じじぃの「歴史・思想_182_地球に住めなくなる日・ダイアモンドの文明崩壊」

Jared Diamond: Lessons from Hunter-Gatherers | Nat Geo Live

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5n7yTEALxNc

There are insights to be gleaned here.

“The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?” by Jared Diamond

Las Vegas Nonfiction Book Club Discussion Questions
There are insights to be gleaned here.
https://lasvegasnonfictionbookclub.blog/2019/06/17/the-world-until-yesterday-what-can-we-learn-from-traditional-societies-by-jared-diamond/

『地球に住めなくなる日』

デイビッド・ウォレス・ウェルズ/著、藤井留美/訳 NHK出版 2020年発行

第3部 気候変動の見えない脅威

進歩が終ったあとの歴史 より

温暖化で世界が良くなることはありえない。反対に悪いことは無数にはびこる。生態系の危機が始まろとしているいま、歴史への深い疑義を示した新しい言説を多く目にするようになった。歴史は逆行することもある。人類が定住し、文明を築いていった一大事業――すなわちそれが「歴史」と呼ばれる――は、すさまじい勢いで逆噴射しているのではないか。気候変動の脅威が高まるにつれて、そんな反進歩史観が勢いを増している。
イスラエル歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは著書『サピエンス全史――文明の構造と人類の報復』(河出書房新社)のなかで、人類の文明は神話の連続として理解するのがよいと書いている。始まりは新石器革命とも呼ばれる農業の発明で、「我々は小麦を飼いならしたのではない。小麦が我々を飼いならしたのだ」とハラリは主張する。
この時代をより的確に評した一節が、政治学者ジェームズ・C・スコットの『反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー』(みすず書房)のなかにある。現在私たちが理解するような国家権力と、そこに付随する官僚主義、弾圧、不平等が出現したのは、小麦の栽培に端を発する。中学の歴史の授業では、農業革命こそが歴史の始まりだと教わったものだ。現生人類が出現して20万年になるが、農業が行なわれるようになったのはつい1万2000年前のこと。この技術革命で狩猟と採集の生活に終止符が打たれ、都市と政治の仕組みが生まれて、「文明」なるものが誕生した。

『銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる人類史の謎』(草思社)で、工業化した西欧の隆盛を生態学的・地理学的に論じたジャレド・ダイアモンドだが、『文明崩壊――滅亡と存続の命運を分けるもの』(草思社)は反進歩史観の先がけとも言うべき著作だ。そのながでダイアモンドは、新石器革命を「人類史最悪の失敗」と断定している。

こうした新懐疑派は、その後に出現する工業化や化石燃料ではなく、あくまで農業を軸にすることで、より直接的に反文明論が展開できると考える。人類は農業によって定住生活に移行したものの、人口が爆発的に増加したのはそれから1000年もたってからだ。そのあいだに伝染病や戦争が何度も起こって、成長の芽が摘(つ)みとられた。それは苦しみに満ちた中断期間で、くぐり抜けた先には新しい繁栄の時代が持っていたのか? いや、そうではない。苦難の物語はおそろしく続き、現在にまでつながっているのだ。その証拠に、世界の大半の人びとは、狩猟・採集時代の人類より体格も健康状態も悪く、寿命も短い。この時代のご先祖さまのほうが地球とのつきあいかたを知っていたし、農業が始まるまでの20万年間、ずっと地球を見てきた。「先史」などと呼ばれて一段低く見られていた時代が、人類の歴史全体の約95パーセントを占めているのだ。そのあいだも人類は地球上をさかんに移動していたが、まったく痕跡を残していない。痕跡があるのは文明が誕生してから、つまり私たちが「歴史」と呼ぶ部分は、全体から見たら波形が一瞬ピクリと動いた程度のものだ。さらに世界を物質の洪水で翻弄する工業化と経済成長の時代となると、ぴくりのなかのかすかな揺れでしかない。そんな揺れが、終りのない気候崩壊の崖っぷちへと私たちを追いやったのである。
ジェームズ・スコットは政治学者としての人生の終盤に入ってから、急進的な反国家主義者として『統治されない技術(The Art of Not Being Governed)』『支配と抵抗術(Domination and the Arts of Resistance)』『実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方』(みすず書房)といった才気あふれる著作を世に送り出した。人類の進歩を信じて疑わない姿勢に一石を投じるハラリの着眼も、自ら招いた環境機器を背景にすると、斬新で説得力がある。同性愛者であうことをカミングアウトしている彼には、人類の進歩をうたう大きな物語ヘテロセクシャルのように支配的に思えて、そこから懐疑主義が芽ばえてきたのだ。社会は昔もいまも集団的フィクションで束ねられている。宗教や迷信が支配してきた場所に、進歩や合理性といった価値観が入りこんできただけだ。軍事史の専門家だったハラリだが、ビル・ゲイツバラク・オバマ、マーク・ザッカ―バーグから神話の解説者として評価され、世間の注目を浴びている。
「この数十年間世界を規定してきたのは、いうなればリベラル物語だ」。ハラリは2016年のそう書いている。このとき彼は、1カ月後のドナルド・トランプ当選を予言し、その結果、体制への集団的信頼がどうなるか考察した。「それは単純で魅力的なお話だったが、これから崩壊していくだろう。そこにできた真空を埋める新しい物語は、いまのところまだない」