じじぃの「科学・芸術_716_時間を意識する自己・レム睡眠」

Map Shows How Humans Migrated Across The Globe 動画 YouTube
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Cognitive Revolution

『神は、脳がつくった 200万年の人類史と脳科学で解読する神と宗教の起源』 フラー・トリー/著、寺町朋子/訳 ダイアモンド社 2018年発行
現代ホモ・サピエンス――時間を意識する自己 より
死に気づくことは、内省的自己意識と時間的自己意識という、それら自体は波外れた進化上の強みをもたらした能力の必然的な副産物だった。完全にヒトであることと死を自覚することは、表裏一体なのだ。ウイリアム・バトラー・イェイツは、詩でこう語っている。「彼は骨の髄まで死を知っている――人間が死を創造したのだと」
ただし、死の意識が4万年前に宗教観念を生み出したきっかけだったとしても、死の恐怖が現代ホモ・サピエンスの思考を占めているというわけではない。
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すべての人間が魂や霊魂を持っており、人が死んだときにこの魂が体を離れるという信念は、宗教思想の起源を説明するエドワード・タイラーの理論の第1部に過ぎなかった。理論の第2部は、「魂が死後の世界で引き続き存在するという信念」だった。タイラーは、「原始的な人びとは夢の経験に基づいて、この結論に達した」と強く主張した。
夢については、どんなことがわかっているだろう? 夢はレム睡眠と関係があり、すべての哺乳類にレム睡眠の時間があることがわかっている。イヌやネコ、サル、ゾウは夢を見ると言われている。もしかしたら、すべての哺乳類がそうかもしれない。レム睡眠や夢の目的はまだわかっていないが、記憶の保存、問題の解決、脅威のシミュレーションに官憲した機能などをあげるさまざまな説が出されている。レム睡眠や夢は進化に伴って生じた現象で、ひょっとすると人類の遠い過去に何らかの有益な役割を果たしたのではないかという説を立てている研究者もいる。
しかし、もしホミニン(ヒト族)が数百万年にわたって夢を見てきたのなら、なぜおよそ4万年前になって夢がいっそう重要になったのだろう? その理由は、ホミニンが認知的に成熟するまで、自分の見た夢に意味を与えられなかったからだ。具体的に言えば、夢に意味を与えるためには、自己認識能力、他者認識能力、内省能力に加えて、夢で見た経験を過去の経験や将来への希望という文脈のなかに位置づける能力を獲得している必要があった。
人類学者のA・アーヴィング・ハロウェルは、先住民族オジブワ族の夢を解釈する際に認知的成熟の必要性に触れ、「夢を見ることは初期ホミニド(ヒト科)で起こったかもしれないが、ホミニドの脳が大型化することで初めて十分に解き放たれた心理学的潜在能力がなければ、夢の内容や、想像力に富むプロセスの産物を他者に伝えることはできなかっただろう」と述べた。
エドワード・タイラーは、「原始的な」人々が、夢を見た経験によって、人が死ぬと魂や霊魂が体を離れてある種の霊界や死者の国まで生き続けるという考えに導かれた、という説を立てた。タイラーが、来世の観念を育むために特に重要だったとあげた夢が2種類ある。
1つ目は、「人間の魂が、それらの魂を夢として見る睡眠中の人を外部から訪れる」夢だ。タイラーは例として、「夢のなかで祖先の影の訪問を受けることがある」ズールー族や、「夢を、亡くなった友人たちの魂による訪問だと解釈する」西アフリカのギニアの人びとを引き合いに出した。タイラーがあげたもう1種類の夢は、睡眠中にその人の魂が肉体を離れて別の場所に旅するというもので、別の場所には死者の国も含まれる。
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そしてとうとう、ホミニンはおよそ4万年前に現代ホモ・サピエンスとして、自伝的記憶を手に入れた。自伝的記憶は自分を過去や将来に投影する能力で、過去の経験を活かして将来に向けた計画を立てるときに役立つ。こうした認知進化の各段階に伴って、脳の構造にさまざまな変化が起きた。どのような変化が起きたのかについては、少なくとも大筋は、今では突き止められる。