じじぃの「歴史・思想_401_2050年 世界人口大減少・移民を奪い合う時代」

CANADA IMMIGRATION Another Way for All | CANADIAN PR Option You Never Know

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yeuFU1dE5yU

Is Canada asking countries for a million immigrants?

5 June 2019  BBC News
●What is the actual situation?
More than six million immigrants have arrived in Canada since 1990 - and the arrival rate has been steadily rising in recent years.
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-48466771

『2050年 世界人口大減少』

ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン/著、河合雅司/解説、倉田幸信/訳 文藝春秋 2020年発行

移民を奪い合う日 より

人々は以前ほど移動しなくなっている

ただし(およそ5万年前、人類はアフリカを出て地上の他の場所へと移住を始めた)、人は生まれつき移動するようにできているとはいえ、ほとんどの場合は現在の居場所を変えたくはない。家族や友人のいる場所から動きたくはないのだ。産業革命以前人の移動は歩く速度で行われた。軍隊に召集された場合を除き、隣村より遠くに移動する人はほとんどいなかった。今日でも、外国旅行をしたことのないアメリカ人は大勢いる。「押し出される」または「引き寄せられる」ことがない限り、我が家こそ心休まる場所なのだ。
そのうえ、実は我々は以前ほど移動しなくなっている。「旧世界から新世界へ」というかつての大移動はすでに終わっている。「発展途上国から先進国へ」という今日の大移動は、横ばいかおそらく下火になりつつある。1990年から1995年にかけて世界人口のおよそ0.75%が国外に移住したが、2005年から2010年にかけてその比率は0.61%に減っている。中東の難民危機で一時的にこの数値は増えたが、「押し出す動き」の多くがそうであるように、事態が沈静化すれば人の流出は減るし、戻ってくる動きさえ生じる。中東の難民を受け入れた欧州諸国は、シリアやイラクのゴタゴタがうわべだけでも落ち着けば、難民たちも国に帰るだろうと見込んで受けいれたのである。
人が移動しなくなっている、というのは不思議な話である。今ほど移動が楽な時代はない。国際線での移動が大衆化したことで、外国への移動もずいぶん楽になった(空の旅が苦行ではなく倫悦だったころを懐かしむ人は、当時のチケット代がいくらしたかを忘れているのだ)。昔はこうではなかった。旅に生命の危険があったのはそれほど遠い過去の話ではない。一例をあげよう。アイルランドの”ジャガイモ飢饉”の時代に命がけで欧州から北米に逃げてきた人を知っているという人の話を聞いたことがある人は、今でも生きている。

ジャガイモ飢饉でアイルランドを脱した男の孫がJFK

1845年から6年間、アイルランドでは胴枯れ病によりジャガイモの収穫が壊滅的に落ち込んだ。100万人が餓死し、100万人が新生活を求めてアメリカとカナダに移住した。そのような移住者のひとり、30代の青年だったトーマス・フィッシュジェラルドは、飢饉の起きたリメリック州のブラフ村から逃げ出し、1852年にアメリカに到着した。彼は不衛生なぼろ船、通称”棺桶船”にギュウギュウに詰められ(定員の2倍まで乗せるのが普通だった)、大変な時間をかけて(船員の手腕と天候次第で5週間から3ヵ月かかった)大西洋を渡ってきた。船内ではシラミと発症に悩まされ、水と食料はわずかしかもらえなかった。彼らは汚物と病気にまみれて横たわり、死ぬか生きるか綱渡りの船旅だった。ひどい棺桶船になると乗客の死亡率は30~40%に達することも珍しくなく、平均でも乗客の5人にひとりは死亡した。だがフィッシュジェラルドは生き延びた。同じように、ウェックスフォード州のダンガンズタウンの桶屋だったパトリック・ケネディも、なんとか死なずに棺桶船で大西洋を渡った。アイルランドから来たふたちの男はボストンに住み、ビーコンヒルの上流社会からの激しい敵意にも負けずに、肉体労働や食料品店の経営でなんとか生活基盤を築いていく。ふたりはそれぞれ結婚し、子供を持ち、死んでいった。今日、ダブリン空港から8時間もかからずにニューヨークのJFK空港に着く。ふたりの男たちのひ孫、ジョン・フィッシュジェラルド・ケネディの名前を残す空港だ。

左派エリートの姿勢も問題

移民を擁護する左派にも責任の一端がある。移民受け入れの是非を、個人の同情心や忍耐力の問題として扱うからだ。彼らは移民に反対する人を利己的だとし、最悪の場合は人種差別主義者と見る。
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移民は人口減少や高齢化の根本的解決にはならない。1つの理由として、移民はそれほど若くないという点にある。国連によれば、移民の中央年齢は39歳だ。その年齢だと多くの人は、もう新たに子供をつくらないだろう。したがって、移民人口が出生率を上げてくれる可能性は実はとても低い。また、別の理由として、移民は移住先の国の出生パターンにすぐ適応するという点もある。エコノミスト誌は次のように述べている。「移民の出生率が下がる大きな理由は、彼らが移住先社会の生活様式に適応する傾向があるからだ。適応に擁する時間は短く、女の子が13歳未満で移住した場合、元からその国で生まれ育った住人とそっくりに行動するという研究結果もある」
そもそも、もうすぐ移民はほとんど来なくなるかもしれないのだ。どこでも出生率は下がっており、最貧国ですら下がっている。しかも、かつては極めて貧しかった国でも賃金は上昇傾向にあり、移民になる動機は減っている。中国はかつてカナダへの移民を一番多く送り出していたが、今では1位と2位に大きな差をつけられて3位に後退した。データが示すように、ほとんどの人は「押し出される」か「引き寄せられる」かいずれかの力を受けない限り、出生国から動きたいとは思わない。しかもここでいう”力”とは、そっと押すような優しい力ではなく、激しく突き飛ばすような力を指す。今までの生活を根こそぎ捨て、外国で新生活に挑戦するよう促すには、それほど大きな力が必要となる。
それでも、人口減少が目前に迫った国にとって、減少を食い止める当面の最適な方法は移民の受け入れを増やしたことである。移民の申請を受ける国にとって、その移民が押し出されたのか引き寄せられたのかは最終的にはどちらでもいい。移民がその国を必要とするのと同じだけ、その国も移民を必要としているのだから。