epic conway's game of life
京都モデル 惑星の起源の解明
宇宙とスパコン
理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)
●惑星の起源の解明
太陽系の惑星がどのようにしてできたのかも、シミュレーションの重要なテーマの1つです。
惑星形成の理論として現在標準的なのは、京都大学の林忠四郎らが1980年代に完成させた「京都モデル」です。これは、(1)太陽ができたときの副産物として、ガスとダストからなる原始太陽系円盤ができる、(2)ダストが太陽の周りを公転しながら集まって微惑星ができる、(3)微惑星が衝突合体して原始惑星ができる、(4)原始惑星どうしが衝突して地球型惑星ができる一方、原始惑星がガスをまとって木星型と海王星型の惑星ができる、というものです。
そこで、「京」を使い、原始惑星が周囲の微惑星と衝突しながら公転するというモデルでシミュレーションが行われました。この計算では、太陽に向かって落ちないケースもあることが確かめられています。さらに、「富岳」では、ガスの分布や、太陽の近くや太陽系の外周ではガスが電離するという現象も採り入れ、よりリアルなシミュレーションに挑む予定です。
https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/space
『私たちが、地球に住めなくなる前に 宇宙物理学者から見た人類の未来』
マーティン・リース/著、塩原通緒/訳 作品社 2019年発行
科学の限界と未来 より
単純なものから複雑なものへ
現在プリンストン大学で教授をしているジョン・コンウェイは、数学界の最もカリスマ的な人物のひとりである。彼がケンブリッジで教えていたころ、学生たちのあいだで「コンウェイを称える会」という集まりができたほどである。学者としてのコンウェイの専門は、群論と呼ばれる数学の一分野だ。しかし、学問の世界を超えてコンウェイを有名にし、世の中に知的な衝撃をもたらしたのは、彼が考案した「ライフゲーム」という一種のシミュレーションゲームだった。
1970年、コンウェイは碁盤を使ってパターンの実験をしていた。このとき彼は、単純なパターンから開始して、基本的なルールを繰り返し使っていくゲームを発明したいと思っていた。そしてそのうちに、自分の考えたゲームと開始時のパターンを調整すれば、展開によってはとんでもなく複雑な結果が出てくることを発見した。なにしろゲームがいたって基本的だったから、その結果はまさに無から出てきたようにさえ見えた。「生物」が現れ、盤上を動きまわる。そのさまは、まるで自らの命を持っているようだった。ルールは本当に単純で、どういうときに白いマスが黒いマスに変わるか(および、その逆)を規定しているだけだが、それを何度も適用するうちに、複雑なパターンが感嘆するほど多種多様に生まれてくる。このゲームにはまった人々は、さまざまな再生パターンを発見しては、物体に見立てて「グライダー」や「グライダー銃」などと名づけた。
コンウェイはさんざん「試行錯誤」を繰り返したすえに、興味深い新種が生まれる余地のある単純な「仮想世界」を見つけだした。パソコンの時代が来る前だったのでコンウェイは紙と鉛筆を使ったが、ライフゲームの意味するところが本当に知られるようになったのは、コンピューターの桁違いの速度を利用できるようになってからだった。同様に、ブノワ・マンデルブロがフラクタルの驚異的なパターンを描画できるようになったのも、初期のパソコンのおかげだった。これもまた、単純な数式が外見上の入り組んだ複雑さをみごとに記号化できることの例証だ。
ほとんどの科学者は、物理学者のユージン・ウィグナーが書いた古典的な随筆にあらわれている、えもいわれぬ困惑を共有している。その随筆のタイトルは、「自然科学における数学の不合理なまでの有効性」という。あるいはアインシュタインのこんな言葉についても同様で、これまた大いなる謎なのだ――「宇宙に関して最も理解しがたいことは、ウtyyyが理解可能だということである」。私たちは物理世界が無秩序でないことに驚嘆する。たとえば原子だ。これは遠くの銀河にあっても私たちの実験室にあっても、つねに同じ法則したがっているのではないか。前にも触れたように、もし私たちが地球外生命を発見できて、彼らとコミュニケーションをとりたいと思ったとき、そこで互いを結びつけられている共通文化は、おそらく物理学と数学と天文学しかないだろう。数学は科学の言語である。そしてそれは、古代バビロニア人が暦を考案し、食を予言したときからずっとそうなのだ。
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この宇宙のあらゆる構造は、数学法則に支配される基礎的な「構成要素」でできている。にもかかわらず、総じてその構造があまりにも複雑なため、最も強力なコンピューターを使っても計算できない。しかし、おそらく遠い未来には、ポストヒューマン知能(有機物ではなく、自律的に進化する物体に収まったもの)がハイパーコンピューターを開発し、そのとてつもない処理方法で生物のシミュレーションを達成し、果ては世界全体のシミュレーションまでも可能にするだろう。この高等な存在は、ハイパーコンピューターを使って「宇宙」もシミュレーションできるかもしれない。それはただの盤上のパターン(コンピューターのゲームのような)ではなく、映画やコンピューターゲームでおなじみの「特殊効果」の延長でもない。いざ実際に、自分がいると思っている宇宙とまったく同じくらい複雑な宇宙をシミュレーションされたなら、ぞっとするような考えが(ありえない妄想だとは思いつつ)浮かんでくるだろう――ひょっとしたら私たちもシミュレーションなんじゃないのか!?