じじぃの「科学・芸術_920_遺伝子DNAのすべて・スーパーヒーロー」

GUARDIANS Official TRAILER (2017) Superhero Blockbuster Movie HD

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=j450dFQQU20

Hollywood re-engineers the DNA of superheroes

NHKスペシャル シリーズ人体Ⅱ「遺伝子」 あなたの中の宝物"トレジャーDNA"

2019年5月5日
近年、飛躍的な進歩を遂げているDNAの研究。カギを握っているのは、これまで研究者たちの間で「ゴミ」とさえ呼ばれてきた、DNAの98%を占める未知の領域です。最新の研究から、このDNAの98%という膨大な領域の中に、ゴミどころか、むしろ「宝物」のような情報が、たくさん眠っていることがわかってきました。
司会のタモリさん・山中伸弥さんに加え、俳優の石原さとみさん・鈴木亮平さんという豪華メンバーで、あなたのDNAの中にも眠っている宝物、"トレジャーDNA"の知られざる世界に迫りました。
オックスフォード大学のスティーブン・フレンドさんは、数十万のデータを集め、病気にならないDNAを探しています。

「我々は今まで、病気の原因となるDNAを探してきたが、今後は病気にならないDNAを探すべきなのです」。

フレンドさんは調べたい人のリストを持っていて、たとえば遺伝病の原因遺伝子を持つのに発病していない人や、 HIVウィルスに感染しても発症しない人 、など「本人さえも気づいてないスーパーヒーローを見つけたい」と話していました。
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_967.html

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

遺伝的スーパーヒーロー

スーパーマンワンダーウーマンは架空の人物だが、現実の遺伝的スーパーヒーローは私たちのそばにいる。あなたもそうかもしれない。

姿を現した最初の遺伝的スーパーヒーローは、スティーヴィン・クローンだった。1980年代にニューヨークとロサンゼルスに住んでいたゲイの男性で、コミュニティーじゅうに広がり始めた恐ろしい病気に多くの友人が倒れるのを見てきた。
しばらくたってその病気は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による進行性で最後には死にいたる病気、エイズ(AIDS、後天性免疫全症候群)と特定された。クローン氏は、ウイルスにさらされたにもかかわらず、病気にならなかった。他の多くの人が持たない免疫をなぜ自分が持っているのか不思議に思い、クローン氏は自発的に研究対象になることを申し出た。
科学者たちは、クローン氏が”CCR5”という遺伝子のまれなアレル(対立遺伝子)を2つ持っていることを発見した。この遺伝子のふつうのアレルは、免疫細胞にウイルスを入り込ませる分子のドアとして働くたんぱく質をコードする。驚いたことに、クローン氏の遺伝子のアレルは、このドアを効果的にふさぎ、ウイルスを締め出していることがわかった。
ヨーロッパ系の人々の1パーセント弱がCCR5の抵抗力のあるアレルを2個持っていて、HIV感染に高い免疫力がある(防御が完全に保証されるわけではないが)。さらに10~15パーセントは1個持っている。HIV感染への免疫ができるわけではないが、感染の危険がが減り、AIDSの進行が遅くなる。今日では、命を救う多くの薬のおかげで、HIV感染は、死の宣告ではなく生存期間が何十年もある、慢性の疾患に変わった。その薬の1つがマラビロクで、シーエルセントリという商品名でも知られる。CCR5でつくられるタンパク質に貼りついて、HIVが免疫細胞に感染するのを防ぐこの薬は、クローン氏の抵抗力のある遺伝子研究から直接開発されたものだ。
ティーヴィン・クローンのような人たちは、遺伝的スーパーヒーローだ。彼らのCCR5遺伝子の多様性は、まるで特殊能力のように働き、大多数の人が感染するウイルスから身を守ってくれる。現在、大規模なDNAシークエンシング(塩基配列決定法)によって、他にもたくさんのスーパーヒーローがいることが明らかになっている。彼らはウイルス感染の脅威を撃退できるだけでなく、自らの細胞内の病因的遺伝子による疾患への抵抗力もある。
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これまでの研究によれば、スーパーヒーローは世界じゅうに確かに存在する。じつのところ、誰が遺伝的な特殊能力をもっていても不思議ではない。誰でも最大40個のいわゆる”悪い”遺伝子の多様性や異常を持っている可能性があるが、それらは他の遺伝子情報、環境、生活習慣によって埋め合わされる。興味深いことに、アイスランドにはスーパーヒーローが多く生まれる傾向にある。人口がとても少なく、長期間や孤立状態だったことから、アイスランドは、他の地域に比べて血縁関係の近い人が多い。実際、人口の約8パーセントは、病気を起こすはずの遺伝的変異を2コピー持っているが、必ずしもその有害な影響を受けていない。この現象は、ヒトに限ったものではない。イヌがかかる筋萎縮性疾患のデュシェンヌ型筋ジストロフィーに抵抗力をもつ”スーパードッグ”が見つかっている。
この研究室には、スーパーヒーローを探すだけでなく、さらに刺激的な目的がある。スティーヴィン・クローンの抵抗性を持つCCR5が重要なHIV治療薬の開発につながったのと同じく、こういう少数の幸運な人を保護している遺伝因子や環境要因を見出し、あまり幸運でない人をいずれ治療できるようにすることが期待されている。同時にそれは、遺伝病を白か黒かでとらえる考え方を改める必要性を示している。完全にメンデル型だと考えられていた病気でさえ、現在では多様な遺伝子変異を持つ人々のあいだで、重症からほぼ完全に健康と言える状態まで、幅広い徴候を見せているようだ。これは遺伝子検査やカウンセリングにとって、重要な意味を持つ。遺伝子構成(遺伝子型)からは、その人がどんな外見になるか、健康状態がどうなるか(これを表現型という)を完全には予測できないことを示しているからだ。