The Nine Homelands of Food Production by Jared Diamond
The Nine Homelands of Food Production
Ancient centers of origin of plant and animal domestication - the nine homelands of food production - are indicated by the orange-shaded areas on the map.
https://decolonialatlas.wordpress.com/2015/07/09/the-nine-homelands-of-food-production/
銃・病原菌・鉄: 1万3000年にわたる人類史の謎(上)、ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳、草思社(2000年)
【上巻目次】
第2部 食料生産にまつわる謎
第5章 持てるものと持たざるものの歴史
食料生産の地域差/食料生産の年代を推定する/野生種と飼育栽培種/一歩の差が大きな差へ
https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20141209/1473579333
『銃・病原菌・鉄 (上)』
ジャレド・ダイアモンド/著、倉骨彰/訳 草思社 2000年発行
持てるものと持たざるものの歴史 より
野生種と飼育栽培種
さて、この章のはじめにとりあげた食料生産の起源の謎、つまり人類が食料生産をどこではじめたか、それはいつであったか、そしてそれがどのように進展していったかについて考えてみよう。
これらの疑問に対する説明としては、両極端のケースが考えられる。ひとつは、よそから農作物や家畜が伝わってくるのを待つことなく、野生種を栽培化する、場合によっては野生動物を家畜化する方法で、独自に食料生産を始めたケースである。現在のところ詳細な確証がそろっているのは、メソポタミアの肥沃三日月地帯(近東としても知られる南西アジア)、中国、中米(メキシコ中部、南部、およびその近辺をふくむ中央アメリカ)、南米のアンデス地帯(隣接のアマゾン川流域をふくむであろう)、そして、合衆国東部といった5つの地域である(画像参照)。これらの地域は、起源となった場所がかならずしも1ヵ所だったわけではなく、たとえば中国北部の黄河流域や南部の揚子江流域などのように、実際には食料生産が独自にはじまった可能性のある地域を数ヵ所ふくんでいるところもある。
これらの5つの地域では、食料生産が独自にはじまったことは間違いない。アフリカのサヘル地域(サハラ砂漠の南縁)、熱帯西アフリカ、エチオピア、ニューギニアなども独自に食料生産がはじまった可能性はあるものの、不確かな部分もあり、いずれも断言ができない。たとえばサヘル地域では、自生の野生種が栽培化されたことは間違いないが、農耕のはじまる以前に家畜の飼育がすでにおこなわれていた可能性がある。そして、その家畜化がサヘル地域で独自におこなわれたものだったのか、それともメソポタミアの肥沃三日月地帯から家督が伝わったことが引き金となってこの地域で野性の植物の栽培化がはじまったのかは、はっきりしない。
一歩の差が大きな差へ
簡単にまとめると、食料生産を独自にはじめた地域は世界にほんの数ヵ所しかない。それらの地域においても、同じ時代に食料生産がはじまったわけではない。食料生産は、それを独自に開始した地域を中核として、そこから近隣の狩猟採集民のあいだに広まっていった。その過程で、中核となる地域からやってきた農耕民に近隣の狩猟採集民が侵略され、一掃されてしまうこともあった。この過程もまた多くの時代にわたって起こったことである。最後に、環境的には非常に適しているのに、先史時代に農耕を発展させたり実践したりすることがなかった地域が世界には複数存在する。そうした地域の住民は、近世になるまで狩猟採集生活を営んでいた。つまり食料生産を他の地域に先んじてはじめた人びとは、他の地域のひとたちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩みだしたのであり、この一歩の差が、持てるものと持たざるものを誕生させ、その後の歴史における両者間の絶えざる衝突につながっているのである。