じじぃの「科学・芸術_848_中国の企業・阿里巴巴集団(アリババ・グループ)」

『世界の覇権企業 最新地図』

現代ビジネス研究班/編 KAWADE夢文庫 2019年発行

阿里巴巴集団(Alibaba Group アリババ・グループ) 「アリペイ」は、なぜ中国の銀行を浸食しているのか? より

中国の大手銀行は、他の国にない脅威にさらされている。アリババのスマートフォンを使った電子決済システム「支付宝(アリペイ)」によって、中国の大手銀行は痩せ細っていっているからだ。
中国人の生活はアリペイひとつで成り立つ。「アリペイ」があれば、キャッシュをもたずに買い物もできるし、地下鉄にも乗れるし、レストランで食事もできる。「アリペイ」が浸透していったおかげで、中国人の生活習慣のなかから、銀行で現金を引き出すことは、ほとんどなくなってしまった。
そのため、銀行のATMの利用者は激減した。多くのATMは採算が採れなくなり、撤去に向かっていった。さらには、小口の送金にも、「アリペイ」を利用する人が増え、銀行の業務はここでも縮小した。
しかも、アリババは、「余額宝(ユーウーバオ)」という金融サービスもはじめている。これは「アリペイ」の口座段高を低リスクの金融商品の投資に充(あ)てるというマネー・マーケット・ファンドだ。年間利回りは3%以上とされる。これに魅せられて、消費者は銀行預金を「アリペイ」口座に移したから、これまた中国の銀行にとって打撃となっている。一方、「ユーウーバオ」は、世界最大のマネー・マーケット・ファンドに成長している。
電子決済サービスは、アリババの「アリペイ」の専売特許ではない。SNSで有名なテンセント(騰訊)も電子決済サービス「微信支付(ウィチャットペイ)」を登場させ、キャシュレス化をさらに進めた。
「アリペイ」「ウィチャットペイ」ふたつの電子決済総額は中国のGDPの2倍にも達しているくらいだから、銀行の業務は縮小の方向に移り、経営は悪化した。中国の銀行の窓口決済業務は、最盛期の10分の1以下になっているという。2015年、中国の4大商用銀行ではおよそ163万人が働いていたが、このうち6万人以上が人員削減の対象になったという。
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アリペイは海外にも拡大し、いまは70ヵ国で使用可能になっている。各国でアリペイが浸透するなら、それぞれの国の銀行が痩せ細っていくことになる。アリババやテンセントが、巨大な金融機関になる日がくるかもしれないのだ。
また、中国共産党政権は、アリババ、テンセントを押え込もうとせず、既存の銀行と両立させようとしているようだ。中国工商銀行をはじめとする中国の4大銀行は、すべて国有銀行である。「アリペイ」や「ウィチャットペイ」の浸透によって、国有企業がぐらつく事態は、政権にとっては本来、好ましいものではないだろう。
だが、現実には中国政府は「アリペイ」や「ウィチャットペイ」の成長を邪魔はしない。世界各国にも浸透できる能力をもつシステムは、中国の覇権確立に役立つからだろう。その一方、政府は国有銀行をぐらつかせたままにはできない。中国政府は、国有銀行に仕事を与え、彼らを存続させようとしている。習近平主席の唱える「一帯一路」構想は、そのひとつだろう。