じじぃの「歴史・思想_54_ナイジェリアの歴史・アフリカの巨人」

Nigeria - Future African Superpower

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物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像 島田周平(著) 中公新書

アフリカはサハラ砂漠南縁を境に、北のアラブ主義と南のネグロ主義に分けられる。現在この両者にまたがる唯一の国がナイジェリアである。
サハラ交易による繁栄、イスラーム流入奴隷貿易、イギリスの統治などを経て、ナイジェリアは人口・経済ともにアフリカ最大の国となった。20世紀には150万人以上の犠牲者を出したビアフラ戦争を経験し、イスラーム過激派組織ボコ・ハラムを抱える「アフリカの巨人」の歴史を辿る。

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『物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像』

島田周平/著 中公新書 2019年発行

おわりに より

最近、経済学や開発学の分野で、「アフリカ型発展」の模範国探しが盛んである。アフリカの中で発展のモデルとなる国を1つでも2つでも見つけ、その発展の経路を学ぶことでアフリカ全体の発展を早めようとする経済学者や開発学者らの切実な思いがあってのことである。
政府に統治能力があり、汚職が少なく、構造改革に積極的で、経済効率性への転換がみられる比較的規模の小さな国が模範国として適切だとして、ガーナに期待がかけられている。紛争が収まることが前提となるが、教育水準の高いコートジボワールジンバブエなどにも注目が集まっている。
残念ながら、ナイジェリアがこの「アフリカ型発展」の模範国に挙げられることはない。教育水準は高いが、政府の統治能力は高いとは言えず、汚職も多く、伝統的統治システムは残存し、何よりも経済学者や開発学者がも好む小さくて効率的な国でもない。ナイジェリアは、むしろ効率の悪い大国である。ナイジェリアの経済規模は、ガーナ、コートジボワールジンバブエの3ヵ国の国民所得の総計の3倍を上回っている。さらに言えば、例えばナイジェリアの北部、西部、東部といった各地域が、これら各国と同等以上の人口と経済規模を持っている。当然のことながら、これらの国々の経済発展がナイジェリアの参考になる可能性は低いのである。
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ナイジェリアは、独立後すでに半世紀を過ぎ、内戦も経験し独特の連邦制を編み出してきた。その連邦制がナイジェリア政治の非効率性の一因であることは第10章で述べてところであるが、それは、トインビーが言ったアフリカの分割線を跨ぐ唯一の国として、その分割線のヒビ割れをつなぐジョイントの役割を担う国の宿命であると言えよう。アフリカで唯一このような重い課題を背負った大国ナイジェリアは、効率を追求する小国とは違う独自の「ナイジェリア型発展」の途を模索するしか方法はないのではなかろうか。
そのためにはまず、地域の歴史を丹念にたどりつつ、それらを束ねて共通の歴史へと綯(な)っていく地道で不断の努力が必要だろうと私は思う。そうすることによってはじめて、ナイジェリアは国内の地域的差異を政争の具にすることから脱却し、地域的多様性を経済発展の力に結びつけることができると思われる。この歴史認識に関する努力が、経済発展を目指すナイジェリアには必須であり、それができてはじめてこの国は他のアフリカ諸国から尊敬の意を込めて、「アフリカの巨人」と呼ばれるようになるのではなかろうか。それは、長い時間を要する自省的な作業となろうが、この過程を経ない限りナイジェリアが将来にわたり持続的に発展する途はないのではないかと私は考えている。