じじぃの「科学・芸術_921_遺伝子DNAのすべて・制御スイッチ」

Why most adults are lactose intolerant | AJ+

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yn0pxPWmzOg

牛乳飲んだ?

An Evolutionary Whodunit: How Did Humans Develop Lactose Tolerance?

Got milk? Ancient European farmers who made cheese thousands of years ago certainly had it. But at that time, they lacked a genetic mutation that would have allowed them to digest raw milk's dominant sugar, lactose, after childhood.
https://www.npr.org/sections/thesalt/2012/12/27/168144785/an-evolutionary-whodunit-how-did-humans-develop-lactose-tolerance

NHKスペシャル シリーズ人体Ⅱ「遺伝子」第2集 "DNAスイッチ"が運命を変える

2019年5月12日
今、遺伝子の研究で最もホットな分野の一つが"DNAのスイッチ"、専門的には「エピジェネティクス(後成遺伝学)」と呼ばれるものです。なんとDNAにはまるで「スイッチ」のような仕組みがあり、その切り替えによって遺伝子の働きががらりと変化。さまざまな体質や能力、病気のなりやすさなどが変わり、私たちの運命や人生までも左右するというのです。その神秘の世界にお連れするのは、
司会のタモリさん・山中伸弥さん、さらに、遺伝子に興味津々の俳優の石原さとみさん・阿部サダヲさん。さあ、あなたの体の中にもある「運命を変える仕組み」を探検しましょう!
どうすればDNAのスイッチが切り替わるのでしょうか?
こうしたDNAスイッチを切り替える働きを持つ薬は、「エピジェネティック薬」とも呼ばれ、新たな治療法として大きな期待を集めています。
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_972.html

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

スイッチの入れかた

人体を最上の状態で作動させ続けるためには、適切な時に適切な場所で遺伝子のスイッチが入らなければならない。

一般に、調節エレメントまたはエンハンサー(遺伝子の発現を強めるように働くDNAの短い塩基配列)と呼ばれる制御スイッチは、塩基の配列のいわゆる”文字”からなるDNAだ。これらは転写因子と呼ばれるタンパク質の結合場所として働き、RNAポリメラーゼとその他の転写機構を、読み取りに必要な遺伝子に引き寄せる。そこに結合できる特定の転写因子を決める。異なる転写因子は特定の配列に対して異なる親和性を持つ。たとえば、1つの転写因子は”TACGTA”という配列にしか付着しないが、別の因子はあまりえり好みせず、似通ったさまざまなDNA配列に結びつくこともある。
エンハンサーは通常、いくつかの転写因子の連結場所が次々につながってつくられている。転写因子も、協調してDNAに結びつきたがる。つまり、もし1つの転写因子がすでにエンハンサーの上に収まっていれば、他の因子もそれに続きやすくなる。じゅうぶんな転写因子がエンハンサーに付着すると、これがRNAポリメラーゼの”着陸台”のようなものになり、遺伝子の始点へと導いて、転写が開始できるようにする。
この場所にある特有の配列が、特定の細胞型のなかで結びついた転写因子とともに、遺伝子がその細胞内で活性化すべきかどうかを判断している。すべての細胞は同じ遺伝子とスイッチを持っているが(ゲノムが同じなので)それぞれの細胞型は、必要とされる遺伝子だけを活性化する転写因子の独特な組み合せを持つ。エンハンサーの配列は転写因子の結合場所となるのにとても重要なので、少しでも文字に変化があれば、転写因子の結合の度合いに影響するかもしれないということは、容易にわかる。これは次に、どれくらい効果的に転写を行えるかに関わってくる。
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ケンブリッジ大学のダンカン・オドム博士とそのチームは、制御スイッチこそが進化の舞台であることを発見した。オドム博士らは、6500万年かけて共通の祖先から進化したヒト、ハツカネズミ、ウシ、ハダカデバネズミ、クジラなど20種の哺乳類のゲノムを調べた。タンパク質をコードする遺伝子配列は、これらすべての種のあいだでよく似ている傾向があったが、オドム博士らは、時がたつにつれ、制御スイッチが大きく変わったことに気づいた。ヒト遺伝子の多くは、特に子宮内で妊娠中に、胎児の体内でいくつかの役割を果たす。そこで、タンパク質をコードする遺伝子配列になんらかの大きな変化があると、胚の成長に重大な悪影響が及ぶこともある。この研究結果によれば、今いる哺乳類の種の純然たる多様性は、タンパク質の変化というより、いつ、どこで遺伝子のスイッチが切り替わるかに変化が起こったからだと考えられる。身近なところでも、大人になってからも牛乳が飲めるかとうかや、青い目になるかどうか、さらに髪や肌の色にまで、制御スイッチへの変化がヒトの形質や特徴に影響してきた例はたくさんある。

牛乳飲んだ? より

世界(特に東アジア)の成人の4分の3は乳糖不耐症があり、牛乳を飲んだり乳製品を食べたりできない。残りの4分の1は、制御スイッチの1個の変化によって、こういう食品を楽しめる。
ほとんどの哺乳類(乳糖不耐症の人たちを含め)の体内にある、乳糖を分解する酵素ラクターゼをコードする遺伝子は、若年期にスイッチがオフになる。しかし、約1万年前、ヨーロッパ系人の祖先のひとりが、ラクターゼ遺伝子近くの制御スイッチが変化した状態で生まれた。つまり、成人になってからもその遺伝子がずっと転写され続けた。
さらに、アフリカと中東の住民たちのラクターゼ遺伝子周囲の非コードDNAにも、それぞれ別個に遺伝子変化が起こり、その遺伝子を活性化し続ける同じ効果が生まれた。ラクターゼ存続の遺伝子変化は、世界のどこに現れた場合も、その地域での酪農業の広がりと連動しているようだ。牛乳は、タンパク質とエネルギーのよい供給源なので、牛を飼育できることは大きな利点になったに違いない。