【生物基礎】 遺伝子25 メンデルの研究 (11分)
赤毛の遺伝子
ヒトはマメにあらず
遺伝学の基本となる法則は、1世紀以上前、メンデルという修道士と彼が育てたエンドウマメのおかげで解明された。今日、ヒトの形質と遺伝のしかたについて、わたしたちは何を知っているのだろうか?
エンドウマメには花や種の色などにははっきりした遺伝形質があるので、メンデルはこの植物を用いて異なる特徴がどのように受け継がれるのかを確定できた。彼は苦労しながら、花粉をそれぞれのエンドウマメに受粉させて繁殖をコントロールし、特定の方法で紫色の花と白い花を交配させ、それぞれの色の花が咲いた子孫の数を数えた。まずはじめに、何世代にもわたって紫色の花しか咲かせない「純種」の紫の花をつけるエンドウマメをいくつか見つけた。次に、それらを純種の白い仮名をつける純種と交配させ、その結果生まれるエンドウマメの花の色を調べた。どれもが紫色の花をつけ、白い花はまったく咲かなかった。次にメンデルは、これら第1世代の紫色のエンドウマメを互いに交配させた。興味深いことに、その結果生まれた子の4分の3は紫色の花をつけ、4分の1は真っ白な花をつけた。メンデルは、いくつもの交配と計算を行ったのち、花の色や、緑や黄色のマメなどの形質の遺伝は3つの基本的な法則に従うという結論を得た。
第一に、それぞれの特徴は2つの「継承の要素」で決定され、そのどちらかが変化しないまま子に伝わるはずだと考えた。第二に、1つの形質は、他の形質と切り離されて継承されることから(たとえば、赤い花は緑のマメと必ずしも一緒に伝わらない)別々の要素に違いないと判断した。第三に、ある形質を受け継いだ子孫の比率を測定すると、いくつかの要素は顕性(優生)、つまり必ず子孫に発現するが、別のいくつかは潜性(劣勢)で、一定の条件下でしか現われないことに気づいた。現在では、それらの要素は遺伝子だとわかっているが、当時はDNAが細胞内の遺伝物質であることや、遺伝とはいったいなんなのか、どう動くのか、誰も知らなかった。
・
メンデルのエンドウマメで見てきたとおり、同じ遺伝子座を占める多様なDNAは、アレル(対立遺伝子)と呼ばれる。これらは「風味」のようなものと考えもよい。一部の遺伝子は、ごく限られた範囲にとどまっている。その一例は、16番染色体にある”ABCC11”と呼ばれる遺伝子で、細胞から分子を出し入れするタンパク質をコードしている。この遺伝子には2つの異なるアレルがある。遺伝子内部の特定に位置にGがあるもの(原型)と、同じ位置にAがあるものだ。これは一塩基多型(SNP)だ。アレルGは顕性で、Gを2個またはGとAを1個ずつ(両親のそれぞれから1個ずつ)受け継げば、耳垢が湿ってべとつきワキガ体質になる。このアレルは、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカの人々ではごくふつうに見られる。アレルAを2個受け継ぐ人はアジアに多く、耳垢が乾いてはがれやすくワキガがほとんどない。2つのアレルの遺伝様式は、メンデルの法則に従っていて、ほとんど耳垢の質を”決める”遺伝子と言える。
単一遺伝子の機能不全が引き起こす病気は数百種類あり、これらはメンデル遺伝病と呼ばれる。
赤毛の遺伝子 より
赤毛の人は気性が激しいという説に科学的根拠はないものの、赤い髪の遺伝的起源についてはかなり多くのことがわかっている。色合いにはいくつかの遺伝子が関わっているが、赤い髪は”MC1R”という1つの特定の遺伝子によって現われる。この遺伝子は、メラノコルチン1受容体と呼ばれるタンパク質をコードする。これは、メラノサイトと呼ばれる特別な色素生成細胞のなかにある。個人の肌や髪の色はおもに、メラノサイトが生成する2つの色素の相対的比率によって決まる。暗褐色のユーメラニンと、淡い色のフェオメラニンだ。
茶色や黒の髪、褐色の肌をした人たちは、ユーメラニンをたくさんつくっていて、黒く日焼けしやすい。ユーメラニンは、太陽の紫外線による損傷を防ぐ一種の自然の日焼け止めとして働く。赤毛を発現するMC1Rの多様性は、ユーメラニンの生成を減らしてフェオメラニンを増やすので、結果として赤やブロンドの髪になる。高レベルのフェオメラニンは、そばかすや、赤く日焼けしやすい白い肌にも関連している。ユーメラニンと違って、フェオメラニンは紫外線に対する保護を与えてくれないので、赤毛の人たちはひどい日焼けや皮膚がんを起こすリスクが高い。興味深いことに、ネアンデルタール人の化石から採取した古代DNAの分析によると、わたしたちの遠い親戚にも、MC1Rに別の多様性があったことから、赤い髪を持つ人がいた可能性がある。しかし、彼らの髪が現代人に見られる赤毛と同じ色合いだったかどうかははっきりしない。
遺伝子に組み込まれている より
体重が遺伝形質で、人々の体重の変動の70パーセントが遺伝子によるものであることはよく知られている。しかし環境要因(健康的な食物の入手や活動的な生活習慣など)も大きな役割を果たしている。
遺伝子がどうだろうと、誰でも食べすぎてエネルギーを消費しなければ体重が増える。もちろん、単一遺伝子異常が太りすぎを招くまれな状況もあるが、ほとんどの人にとって、体重は遺伝子と環境、行動の相互作用だ。