じじぃの「科学・芸術_915_遺伝子DNAのすべて・ネアンデルタール人」

現代人起源はアフリカ南部 20万年前、湖と豊かな緑 豪などのチーム発表

2019年10月29日 毎日新聞
現代に生きている人類(現生人類)の祖先は20万年前にアフリカ南部で生まれたとの分析結果を、オーストラリアなどの国際研究チームが28日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。当時は大きな湖と緑豊かな自然が広がっており、そこが祖先にとってゆりかごのような存在となっていたとみられる。
現在は乾燥したボツワナ・マカディカディ低地の周辺で、祖先たちは13万~11万年前ごろまで生活。植物の分布が拡大するのに合わせて南と北へ拡散を始め、6万年前にはアフリカを出て世界中に広がったとみられる。
https://mainichi.jp/articles/20191029/k00/00m/040/056000c

ネアンデルタール人は私たちと交配した スヴァンテ・ペーボ 野中香方子/訳

発売日:2015年06月27日 文藝春秋BOOKS
2015年7月5日放送予定のNHKスペシャル『生命大躍進』第3集「ついに“知性”が生まれた」に著者登場!!
現生人類にもっとも近いヒト族だったが、数万年前に絶滅し、その遺伝子は絶えたと思われていたネアンデルタール人
しかし、ひとりの科学者が数十年に及ぶ苦闘の末に、化石骨からネアンデルタール人のDNAを復元した。そして、そのDNAが現生人類の中に数%残っているという驚愕の事実を明らかにしたのだ。
本書はその男、スヴァンテ・ペーボ博士が自ら記した回想記。
ペーボは学生時代にミイラのDNA復元に挑んだのを皮切りに、古代DNAを取り出し、増幅して復元するという研究ジャンルそのものを創始したといえる。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163902043

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

わたしたちの遺伝子の旅

ヒトゲノムの旅は、何十万年も前にアフリカで始まった。とはいえ、わたしたちの家系図は、思っているほど単純ではない。

最もよく知られている進化の図の1つは、画家のルドルフ・ザリンガーが1965年に初期の人類について描いた”進化の行進図”だ。この図は象徴的ではあるが、事実から見て正確ではない。種は何百万年もかかて徐々に進化し、図のようなまっすぐな歩みではなく、何本にも枝分かれしてもつれた系統樹をつくる。人類の歴史と、今日の地球上の多様な生命にも同じことが言える。より大きな括(くく)りの同じグループに属する近縁種の例はたくさんある。たとえば、ゾウやペンギン、ネコなどにも異なる種がある。

ところが、現生人類(「賢い人」を意味するホモ。サピエンスという種)は地球上に存在する唯一の人類だ。

それなら、私たちはどうやってここにたどり着いたののか? 祖先はどんな姿をしていたのか? わたしたちの遺伝子にどんな影響を与えたのだろう?

人類にとっての大きな飛躍 より

オモ川は、東アフリカの国エチオピアを流れ、ケニア北部のトゥルカナ湖に注いでいる。今日、川は国立公園と野生動物保護区のなかをくねくねと進んでいるが、20万年前、その岸は、現生人類と身体的と特徴が一致する、おそらく最古のヒトの故郷だった。
1967年、ケニアの古人類学者リチャード・リーキーのチームは、頭蓋骨2個とその他の骨を発見した。当時利用できた最高の技術によって、それらはおよそ13万年前のものと判明した。当時としては最古の現生人類の化石と思われた。40年後、新たな年代測定法によって、その時期はおよそ19万5000年前にまでさかのぼった。それらの骨は、多くの点で現生人類と身体的特徴が似ているが、現代の人類のような行動様式は持っていなかったようだ。原始社会に見られる文化とテクノロジーの確かな証拠は、さらに何万年もたってからようやく現れる。
ヨーロッパとアジアにはネアンデルタール人や他の初期ヒト族が定住していたが、現生人類の祖先は少なくとも10万年間アフリカにとどまっていた。彼らは数を増やし、種として進化と発展を続けた。いくつかのグループはアフリカを離れたのかもしれないが、化石記録や古代のDNAにはその確かな痕跡がほとんど見つからないので、はっきりしたことは言えない。わかっているのは、おそらくその地域の気候条件の変化を受けて、6万から7年前に移動を開始したことだ。最初に生じた移動の波で、初期のヒトは中東にたどり着き、次に世界の他の地域に広がっていった。それは決して楽な旅ではなかった。自然災害ときびしい天候が、何度も移動集団を絶滅寸前まで追い込んだのかもしれない。今日の世界の人口は約75億人なので、かつての人類が1万人にまで減ったとは想像しにくい。

いとこより近い? より

2010年、スウェーデンの遺伝学者スヴァンテ・ペーボのチームは初めて、ネアンデルタール人のおおまかなゲノム塩基配列をまとめた。これは、ネアンデル谷で最初に発見されたネアンデルタール人の骨だけでなく、クロアチア、ロシア、スペインで発見された骨からも標本を採取して行われた。それらのDNAによれば、ネアンデルタール人は茶色の目と、アフリカの祖先より薄い色だが現代のヨーロッパ人ほど薄くはない色の肌で、なかには黄褐色の髪した者もいた。また、現生人類と同じ形の”FOXP2”遺伝子を持っていたこともわかっている。これは言語に関係する遺伝子で、彼らが喉に舌骨と言われる現生人類のものと似た骨を持っていたことを考えると、なんらかの形で言葉を話せたのだろう。
おそらく古代DNAの分析で最も驚くべき結果が出たのは、ネアンデルタール人のゲノムを、世界のさまざまな地域に住む現生人類のDNAと並べてみたときだった。科学者たちは、現生人類の一部のグループに存在する特定のDNAが、ネアンデルタール人のDNAとまったく同じであることに気づいた。アフリカのいくつかの部族を除いて、ほとんどすべての人は少なくともネアンデルタール人のDNAをいくらか持っていることがわかった。一部のひとは他の人よりこの祖先の親戚から多くの痕跡を受け継いでいるようだが、平均すると、ヒトゲノムの約1~3パーセントになる。つまり、初期の現生人類は、共存時代にネアンデルタール人と交配していたに違いない。何千年もたつうちに、そのDNAのほとんどはヒトゲノムから失われたが、ネアンデルタール特有のアレル(対立遺伝子)はゲノムのさまざまな領域で今もかなり広く見られる。たとえば、肌や髪の色、免疫系、血液凝固、食事中の脂肪とでんぷんの分解能力に関わる遺伝子などだ。