じじぃの「歴史・思想_400_2050年 世界人口大減少・信仰心と出生率の関係」

Telenovela NBC Comedy Review

テレノベラ ウィキペディアWikipedia) より

テレノベラ(西・葡: Telenovela)とは、スペイン語ポルトガル語で「テレビ小説」を意味し、ラテンアメリカを中心に製作、放映されているメロドラマのスペイン語及びポルトガル語の名称である。製作国はメキシコ・ベネズエラ・コロンビア等。

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『2050年 世界人口大減少』

ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン/著、河合雅司/解説、倉田幸信/訳 文藝春秋 2020年発行

ブラジル、出生率急減の謎 より

信仰心と出生率の関係

都市化の進行は、子供を資産から負債に変え、女性の自主性と自己決定権を高め、結果として出生率を下げることを我々はすでに知っている。ラテンアメリカで最大の人口を持つブラジルは、全国民の80%が都市に住み、世界でもトップレベルに都市化が進んだ国だ。
すでに1950年には、2000年のアジアやアフリカと同じ程度にまで都市化が進んでいた。その理由は複雑で多数あるが、要するにこういうことだ。旧宗主国ポルトガルは、自国民のブラジル移住もブラジルの農業化も推進しなかった。ただ植民地から富を搾り取り、本国に送ることだけでよしとした。20世紀になるとブラジル政府は輸入代替政策(高い関税で競争相手を閉め出し、国内産業を育成する政策)で自国の工業化を進めたこのため地方在住者が仕事を求めて工場のある都市へと移住するようになった。
都市化がブラジルの出生率低下に一定の役割を果たしたのは間違いない。だがそれだけでなく、都市化は出生率を下げる別の要因の後押しもしていると思われる。その要因とは、ラテンアメリカ諸国の多くで見られる「宗教の影響力低下」である。
ビュー・リサーチ・センターの調査によれば、イスラム教が主流の社会では出生率が3.1なのに対し、キリスト教の社会では2.7、ヒンドゥー教の社会では2.4、仏教の社会では1.6となっている。ここで重要なのは、どの宗教かという点だけでなく、その社会の信心深さである。なんであれその社会において宗教が強い影響力を持つことを人々がどれだけ遵守しているか、という問題だ。ヨーロッパとサハラ以南のアフリカは圧倒的にキリスト教が強い社会だが、概してヨーロッパ人はアフリカ人ほどの信心深さはなく、同時に出生率もずっと低い。また、イスラム社会は概してキリスト教社会ほど世俗的ではない。
ラテンアメリカは世界のカソリック人口の40%を占めるが、ここ数十年は信仰心の危機が進行中だ。1960年代にはラテンアメリカの人びとの90%が自分をカソリック教徒だと考えていた。

同性婚を支持する国ほど出生率が低い

ビュー・リサーチ・センターの調査によれば、以下の国々では国民の過半数または半数近くが、同性カップルの結婚の権利に賛成している。ブラジル(国民の46%が賛成)、チリ(46%)、メキシコ(49%)、アルゼンチン(52%)、ウルグアイ(62%)――。どういうことかおわかりだろうか? ここにあげた国々は、同時にラテンアメリカ出生率が最低レベルの国々でもあるのだ。
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結論すると、多少のばらつきはあるものの、出生率が高い国ほど同性婚への支持は低く、信仰心は強い。別の研究では「男女平等がもっとも進んだ国々では(中略)、相対としてレスビアンやゲイ男性に対する意識がもっとも肯定的である」と示されている。つまり信仰心が低下すると、LGBT市民への許容度が高まり、男女平等が進み、出生率が下がる結果になる。現在ラテンアメリカ出生率が下がっているのは、信仰心もまた低下しているからなのだ。
しかし、ブラジルの出生率に関してはまだ解決していない謎がある。ブラジルは所得格差がきわめて大きい。全人口の上位10%が国富の半分を所有する一方で、全人口の少なくとも25%は貧困ラインを下回る暮らしをしている。間違いなく、貧困層のブラジル人は中産階級のブラジル人より多くの子供を生んでいるはずだ。であれば、なぜブラジルの出生率はこれほど低いのか――。この謎はなんとしても解かねばならない。
その謎を解いたとき、我々が無条件に信じ込んでいた紋切り型で独善的な前提条件がひっくり返されたのである。

欧州で200年かかった変化が、ブラジルでは2世代で起きた

すでに見てきたように、子供を持つことについて女性がどう考えるか、どう判断するかというのは、国ごとの独自の事情に影響される。韓国ならキャリア上のプレッシャー、アフリカなら花嫁の値段、ブラジルなら大人気テレビドラマといった具合だ。だが、ほぼ例外なくすべての国で、女性は選択の余地がある限り、子供の数を減らしている。そして、少人数の家族を望む気持ちは世界的現象になりつつある。
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理想とする子供の数の平均値が世界全体で2.2――これは今の世界人口を維持するのは十分だが、今世紀末までに112億人という国連推計を実現するには不十分だ。なにしろ、中国とインドという人口が世界第1位と第2位の両国で、小さな家族が当たり前という考え方がこれほどしっかりと根付いてしまったのだから。

いずれにせよ、世界的な要因とブラジル独自の要因(その1つがテレビドラマ「テレノベラ」で核家族を扱ったのが大人気)とがいくつも合わさって、ブラジルはもはや国民人口を維持できなくなっている。

しかもその変化は驚くべきスピードで起きた。ヨーロッパやその他の先進国の場合、1家庭に6人以上以上の子供という「第1ステージ」の出生率から、人口置換水準を下回る「第6ステージ」の出生率へと変化するのに200年近くかかった。だが、ブラジルおよびラテンアメリカ諸国の多くは、この変化をわずか2世代で成し遂げた。まだ人口置換水準を下回っていないラテンアメリカの国々も、似たように急速な落ち込みを見せている。ラテンアメリカは世界人口抑制の新しいお手本となりつつある。