じじぃの「歴史・思想_51_アインシュタインの旅行日記・日光に向けて出発」

Einstein's Diaries Reveal A Racist Streak

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=AJsAvKAGMKU

岡本一平が描いたスケッチ

Einstein goes east

“Albert Einstein or The Nose as a Reservoir for Thoughts,” by the Japanese cartoonist Ippei Okamoto, 1922.
https://science.sciencemag.org/content/360/6390/722/tab-figures-data

アインシュタインの旅行日記 - 日本・パレスチナ・スペイン - アルバート・アインシュタイン

アルバート・アインシュタイン/著、Z・ローゼンクランツ/編、畔上司 /訳 草思社 2019年発行

旅日記 日本、パレスチナ、スペイン 1922年10月6日~1923年3月12日 より

十六日と十七日。

緑の小島が無数に浮かぶ日本の海峡を通過。絶えず変化するフィヨルド風のすばらしい景観。十七日午後、神戸着。長岡、石原、桑木。長岡氏は、華奢で上品な夫人を同伴。それにドイツ領事とドイツ人協会、シオニストたちが歓迎。大騒ぎ。船上に多数のジャーナリスト。サロンで30分間のインタビュー。大勢の人々といっしょに上陸。波止場近辺のホテルで息抜き。
晩に、教授たちと2時間の列車の旅。軽快な車両。乗客たちは窓沿いに長く2列に座っている。京都では、通りや、小さくて感じのいい家々が魔法のような光に照らされている。少し高いところにあるホテルまで車で行く。下の町はまるでまるで光の海。強烈な印象。愛くるしくて小柄な人たちが、通りを早足にカタカタ歩いている。ホテルは大きな木造建築。みんなで食事。狭い個室に、華奢で上品なウェイトレスたち。日本人は簡素で上品。とても好ましい。
晩、科学について会話。いろいろあってとても疲れた。
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二日。

工業学校を訪問。学生たちに挨拶。竹内が演説。仙台に向かう(1時~9時)。本多と愛知は4時間かけて出迎えてくれた。到着。駅には教官仲間、学長。それに植物学者モーリッシュ。通りの向かいにあるホテルとのあいだの道は命知らずの大混雑。そのホテルで官庁主催の歓迎会。

三日。

朝、9時半~12時と、1時~2時半に講演。山本、そして風刺画家岡本といっしょに松島へ。海岸の絶景。和風の和食店に立ち寄る。夕食は物理学者たちとホテルで。詩人の土井と知り合う。北斎のスケッチブックと、彼自作のイタリア語詩集を贈ってくれた。晩には大学の感動的な歓迎会。学生たちとの集まり。それから教授たちと。モーリッシュおよび医学部長の隣に座る。名前と日付を壁に墨で書かされた。

四日。

稲垣、山本、岡本といっしょに日光に向けて出発。本多は1時間同行。立派な人たち。陽気で謙虚、自然と芸術を愛している。忘れがたい。列車からすばらしい山岳風景を観た。昨日と今日はどこへ行っても鉄道職員たちから特別親切に配慮してもらう。ご夫人たちが東京で列車に乗り遅れたため途中で行き違い。絵のように美しい列車旅。なかばアメリカ風のドイツ系アメリカ人の男性と会話。絹の靴下を製造している人。稲垣、岡本とともに日光村を通り、歩いてホテルへ。同日の晩にも岡本はとても魅力的な戯画を多数スケッチ。

五日。

稲垣がなかなかベッドから出てこない。奥さんと再会したからだ。9時半頃、標高1300メートルの中禅寺湖に向け出発。正式な登山口まで車で行く。それから壮麗な森林のなかを登る。山岳と狭い峡谷、平地の眺めを愛でる。頂上で激しい吹雪に遭い、寒気を感じる。吹雪は、私たちが下に戻るまで続いた。わらじ姿の岡本はなかでも哀れだったが、常にユーモアといたずら。
晩に、神戸のドイツ人協会から何通目かの電報。少なくとも日本にいるあいだは日本人を相手にしていたい。日本人はイタリア人と気性は似ているが、日本人のほうが洗練されているし、今も芸術的伝統が染みこんでいる。神経質ではなくユーモアたっぷり。途中で仏教談義。日本の教養人は原始キリスト教をもてあそんでいる。次のテーマは、ヨーロッパと接触する前の日本人の世界観。以前の日本人は、国内の南の島々のほうが北の島々よりも暑いのはなぜか考えたことがなかったようだ。また、太陽の高さが南北の位置によって異なることも知らなかったようだ、ここの国民は知的欲求のほうが芸術的欲求よりも弱いようだ――天性?

六日。

日光で一連の寺院を訪れる。自然と建築が荘厳に一体化。一連の中庭の構成よよって効果が高まっている。中央の建築群は多彩な彫刻によって華麗に装備されている。緊張気味。自然表現の喜びのほうが、建築や、さらには宗教面の喜びを凌駕している。歴史について僧侶が長話――うんざり。杉の下のすばらしい石段を登っていくと、徳川家最古の墓に出る。午後、そこにベック[兄弟のどちらか]と娘。駅に歩いて行く途中で、山並みに沈む豪壮な日没。東京に移動。ホテル内でごたごたしながら荷造り。