じじぃの「科学・芸術_924_遺伝子DNAのすべて・赤ちゃんができるまで」

From Conception to Birth

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7ItmwtLCDVY

The Baby at 8 Weeks

初期発生のしくみ

●[A] 予定運命
フォークト(ドイツ)は,初期原腸胚の表面に局所生体染色を行って胚の各部から将来どのような組織・器官が分化するかを調べ,予定運命図を示した(下図)。
http://y-arisa.sakura.ne.jp/link/yamadaka/seimei-renzoku/development-2/fate.htm

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

赤ちゃんができるまで

たった1個の細胞がじゅうぶんに成長して赤ちゃんになるまでの道のりは長く複雑だ。この驚くべき旅へと、私たちを導いてくれる遺伝子の規則とパターンの一部が、研究によって解明され始めている。

受精が対外受精(IVF)などの技術を使うのではなく、性交で起こったとすると、受精卵から赤ちゃんまでの旅は、女性の卵巣と子宮をつなぐ2本の卵管のうちの1本で始まる。受精卵は数日かけて子宮にたどり着き、その道のりで1つの細胞から分裂して、数百個の細胞でできた、なかが空洞の小さい玉(胚細胞)になる。なかに収まっているのは、内部細胞塊という胚性幹(ES)細胞のかたまりだ。胚性幹細胞は体のどんな種類の細胞にでもなれる能力があり、成長し、分化し、胎児のあらゆる器官と組織を形づくる。この特性は多分化能と呼ばれる。
次の段階は着床だ。胚細胞が子宮にたどり着くと、外側の細胞(栄養膜と呼ばれる)が子宮壁にもぐり込み、成長する胎児が酸素と栄養をとるための胎盤がつくられ始める。旅の一環として幹細胞は分裂し続け、さらに構造化された胚になる。じつは、このごく小さい胚はすでに組織化され始めていて、特定パターンの遺伝子のスイッチが入っている。たとえば、”Oct4”という遺伝子は、胚性幹細胞が多分化能(どんな種類の細胞や組織にも発達できる能力)を確実に維持するのに重要なので、内部細胞塊のなかだけで活性化し、栄養膜内ではスイッチが切られている。
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また、初期杯には、体をつくり上げる3つのはっきりした層もできる。外胚葉(おもに皮膚や髪、神経と脳をつくる)、内胚葉(腸、肺、および他の管状のものになる)、中胚葉(筋、血液、骨をつくる)。大まかに言って、外側と内側と中間と考えてもいい。この3層の形成は、発生の開始から約15日めくらいで起こる原腸形成(動物の一生で最初に起こる複雑な形態形成運動)とほぼ同時期に始まる。これは胚が円盤形の細胞の集合になっている時期だ。
原腸形成はおそらく、発育初期の最も基本的な部分であり、その後に続くあらゆることのために舞台を整える。イギリスの生物学者ルイス・ウォルパートはかつてこう言った。
「あなたの人生において真の意味で最も重要な時は、誕生でも結婚でも死でもなく、原腸形成なのです」
この段階の胚を入手することは倫理的にも技術的にも困難なので、ヒトの原腸形成の研究はとてもむずかしい。この過程に関する最もよい推測は、マウスの研究から得た結果だ。
原始線条と呼ばれる、胚の最上部に沿って走る(胚の前と後ろを区別している)細いすじを手始めに、細胞は胚のなかを動き回り、3つのはっきりした層に分かれていく。やがて、これらの層は折り重なって、整った管状構造になり、内側が内胚葉、外側が外胚葉、そのあいだに中胚葉が収まる。次に各層の細胞が、その場所と周囲の細胞から受け取るシグナルに基づいて、特有なパターンの遺伝子を活性化させ、細胞を決まった運命に導く一方で、他の選択肢を制限する。たとえば、外胚葉の細胞の一部は、脳細胞になるための旅に出て神経遺伝子のスイッチを入れ、筋肉や腸をつくる遺伝子を永久に停止させる。脳の発達過程(神経胚細胞と呼ばれる)については、次章でさらに詳しく扱う。