じじぃの「歴史・思想_272_ハラリ・21 Lessons・テロ」

Watch Kim Jong Un's Terror Story

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=XZ4RFKysXY4

North Korea Nuclear Weapons Threat | Nuclear Proliferation North Korea

July, 2020 NTI
North Korea (formally, the Democratic People's Republic of Korea or DPRK), has active and increasingly sophisticated nuclear weapons and ballistic missile programs, and is believed to possess chemical and biological weapons capabilities.
https://www.nti.org/learn/countries/north-korea/

『21 Lessons』

ユヴァル・ノア・ハラリ/著 柴田裕之/訳 2019年発行

10 テロ――パニックを起こすな より

テロリストはマインドコントロールの達人だ。ほんのわずかな数の人しか頃さないが、それでも何十億もの人に恐れを抱かせ、EUアメリカのような巨大な政治構造を揺るがしてのける。2001年9月11日の同時多発テロ以来、毎年テロリストが殺害する人は、EUで約50人、アメリカで約10人、中国で約7人、全世界(主にイラクアフガニスタンパキスタン、ナイジェリア、シリア)で最大2万5000人を数える。それに対して、毎年交通事故で亡くなる人は、ヨーロッパで約8万人、アメリカで約4万人、中国で27万人、全世界で125万人にのぼる。糖尿病と高血糖血のせいで毎年最大350万人が亡くなり、大気汚染でおよそ700万人が死亡する。それならばなぜ私たちは、砂糖よりもテロを恐れ、政府は慢性的な大気汚染ではなく散発的なテロ攻撃のせいで選挙に負けるのか?
    ・
物事が進んでいくなかで優先順位を決めるのは難しく、後から振り返ってどういう優先順位にしておくべきだったと言うのは優しい。私たちは起こってしまった大惨事を防げなかったと、指導者を批判する一方で、起らなかった災難については何も知らずにのほほんとしている。たとえば人々は1990年代のクリントン政権を振り返り、アルカイダの脅威を見過ごしていたと非難する。だが、1990年代にイスラム教徒のテロリストが旅客機をニューヨークの高層ビルに突っ込ませてグローバルな戦いを引き起こすことを想像していた人などほとんでいない。それに対して多くの人は、ロシアが完全に崩壊し、広大な領土だけではなく何千もの核爆弾や生物兵器まで管理できなくなることを恐れていた。他にも懸念はあった。たとえば、旧ユーゴスラビアの血なまぐさい戦争が東ヨーロッパの他の地域にも拡がり、ハンガリールーマニアや、ブルガリアとトルコ、あるいはポーランドウクライナの間の争いを招きかねないという懸念だ。
多くの人は、ドイツ再統一についてなおさら大きな不安を感じていた。第三帝国の崩壊からわずか45年しかたっていないので、ドイツの力に依然として本能的な恐れを抱いている人は大勢いた。せっかくソ連の脅威から解放されたのに、ドイツがが超大国となってヨーロッパ大陸を支配するのではないか? 

そして、中国は? ソヴィエトブロックの崩壊に恐れをなし、中国は改革路線を捨て、強硬な毛沢東主義の政策に戻り、北朝鮮の拡大バージョンになってしまいかねない。

今日、私たちはこうした恐ろしい筋書きを嘲笑うことができる。その筋書きどおりにはならなかったことを知っているからだ。ロシアの状況は落ち着き、東ヨーロッパの大半は平和的にEUに吸収され、再統一が成ったドイツは今では自由世界のリーダーと呼ばれており、中国は全世界の経済の原動力となった。これらすべてが達成されたのは、少なくとも部分的には、アメリカとEUの建設的な政策のおかげだ。1990年代にアメリカとEUは旧ソヴィエトブロックや中国の状況よりもイスラム過激派に注目していたほうが賢明だったのだろうか?
私たちはあらゆる不足の事態に備えることはけっしてできない。したがって、たしかに核テロは防がなくてはならないものの、それは人類の課題リストの最優先事項ではありえない。そして私たちは、核テロという理論上の脅威を、ありふれたテロに対する過剰な反応を正当化するためには、断じて使うべきではない。その手のテロは、異なる解決策を必要とする、異なる問題なのだ。
もし私たちの努力もむなしく、テロ集団がやがて大量破壊兵器を手に入れたら、政治闘争がどのように行なわれるかは予想し難いが、21世紀初頭のテロ活動や反テロ作戦とはまったく違うものになるだろう。もし2050年に世界が核テロリストやバイオテロリストで満ちあふれていたら、その犠牲者たちは、信じられない思いを抱きながら、2018年の世界を恋しそうに振り返るだろう。あれほど安全な暮らしをしていた人が、いったいどうしてあれほど脅威を感じていたのか、と。
もちろん、現在の私たちの危機感を募らせているのはテロだけではない。多くの専門家も素人も、第三次世界大戦が目前まで迫っているのではないかと恐れている――現在と同じような状況をまるで1世紀前に、すでに目にしていたかのように。1914年と同じで、2018年にも大国間で高まる緊張に厄介でグローバルな問題が重なり、私たちをグローバルな戦争へと引きずっていくように見える。この不安は、テロに対して私たちが抱いている過剰な恐れよりも理に適っているのだろうか?