じじぃの「歴史・思想_129_動物と機械・AIがAIを考える」

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『動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来』

菅付雅信/著 新潮社 2019年発行

「意識とは何か」を考える意識 より

AIがAIを教える

若き創業者のマシュー・ズィーラーは「これは意識をどのように定義するかにもよると思うのだが」と前置きしつつ、クラリファイ(ニューヨーク市を拠点にビジュアル検索ツールを開発するAIスタートアップ)のAIの進化像を次のように語ってくれた。
「クラリファイではAIが概念を理解すれば、画像認識や映像認識の正確さの精度があがる仕組みなんだ。つまり画像や映像を理解するシステムがAIの中に存在しているわけだね。そして、僕らはGANs=ガンズ(註:Generative Adversarial Networks=敵対的生成ネットワークの略。「教師なし学習」に使用されるAIアルゴリズムで、画像を生成し識別されないよう学習する「生成ネットワーク」と、生成された画像を識別するよう学習する「識別ネットワーク」という、相反する目的で学習するふたつのニューラルネットワークによるアルゴリズム)のように、AIがAIを訓練する方法を研究しているんだ。つまり、AIがAIを教えるということさ」
ガンズは、現在のAI開発の最先端をいくテクノロジーだ。膨大な情報分析が必要とされる宇宙工学や気候変動の解析で、すでにこの技術は使われている。
「現在のアルゴリズムの問題のひとつには、AIに学習させるためにあらかじめデータを数多く収集してラベル付けをしていかなければいけない点があり、それは途方もなく労力とお金がかかるんだ。すでに訓練されたアルゴリズムを活用して、人間ではなく別の機械からAIを訓練したほうがいい分野も増えている。それは、人間の認識を機械が超えたと言えるし、もしかすると”意識の創造”にもつながるかもしれないと思うんだ」
このガンズの開発は、AIの学習能力の次世代とも言われる。そう、もはや人間がAIに教え込まなくても、親AIが子AIに教えることが可能になったのだ。そうなると、AIをプログラムできるのは人間だけという、人間の優位性が揺らいでくる。肉体的なルーティンの仕事から人間が締め出されることに続いて、創造的ではない単純なプログラミングという頭脳的ルーチンからも人間は締め出されようとしている。そしてそのような状況で人間に残されるのは、「知的な判断という仕事かもしれない」とズィーラーは考える。

人間の意識を機械にアップロードする

東京大学大学院准教授の脳科学者、渡邊正峰が注目するのは、「人工意識」を用いて、それを創りながら仕組みを明らかにしていこうというアプローチだ。そこで参照されるのが、オーストラリアの哲学者デイヴィド・チャーマーズの「フェーディングクオリア」という思考実験である。
それは、人間のニューロンをひとつずつ、ニューロンと全く同じ働きをする人工ニューロンへと置き換えていくという実験だ。ニューロンのひとつひとつの機能は解き明かされているため、この実験は理論的には可能であるとし、ニューロンがすべて人工物に置き換ったとしても感覚意識体験は残るのではないか、とチャーマーズは考えている。この理論を発展させ、ニューロンをコンピューター・シミュレーションに置き換えていく「デジタル・フェーディングクオリア」を考案することで、コンピューターにも意識を持たせることができるのでは、と渡邊は考えているのだ。

意識とは振る舞いではなく、ニューロンが生む複雑性

アメリカの神経科学者クリストフ・コッホは言う。
「人間の振る舞いをシミュレーションすることで、意識をつくり出せると信じる人々がいます。ひとたび人間の脳のコンピューターモデルを開発し、それがGNW理論(グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論)を現実のものとするのに十分なレベルのものであれば、そのコンピューターモデルは意識をもつと彼らは言っています。しかし、わたしの観点は大きく異なります。意識とは振る舞いではなく、存在の状態であり、ニューロン集団の連合が生み出す複雑性だと考えます。そしてそれはまだわからない点が多くあるのです」
だから、人間の振る舞いをいかに精巧にシミュレーションしたとしても、そこには意識は生まれないとコッホは考える。
「アマゾン Alexaやアップルの Siriあるいは遠い将来にはロボットやAIが人間の多くの行動をシミュレーションできるようになるのは間違いありません。しかし、これらの機械がまるで主観的な感覚や意識をもっているように振る舞うからといって、そこに意識は存在しません。Alexaに『今日の気分はどうだい?』と聞いて『ええ、気分がいいわ』と答えたとしても、それは意識ではなくて、あらかじめプログラムされた嘘の振る舞いです。Alexaは嘘つきなんですよ(笑)」
コッホは世界という複雑なシステムを理解するには、感情が必要だと考える。「苦痛や喜び、善や悪という感情がないと世界を理解できません。例えば、質量の法則をコンピューターが計算することはできますが、質量そのものを感じることはコンピューターにはできません。でも物事の重さを実感するときに感情が生まれ、感情が意識を生むのです」
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それでは、AIが急速に進化を遂げ、デジタル・テクノロジーが人間を取り囲む時代における「幸福」はどのように変化していくのだろう。コッホはため息をついて「今日、わたしたちはますます不幸になっています」と嘆く。
「むやみやたらにSNSを使うのではなく、自制心が必要ですよ。ジャンクフードは身体に悪いことはわかっているので、賢い人々は自主規制をしていますよね。常時接続のネット中毒も精神のジャンクフードですよ。常にSNSをチェックしている状態は、人々の精神を不安定にします。食べ過ぎや飲み過ぎを制限するのと同じように、インターネットを自主規制しなければいけません。それには、自制心と精神的な訓練が必要ですが(笑)。幸福とは自分の欲望を際限なく満たすことではなく、自制心からやってくるものだと考えます。いまこそ、自制心が最も必要なんですよ」