じじぃの「歴史・思想_185_未完の資本主義・フリードマン・人新世での4つのスキル」

【紹介】遅刻してくれて、ありがとう上 常識が通じない時代の生き方 (トーマス・フリードマン

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=g-kEf16li1g

PHP新書 未完の資本主義―テクノロジーが変える経済の形と未来

大野 和基【インタビュー・編】
内容説明
経済学者シュンペーターは「資本主義の欠点は自ら批判されたいと願っている点だ」と述べた。批判すらも飲み込み自己変容を遂げていく「未完」の資本主義。とりわけ近年は、テクノロジーの劇的発展により、経済の形が変わり、様々な矛盾が噴出している。本書は、「テクノロジーは資本主義をどう変えるか」「我々は資本主義をどう『修正』するべきか」について、国際ジャーナリスト・大野和基氏が、世界の「知の巨人」7人に訊ねた論考集である。経済学、歴史学、人類学…多彩な視座から未来を見通し、「未完」のその先の姿を考える、知的興奮に満ちた1冊。
【目次】
プロローグ―「未完」のその先を求めて
2 「雇用の完新世」が終わり「人新世」がはじまる(トーマス・フリードマン
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784569843728

『未完の資本主義 テクノロジーが変える経済の形と未来』

ポール・クルーグマン, トーマス・フリードマン, デヴィッド・グレーバー, トーマス・セドラチェク, タイラー・コーエン, ルトガー・ブレグマン, ビクター・マイヤー・ショーンベルガ―, 大野和基/編 PHP新書 2019年発行

「雇用の完新世」が終わり「人新世」がはじまる(トーマス・フリードマン) より

「テクノロジーが地球を覆いつくす人新世」の到来

――著書「遅刻してくれて、ありがとう」の中で、「かつての『雇用の完新世』では、中程度のスキルでも高級を得られる仕事が先進国にたくさんあったが、いまはテクノロジーが地球を覆いつくす人新世だ」と定義されています。

フリードマン

 第二次世界大戦から2000年初期にかけての約50年間は、気候変動のない非常に安定した時代だったといえます。気候は平均的で四季も安定しており、平均的な企業、国、労働者でいるには最高の時代でした。誰誰も平均的がでいられ、まともな中産階級のライフスタイルを享受できた時代でした。
 ミネソタ州ミネアポリスに住んでいる私のおじは地方銀行の融資担当をしていましたが、学歴は高卒でした。学歴はしごく平均的だけれども中間層の仕事に就ける、そういう時代だったのです。
 技術革新、グローバリゼーション、気候変動が加速化していると著書で述べましたが、そういった加速が起きたことで平均的な時代は確実に終ったのだというのが私の主張です。いまの時代で「平均」になろうとしても、かつての平均的な労働者、会社、国のライフスタイルに戻ることはできません。だからこそ、いくつかの国々は崩壊しつつあるのです。我々は、何をするにしてもつねに平均以上になることを志向しなければならなくなりました。

――人新世では「3つのR=読み(リーディング)、書き(ライティング)、算数(アリスメティック)」だけでなく、「4つのC=創造性(クリエイティビティ)、共同作業(コラポレーション)、共同体(コミュニティ)、コーディング(プログラミング)」のスキルが必須になるとおっしゃっていますね。そのため、すべての労働者が生涯学習によってスキルを高めていかなければならないとも。すべての人が生涯にわたって新しい技術を収得し、成長を続けていく必要があるということでしょうか。

フリードマン

 私が言いたかったのはこういうことです。たとえば18世紀末に開発された蒸気エンジンは、その後約100年間、主要なテクノロジーの座に就いていました。ですから、じつに3世代の人が蒸気エンジンとともに働いたということです。電力化と燃焼機関、産業革命が次の約100年間、続きました。つまり、さらに3世代が基本的に同じようなテクノロジーに頼って生きたということです。
 ところがいま、世界はひっくり返りました。3世代分のテクノロジーを1世代で使い切るようになったのです。私はいまのキャリアをタイプライターで始めましたが、これまでに恐らく10種類は新しいテクノロジーを経験しています。
 この動きが、今後はさらに加速化します。これから競争に勝ち残るためには、生涯学習者(lifelong learner)になる能力がもっとも重要になります。つねに新しいことを学び続け、学習ツールを得る力です。それこそが、著書で述べたかったことです。これは個人だけでなく、政府にも当てはまります。個人も政府も生涯学習者になることが、今後はもっと重要になるのです。

