Edvard Munch - an introduction
Munch 「The Scream」
『9つの脳の不思議な物語』
ヘレン・トムスン/著、仁木めぐみ/訳 文藝春秋 2019年発行
この記憶も身体も私じゃない――孤独を生きる”離人症のママ” ルイーズ より
身体から抜け出たように感じすべての現実感を失う。一時的にそうした離人症状を経験する人は多いが、ルイーズは何十年もその感覚の中で生きている。彼女の脳の謎を解くには、意外にも「人工心臓を入れた男」の研究がヒントになる。
ムンクの「叫び」は離人症そのもの
ルイーズが離人症に本格的に悩まされはじめたのは大学生のときからだった。悪夢を見ているときに、彼女は急に世界が遠くなり、自分が身体から抜け出たように感じた。宙に浮かんでいて、世界の一員ではなくなっていたという。この感覚は一度起こると数日続いた。
「そのうちに1週間続くようになり、それからもっと長くなっていった。ついにいつもその状態になってしまって、元に戻らなくなった。結局、大学を退学しなきゃならなくなった。いつも不安だった。まるで後ろに傾きながら椅子に座って、ひっくり返りそうになっているみたいな感じだった。いつもそんな感じだった。全てがなんて変な感じなんだろうと思わずにはいられなかった。自分は頭が変になるんだと思っていたのよ。すごく怖かった」
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彼女は短い沈黙の後に突然こう言った。「エドヴァルド・ムンクの絵を見たことがある? オレンジ色の空をバックに叫んでいる顔が書かれている絵よ。離人症を描いた絵だっていう人もいる」
1800年代にムンクは「叫び」という名の4枚の絵を描いている。4枚とも油絵具とパステルとクレヨンを用いて描かれ、どの絵にも骸骨のような顔をした幽霊みたいな人物がカンバスの外を見つめ、両手をほおの脇に当て、口を大きく開いている。その人物の後ろには赤い渦でできた空があり、遠くには水も描かれている。近くには2人の人がいるが、口を開いている人物の苦悩を全く気に留めていないようだ。当時の印象派は写実的な絵ではなく、心の内部にある感覚や感情に重きを置いて描くことが多かった。「描くべきなのは椅子ではない、その椅子を見た人の感情だ」とムンクは述べている。
「叫び」の額にムンクは詩を刻んでいる。「私は2人の友人と歩いていた――太陽は沈みかけていて、空が血のように赤く染まっていた。そして私は突然悲しみに襲われ――ひどく疲れ、立ち止まった。青黒いフィヨルドと町の上に血と炎の舌が覆いかぶさるようだった――友人たちは歩き続けていた――私は立ち尽くしたまま不安に身を震わせ――自然の大いなる叫びを感じていた」
ルイーズは言った。「私はこの絵を見て、その通りだと思っているの。人も景色も叫び声をあげている。離人症そのものよ。一旦始まると、全く平穏を得られなくなる。他の世界が奇妙に感じるばかりでなく、自分の内側も変になったように感じるの。今までなじんでいたものが、すべて見た事もないもののように感じる。世の中の全て、自分の記憶からも隔絶されてしまう。自分がしたことの記憶も急に自分のものとは思えなくなる。過去が奪われるのよ。自分自身の核を取り去られてしまう」
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どうでもいい、じじぃの日記。
離人症・・・映画や仕事などに集中している時に声をかけられても気づかないことを「離人感」といい、症状が重く日常に支障をきたす状態の障害をいう。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは言った。
「私たちは脳で考えているかもしれないが、本当は心臓で感じているのだ」
科学が発達していなかった時代だから、こんなことを言っているのだと思っていた。
しかし、心臓疾患などで人工心臓に置き換えたりすると、他人への共感力が弱くなったりするのだそうだ。
ムンクの「叫び」の絵は「離人症」の人を描いているのだとか。
自分がある日現実から隔離され、ものすごい孤独感に襲われた状態なのだそうだ。
まあ、心臓がハートマークで描かれることから、心が心臓にあるというのも分かる。