じじぃの「科学・芸術_864_映画『ザ・サークル』」

The Circle Official Trailer 1 (2017) - Emma Watson Movie

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=QCOXARv6J9k

The Circle

解説・あらすじ - ザ・サークル (The Circle 2017) Yahoo!映画

監督 ジェームズ・ポンソルト
●あらすじ
世界一のシェアを誇るSNS企業「サークル」に勤めることになったメイ(エマ・ワトソン)。サークルの経営者ベイリー(トム・ハンクス)は、オープンでシェアし合う社会を理想としていた。
ある日、新サービスが発表され、メイは自らの24時間をネットワークで全世界に公開するモデルケースに選ばれる。すぐさまメイは1,000万以上のフォロワーに注目されるようになるが……。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/361586/story/

『監視文化の誕生』

デイヴィッド・ライアン/著、田畑暁生/訳 青土社 2019年発行

完全な透明性 より

インターネットが使われはじめた頃、「グローバル・コミュニケーションで世界を変える」「情報を即座に利用できる画期的な『世界脳』が作られる」といった、たわごとのような夢がたくさん語られた。そして当初は、インターネットの持つ監視の次元についてコメントする者はごく少数だった。しかし20年経つと、特にグローバル企業や政府機関による「まなざし」に対して、恨み事も随分と聞かれるようになった。原爆は例外かもしれないが、ほとんどのテクノロジーは、否定的な側面を人間寄りに緩和させることができる。したがって、ディストピアユートピアを識別することが、現今の課題である。
歴史学者ミシェル・フーコーは、ユートピアに対して鋭い目を持ち、また、軽蔑もしていた。「それは透明な社会という夢だった。社会の各部分が可視的で認識可能となり、王室や特権企業の『闇の部分』、無秩序の部分はもはや存在し得ないという夢想である」。ここでフーコージャン・ジャック・ルソーによる、かつては全てが開かれていて平等で自由だったという民主主義的な夢想に遺憾の意を表しているのである。フーコーはこれと、ジュレミー・ベンサムによる全てを見通す一望監視という同様にユートピア的な考えを対置する。これは「パノプティコン」と呼ばれるが、自己規律を通じた完全な管理という、全く対照的な結果を実現する。しかしこの両方とも、透明性が、社会の病理を癒やす万能薬として見られている。前者では世論が役割を果たし、後者では、ある種の社会工学が社会のスムーズな作動を確保する。
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ザ・サークル』の冒頭は、メイの「すごい、ここは天国だ」というつぶやきから始まる。その491ページ後に読者は、この言葉が正しかったのかどうか判断しなくてはならない。サークル社の新入社員であるメイ・ホランドの経験を軸にして物語は進んでいく。彼女が仕事にのめりこんでゆく描写には説得力がある。休まず出勤し、常にディスプレイに向かい、監視活動を必要かつ有益と自分を合理化してゆくのだ。メイは不快感を抑圧する。常に仕事をし続けるとどういうことなのか、この物語は笑いと遊び、そして風刺に満ちたやり方で描き出す。しかし、彼女がスイッチを切ったり、コンセントを抜いたりできないこと、全データが永久に残り彼女自身につきまとう可能性は、暗い影を投げかける。
ザ・サークル』は監視文化に関わっている。「サークル社」がユートピアなのかディストピアなのか。読者は判断するように誘われるが、答えは書かれていないため、チェックリストを作る必要がある。物語は一種のSFではあるが、現実世界とあまりにも似ているので、実際の近未来の姿だと思えてしまうほどだ。シリコンバレーに本社を置いている点も現実感を強めている。ユートピア小説やディストピア小説は、読者の見方や行動に最もよく合った登場人物に感情移入することで、世界の見方を手助けしてきれる。同時に、話の筋を追っていきながら、当初は不快だった人物や疑わしい人物がすぐ隣にいるように感じられるかもしれない。ユートピア小説やディストピア小説を読むことは、このようなダイナミックな経験である。
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束の間ではあるが、サークル社の支配的文化が、潜んでいた「スパイ」によって脅かされたことがある。メイが秘密の逢引をし、「常に見られていたい人なんている?」と、「全てが見られるべき」という思想に納得ができないと告白した相手であるカルデンは、実は3賢人の1人であるタイ・ゴスポディノフで、立場を偽っていたことが分かった。この「改心」は、社の重鎮が別の考えを真剣に追求していたことを物語る。彼はメイを、全体主義になったとして今や恐れているサークル社を掘り出す陰謀に引き込もうとする。メイは合意したふりをし、陰謀は明るみに出る……。
ユートピアディストピアかという視点は、私たちの現在の選択への意識への意識を刺激する。それがソーシャルメディア世界においてであろうと、より一般的に、9・11テロ以降やスノーデン以降の監視に関してであろうと、デイヴ・エガーズ(『ザ・サークル』の著者)のように対立を設定することは、物事がこうであるべきかどうかという問いをもたらす。

表向きの「天国」が実は皮肉にも、魅力的でなくむしろ地獄に近いことを示したのは、エガーズの貢献である。