じじぃの「カオス・地球_439_現代ネット政治=文化論・第7章・死者の言葉・美空ひばり」

[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから | NHK

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=nOLuI7nPQWU


美空ひばり VOCALOID:AI™ - AIに関する取り組み

ヤマハ株式会社
今、世の中では漠然と「AI=人の仕事を奪い去る脅威」と捉えられがちな現実があります。しかし、ひとたび人間に備わった創作への情熱の延長線上にある「表現」という観点に立って考えたときに、AIは人の心を揺さぶる何かを自発的に生み出すことはできるのでしょうか?
それは難しいことかもしれません。なぜならば、AI単体が膨大に蓄積されたデータを機械的に学習しただけで生まれる成果物を「表現」と呼ぶには、あと一歩というところで及びません。
そんな未完成な表現から人の心を動かす「表現」に到達するため、ヤマハ独自のAI技術に志を持つ人たちが向き合いました。VOCALOID:AI™を通じたヤマハの挑戦は、AIという最新技術を感性を携えた人間が活用することで、過去には実現しえなかった新たな「表現」を世に送り出していくことです。
https://www.yamaha.com/ja/stories/new-values/vocaloid-ai/

『現代ネット政治=文化論――AI、オルタナ右翼ミソジニー、ゲーム、陰謀論アイデンティティ

藤田直哉/著 作品社 2024年発行

安倍元首相銃撃犯・山上徹也の深層、「推し」に裏切られた弱者男性、インセル陰謀論者、負け組、オタクたちの実存の行方、ニセ情報の脅威、倍速で煽られる憎悪…。揺らぐ民主主義と自由。加速するテクノロジー、そこに希望はあるのか!ネットネイティブ世代の著者が徹底検証。

Ⅶ ネット方面見聞録(『朝日新聞』2019年4月ー2023年12月) より

AIひばりが問う死生観(2020年1月)

「AI美空ひばり」が話題だ。昨年末のNHK紅白歌合戦にAI(人工知能)の美空ひばりが登場し、生前に歌われなかった新曲を披露した。これを実現したのはヤマハの「VOCALOID:AI」という技術で、深層学習(ディープラーニング)が用いられている。深層学習とは、、一言で言えば高度な統計処理である。生前の美空ひばりの歌や話し声のデータを大量にコンピューターに与え、「美空ひばりらしさ」のパターンを抽出させ、それを再現させることで、あたかも美空ひばりが歌っているかのような新曲を作ることができたのだ。

感動する人や技術の発展を喜ぶ人々がいる一方で、死者への冒涜だと批判の声も多く出た。

この議論は、AIによる死者との関係の変化を鋭敏に捉えたものだと解釈できる。亡くなった人が「新曲」を歌えるということは、生前のように「話す」ことも技術的には可能である。映画やゲームの世界では、亡くなった俳優をコンピューターで再現して演技させることが既に行われている。この技術が大衆化し普及すれば、遺影の代わりに、生前のように動いて話す立体映像が置かれる日も遠くない。大量に蓄積されている生前の発言や行動のデータを深層学習させれば、生前のような思考も再現できるかもしれない。

そのとき、死者との関係はどう変わるだろう? 死の観念、死者のイメージはどう変化するのだろうか? AIの本質は単なる統計マシンなのだが、それに生命や意識、魂や霊的なものがあるものとみなすようにならないだろうか? 「冒涜」という言葉の背景には、このような死生観の変化への直観があるはずだ。

AIは、私たちの生命観・死生観を大きく変える。とはいえ、冷静に、大局的に捉える必要もあるだろう。科学技術で死者や死の捉え方が変わるのは、今に始まったことではない。写真が発明され生活に現れたとき、「魂が抜かれる」と当時の日本では言われていた。「心霊写真」の言葉ができたように、霊魂のイメージも変わった。

そもそも、私たちが思考の糧にする古典の名著も、ほとんどが死者の言葉なのだ。文字と活版印刷の発明で死者の思考や言葉が残せるようになり、読む行為によっていつでもよみがえらせることができるようになった。その恩恵によって、私は思考し、書くことができる。活版印刷技術によって可能になった「本」の存在は既に違和感がなく、科学技術の産物であると意識されることもない。従って冒涜であるとは感じにくい。だが、口伝えが当たり前だった時代の人たちには、どうだっただろうか。

AIによって死者のあり方が変わるとしても、それは人類の発展に伴って起こるいつものことに過ぎない、とも言える。人はなじんだ技術を、科学技術だとは感じず、自然に思ってしまう。次世代にはAIも、「自然」なものになっているのだろう。