じじぃの「夢の長寿薬・ラパマイシンの抗がん作用!やわらかな生命」

老化が関連する様々な疾患

ラパマイシンの抗がん作用

●寿命延長効果と抗がん作用を持つラパマイシン
ラパマイシン(Rapamycin)という薬があります。シロリムス(Sirolimus)という別名で呼ばれることもあります。これは臓器移植の際の拒絶反応を防ぐために使用される薬ですが、このラパマイシンに寿命延長効果と抗がん作用が明らかになったことから、ラパマイシンの生体内のターゲット分子である哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin)、略してmTOR(エムトール)という蛋白質が注目されています。
ラパマイシンは1970年代にイースター島(モアイ像で有名な南太平洋の島)の土壌から発見されたStreptomyces hygroscopicsという放線菌の一種が産生する有機化合物です。イースター島ポリネシア語で「ラパ・ヌイ(Rapa Nui)」と言い、この「ラパ」と「菌類が合成する抗生物質」を意味する接尾語の「マイシン」とを組み合わせて「ラパマイシン」と名付けられています。
http://www.f-gtc.or.jp/mTORC1/rapamycin.html

『やわらかな生命』

福岡伸一/著 文藝春秋 2013年発行

夢の長寿薬 より

――その冬、福岡ハカセは米国テキサス州サンアントニオに旅した。殺風景な街はずれの安ホテルに宿をとった。入るとすぐにフロント。まっすぐに廊下が奥に伸びていて左右対称に部屋がある。廊下の一番奥にエレベータ。どうやらこれは後から設置したものらしい。入り口にプレートがはめ込まれていて「史跡」とある。
いったいどういう歴史があるというのだろう。ホテルの人に聞いたら一言「ジェイル」。な、なんと。各部屋のドアの代わりに鉄格子がはめられていたのだ。映画『羊たちの沈黙』に出てきたレクター博士の地下牢を思い出す。内装や調度品は清潔で新しかったが、監獄をホテルに転用するとは大胆な。ここで怨讐に咽(むせ)びながら死を迎えた囚人たちがいたのだろうか。なんとも落ち着かないまま一夜を過ごす。
翌朝、テキサス大学健康科学センターのシャープ教授を訪問した。彼は最近、蚊ゥt気的な発見をしたのだ。シジフォスが必死に持ち上げようとして、結局、転げ落ちてしまう岩。そんな詮無い、時間との闘いとしての生命は存在し、最後は必ず死にいたる。その帰結を変えることはできないけれど、それが必然であればあるほど、その時をより遠くへ引き伸ばしたいと願うのも人間。古来、ありとあらゆる不老長寿の妙薬が求められたが、いずれも儚(はかな)い幻影に終った。
ところがついに夢の長寿薬が見出された。その名はラパマイシン。イースター島に由来する。シジフォスならぬモアイの巨石が立つ土の中に秘密が隠されていたのだ。
シャープ博士は、小太りの温厚な紳士。おもむろにラパマイシンの話を聞かせてくれた。ラバとはイースター島の現地名。~マイシンというのは薬剤を指す接尾語。現地を探検した科学者が土壌サンプルを持ち帰った。変わった風土は変わった生命をはぐくむ。土には特殊な細菌が生息しており、特殊な化合物を合成していた。
当初、ラパマイシンは抗生物資として、ついで抗がん剤として役立ちそうだったが、水に溶けにくく扱いにくかった。シャープ博士はラパマイシンをエサにまぜてネズミに食べさせてみた。するとなんとネズミの寿命が3割ものびたのである。それだけではなかった。ネズミの平均寿命はだいたい2年、600日を経過したネズミは人間でいうと60歳。そこから投与実験を始めてもオスで9%、メスで14%も寿命がのびた。
ラパマイシンは細胞分裂やタンパク質代謝などの速度を緩める働きがある(だから抗がん剤として作用する)。リン酸化という重要な情報伝達経路をブロックするのだ。細胞分裂代謝の促進は成長期の生物にとっては必須のものだが、成長後はむしろ酸化ストレスなどを増大させ生物を”生き急がせて”しまう。それをスローダウンすれば寿命がのびる。実験はそう解釈された。結果は、2009年ネイチャー誌に公表され世界を驚かせた。
しかし、である。ラパマイシンは現在、もっとも有効な免疫抑制剤として臓器移植に広く使われている薬剤なのである。ネズミたちは寿命の延長と引き換えに、免疫システムが強い抑制状況に置かれることになる。だからあらゆる感染症に対して防御力が弱くなってしまう。
シャープ博士はいった。ここには生命がもつ、あい反するふたつの力のせめぎあいがあります。そう、アグレッシブに生きれば自らを傷つけてしまう。消極的に生きれば外部から攻め込まれるスキをつくるのだ。

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どうでもいい、じじぃの日記。
70歳を過ぎたからでしょうか。先のことはどうでもいいような気になってきました。
「ところがついに夢の長寿薬が見出された。その名はラパマイシン。イースター島に由来する。シジフォスならぬモアイの巨石が立つ土の中に秘密が隠されていたのだ」
寿命を延ばす方法として現時点で最も確実なのが、「カロリー制限」だそうです。
このカロリー制限による老化に関係する細胞内のタンパク質代謝に、ラパマイシンが作用するのだそうです。