じじぃの「歴史・思想_294_現代ドイツ・女性の社会進出」

EU revives controversial quota system and wage transparency to bridge gender pay gap

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=FT3cfdvCxpo

「求む、女性議員」 永田町、与野党が機運高める

2015/6/27 WOMAN SMART
女性の視点を政治に取り込もうという問題意識は与野党共通の課題だ。
2月には衆参両院議員の候補者の一定割合を女性にする「クオータ制」の導入を目指して、超党派の議連が発足した。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO88509080V20C15A6TY5000/

『現代ドイツを知るための67章【第3版】』

浜本隆志、高橋憲/編著 明石書店 2020年発行

女性の社会進出――クオータ制とパリテ法 より

ドイツで女性の社会進出、男女同権が社会の課題として市民レベルで主張されはじめたのは、1960年代の終わりから70年代にかけてである。これはアメリカを中心に広がった「ウーマンリブ」の影響を受けた新しい価値観の主張でもあった。現在、再び多くの若者たちの支持を集めている「緑の党」結成の源流となった社会運動は、環境保護反核反戦・男女同権を求める運動であった。
ドイツでは伝統的な女性の役割の表現の表現として、3K――Kinder(子ども)、Kuche(キッチン)、Kirche(教会)という言葉がある。この表現は第2帝政期、19世紀末から20世紀初頭にかけてはじめて使われたとされている。女性は率先して教会の仕事に携わり、家事を取り仕切り、子どもを養育すべきである、という伝統的な女性の役割分担をあらわした言い回しであるが、現実的にはこの役割は、ある意味で限られた階級の女性たちにのみ適用していた。
当時、家庭で家事や子どもの養育に専念できた主婦たちは、経済的に裕福な市民階級の女性であった。農家の女性たちはむしろ農業の重要な担い手であり、都市の労働者の女性たちは家内工業で家族の生活の糧を稼いでいた。彼女たちは子育てや家事など伝統的な家庭内の役割に加えて、生きるために、何よりも労働力として家族の重要な経済活動を担っていたのである。
    ・
現在ドイツでは政治の中枢である連邦政府の内閣に、2011年から2018年にかけて8回連続「世界でもっとも影響力のある女性」の首位に選ばれているアンゲラ・メルケル首相を含め、16人中7人の女性閣僚がいるが、社会全体では、依然としてジェンダー格差が存在するのが現実である。ジェンダーの問題は女性の社会参加や就労と貧困、年金問題などとも密接にかかわっているが、政府はこれらの問題を、EUレベルで押し進められるジェンダー・メインストリーミングの政策として、長期的に男女格差の是正に取り組んでいる。
ジェンダー・メインストリーミングとは、国家的課題として公的行政機関主導で長期的に男女同権を目指す戦略、あるいは政策である。北京で開催された1995年の第4回世界女性会議ではじめて提唱されたこの概念は、1999年アムステルダム条約EU加盟国にジェンダー・メインストリーミング政策として、男女同権への積極的な政治的取り組みが義務付けられた。
ドイツでは北京での世界女性会議の前年、1994年に憲法第3条第2項の改正により、それまでの「男性と女性は同等の権利を有する」という文言に、男女同権実現と性差別廃止に向けての国家の義務が付加された。一貫したジェンダー・メインストリーミング政策促進の根底には、男女同権は基本的人権の範疇にあり、社会正義や民主主義の実現、ひいては社会の発展や質の高い人材の獲得にもつながるという考えがある。そこでよく引き合いに出されるのが「クオータ」(割り当て)という考え方である。政府は2015年、女性クオータ法を成立させ、翌16年1月から大手企業に監査役会の女性比率を最低30%とすることを義務化した。
クオータ法が施行されて、産業界の女性参画はどのように変わっているのであろうか。2018年の統計局のデータによると、ドイツのトップ企業200社で監査役会に女性が占める割合は26.9%、アディダスやバイエル、ジーメンスなどが名を連ねる株式上場企業DAX30社においては、監査役会に女性が占める割合は33.3%であり、クオータ法の目標は一応達成されたかに見える。ところが、役員会となると、まだ明らかに男性優位が続いている。上記200社で女性役員の占める割合は9.0%、DAX30社でも13.8%にとどまっている。
それでは政界では女性はどのような位置を占めているのだろうか。前述のメルケル首相や、2005年の第一次メルケル内閣から第4次まで閣僚を歴任し、国民の安定した支持を得ているウルズラ・フォンデアライエン元国防相(現EU委員長)、若手では「緑の党」代表のアンナレーナ・ベアーボックなど、傑出した女性の人材を輩出しているドイツであるが、数から見ると、女性の進出はまだ十分に達成されていないといえる。
    ・
女性の参政権獲得100周年にあたる2019年1月、ブランデンブルク州で、ドイツ初の男女平等政治参画を目指す法案が成立した。この法律は「緑の党」の発案によるもので、それぞれの党が、比例代表選挙用候補者リストに交互に男女の候補者を入れ、結果的に男女同数の議員が選ばれるというものである。2000年に成立したフランスの同様の法律にちなんで「パリテ(parite)法」、あるいは「パリテート(paritat)法」と呼ばれるこの法律は、2020年1月1日から施行された。