡大していく。さらには、個人もグループも犠牲にして、リチャード・ドーキンスが唱える「寄生的なミーム」のように、疫病のごとく蔓延することもある。
人間の小グループで働いている規制のメカニズムは、寄生的な学習行動や、同じグループの他のメンバーを犠牲にして特定の個人に利益を与える行動を刈り取ることに非常に長けている。しかしこのメカニズムは、大規模なグループでもうまく作用するようには設計されていない。したがって最初の農耕社会は、皮肉にも小規模の人間より動物の社会によく似た、専制的なものと化した。専制的な人間社会はグループ内の他のメンバーを犠牲にして、エリートで構成される小グループに資するよう組織化されている。
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グループ間選択は、つねにグループ内選択は、つねにグループ内選択を凌駕するというわけではない。人類史を詳細に分析すると、両プロセスとも作用していることがわかる。帝国は、恒常的にグループ的間戦争が生じている地域で成立しているが、グループ間戦争は、協調的な社会の文化的進化のるつぼとして作用する。ひとたび他のグループより大きな規模で協調し合うことが可能な社会が出現すれば、その社会は拡大して帝国になる。すると帝国内で文化的進化が生じ、利己的な行動やさまざまな形態の派閥主義が選好される。やがて帝国は、がんが全身に広がった生物のように崩壊する。

マルチレベル選択と現代

政治史家のダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンが著した『国家はなぜ衰退するのか――権力・繁栄・貧困の起源』や社会科学者のリチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットが書いた『平等社会――経済成長に代わる、次の目標』は、国民に充実した生活を提供する能力に関する国家間の相違を測定し診断している。

左にあげるグラフ(画像参照)は『平等社会』に掲載されている多数のグラフのなかから抜粋したもので、健康と社会をめぐる問題を示す指数を収入格差の度合いに関連づけている。北欧諸国は、日本、スイス、オランダ、とともに、分布の「よいほう」の極に位置する。イギリス、ポルトガルアメリカは「悪いほう」の極に位置し、アメリカに至っては、収入格差でも、健康と社会に関する問題でも、他の国々から大きくかけ離れている。

このグラフや若者たちのもっと一般的な診断によれば、アメリカは自国を組織全体としてうまく規制できていない。