じじぃの「歴史・思想_341_エネルギーの世紀・もったいない」

Wangari Muta Maathai 「MOTTAINAI

MOTTAINAIについて

MOTTAINAI もったいない モッタイナイ
環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイさん。
マータイさんが、2005年の来日の際に感銘を受けたのが「もったいない」という日本語でした。
https://www.mottainai.info/jp/about/

『探求――エネルギーの世紀(下)』

ダニエル・ヤーギン/著、伏見威蕃/訳 日本経済新聞出版社 2012年発行

節約の溝を埋める より

特許808897号――”加工された天気”

エアコンの普及は、グローバルな経済発展の方向性を変え、世界経済の拡大を可能にした。現代のシンガポールの生みの親のリー・クアンユー元首相は、エアコンは「20世紀のもっとも重要な発明」だとしている。なぜなら、熱帯のひとびとも生産的になれたからだ。シンガポール環境相はさらに赤裸々に、「エアコンがなかったら、シンガポールの労働者はハイテク工場で働かず、ココナツの木の下に座っていたはずだ」という。
エネルギーと電気は、住宅・商業部門でサービスと快適さがひろがるのを可能にした。エネルギーのコストと入手可能性や、温室効果ガスを心配するような理由がなければ、そのことにはなんら問題がなかった。だが、事情は変わってしまった。
建物でのエネルギー使用は15パーセントないし20パーセント改善される可能性があると、一部の予想では指摘している。もっと改善されるという意見もある。分野全体で25パーセント、さらにコスト効果からして、新築の建物では50パーセント改善されるという。しかし、いずれも容易には実現しないだろう。

”ガジェワット”

不思議なことがひとつある。省エネが主流であるにもかかわらず、アメリカの住宅のエネルギー消費は、1970年代よりも40パーセント多く、商業ビルの消費はほとんど倍近くになっている。成長とイノベーションがその原因だ。1世帯の住宅の数は、大幅に増えた。エアコンのある家も大幅に増えた。住宅が広くなったことにも驚かされる。1970年代から、床面積は70パーセント増大している。冷蔵庫1台当たりのエネルギー消費は1993年の半分になったが、いまでは2台ある場合が多いので、1戸当たりの冷蔵庫のエネルギー使用料はほとんど変わらない。
家庭のエネルギー使用が増大したもうひとつの大きな理由は、”ガジェワット”だ――1970年代にはほとんどが存在していなかった便利な電子機器(ガジェット)によって消費られる電力が、どんどん増加している。当時は、家庭の電気の91パーセントが、たった7種類のものによって消費されていた――調理器具、屋内証明、冷蔵庫、冷凍庫、給湯装置、エアコン、暖房器具。わずか9パーセントが、”その他”だった。
この”その他”が、やがて増加して、電気の45パーセントを占めるようになった。これには、食器洗い機やテレビなど、1970年代にあったものも含まれている。しかし、その後生活に欠かせなくなった電気製品や、ちょっとした電子機器も含まれていて、それらが”ガジェワット”に依存している。

もったいない――”貴重だから無駄にできない”

日本は、エネルギーを最大限に活用することに関して、世界に範を示している。1970年代以来、日本はそれをずっとつづけてきた。
1970年代の数度のエネルギー危機は、日本を大きく揺るがした。高度成長の道がとぎれたことに、日本は忽然として気づいた。エネルギーに関し、国家として脆弱であることを、オイルショックによって日本人はひしひしと感じた。その後の危機は、日本人を団結させた。「みんながともに努力した」当時、通産省審議官だった天谷直弘は、その数年後に述べている。「日本人は地震や台風のような危機に慣れている。このエネルギー・ショックはきわめて大きなショックだったが、順応する備えがあった」天谷はなおもいう。「私たちは、地面のなかの資源ではなく、頭のなかの資源を使う」
かくして、エネルギー効率を目指す日本の大攻勢がはじまった。多大な工学・機械技術の才能を、エネルギー関係の創意工夫に集中的に注ぎ込み、どのエネルギー機器からもより多くの価値を取り出した。もっとも、アイデアがすべて成功したわけではない。1970年代後半、夏のエアコン使用を減らすために、オフィスワーカーに新しいメンズファッションが勧められた。半袖のビジネススーツという代物だった。首相が手本として着たにもかかわらず、この省エネルックは、まったく流行らななかった。
いっぽう、日本の社会全体でエネルギー運用とプロセスの効率を向上させるための資源投入は、成功を収めた。他の社会とはちがい、日本ではそう難しくなかった。土地が狭く、資源が逼迫しがちな日本では、歴史的な経験に根ざす倹約と気配りが伝統的文化なので、それと結びつければいいだけだった。土地がふんだんにあり、資源が豊富で、雄大で自信満々の地勢を基盤としているアメリカの歴史的敬虔とは、基本的な考えかたがまったく逆だ。
のちに外相をつとめた川口順子は、当時の環境相だった。現在、参議院議員の川口は、高校生のときに交換留学生としてはじめてアメリカに行ったときの自分の反応を憶えている。「クリスマスにアメリカの家庭では、クリスマスプレゼントをあけたあと、包装紙を捨てていました。日本では包装紙を丁寧に畳んでまた使うので、とてもびっくりしました。私たちなら、”もったいない”というところです」
”もったいない”という言葉を英語に訳すのは難しい、と川口は説明する。それに苦労したため、訳語をひねり出すための会議が、外務省内で行われたほどだった。”貴重だから無駄にできない”が最善の訳語だという結論が出た。