中国の資本主義は「3つの戦略バスケット」で読みとける。

――あなたは最近、CNBCテレビで「ドナルド・トランプはいま中国が対峙するのに値する大統領である」とおっしゃっていました。さらにmisaligned(位置合わせがずれた状態)の貿易関係に実際に挑戦する人が必要であったとも。どういうことか、説明していただけますか。トランプが中国に対してしていることは、大いに意味を成していると思われますか。

フリードマン

 中国は1970年代末期以来、3つの大戦略を使って貧困層から中間層まで成長したと私は見ています。1つ目の戦略バスケットは、信じられないほどの勤勉、インフラと教育、そして科学研究への賢い投資、遅延満足(delayed gratification:将来のために、目の前にある報酬への欲求を我慢すること)、国の発展のための自己犠牲、長期計画、こういった要素です。
 2つ目の戦略バスケットは、知的財産剣侵害、非互恵的な貿易協定、強制技術移転、それを違反とするWTOの判決を効果的に実行しないことです。
 3つ目の戦略バスケットは、アメリカ合衆国の太平洋艦隊です。この存在があったおかげで、中国はアジアの近隣国を経済国に支配できました。近隣国に、政治的にも地政学的にも中国に支配されるという恐怖を抱かせることなく、経済的支配を確立したのです。経済的には中国に支配されたが、アメリカがいるから安心か、と思わせたということです。アジア全体の安全を再保証させたこの重要な艦隊に、中国は感謝してもよかったんじゃないでしょうか。
 以上3つの戦略バスケットを使ったことを比喩的にたとえると、Tシャツやテニスシューズ、ソーラーパネルを売ることで貧困層から中所得層に上ったということです。我々アメリカは中国がつくったTシャツやテニスシューズ、ソーラーパネルを買い、逆に大豆とボーイングを中国に売りました。貿易は基本的にこのように進み、そこそこうまくいきました。我々がTシャツやテニスシューズやソーラーパネルを買いすぎると、彼らはボーイングと大豆の輸入量を増やしました。だから何とかすべてうまくいったのです。次にアメリカは方向を変えて、知的財産権の侵害のほうに目を向けました。
 そして中国はいま、スーパーコンピュータと最終的にはそのマイクロチップ、自国製の飛行機や航空宇宙産業、新素材、医学、電気自動車、電池などを開発することで。中所得層から高所得層、あるいは高中所得層に上ろうと考えています。こういうものはすべてアメリカや日本も――ちなみに日本の技術はすばらいです――開発していますが、中国にも開発する資格はあります。ただ、中国に指摘財産権の侵害、非互恵的な貿易協定、強制技術移転といったお決まりの戦略を使わせるわけにはいきません。もし、アメリカや日本が製造している超最先端の製品にも同じような手口を使わせてしまえば、我々に未来はないでしょう。
 だから、誰かが決闘を始めなければなりませんでした。この状況は起こるべくして起こったのです。そのため私は、ドナルド・トランプがその役割が果たしてくれることを歓迎します。正しい決断だったと思います。いまこそ貿易関係の均衡を取り戻さなければなりません。均衡といっても貿易収支のことではありません。貿易収支は多くの変数が機能したものだからです。ドルの価値、相手国の通貨の価値、金利など――こうした要素は、マクロ経済政策の範疇です。
 私が言う貿易関係の均衡とは、中国がアメリカ市場に対してもっているのと同じレベルの権限を、日本やアメリカの企業も中国市場に対してもてるようにしてほしいということです。そのために自分たちの知的財産を手放すことを強要されたり、あるいは株の半分を売却したり、中国にある他の慣習を押しつけられたりする必要はありません。私は相互貿易協定に賛成です。アリババがアメリカに自身のクラウドサーバーをもつことができるのなら、マイクロソフトも中国にクラウドサーバーをもつことができるべきだと思います。そして、誰もが公平な競争の場で競えることを求めます。それが私の見方です。