じじぃの「科学・芸術_813_世界の文書・ガンダーラ語仏教写本」

The Buddha (Full Documentary)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=EDgd8LT9AL4

Buddhist manuscripts

『図説 世界を変えた100の文書(ドキュメント):易経からウィキリークスまで』

スコット・クリスチャンソン/著、松田和也/訳 創元社 2018年発行

ガンダーラ語仏教写本(紀元50年) より

樺(ブハージャ)の樹皮の巻物に書かれ、2000年前にアフガニスタン東部の砂漠に埋められた仏教僧の聖典は、現存する最古の仏典であり、南アジアの文書としても最古のものである。それはまさにインド仏教版の<死海文書>と言うべきものだ。

紀元前6世紀から紀元11世紀までのガンダーラは活気に満ちた古代インドの多民族国家であり、それは現在のパキスタン北部、カシミールアフガニスタン東部に相当する――インド、イラン、中央アジアの文化の交差点である。その最盛期、すなわち紀元前199年頃、この国はインドから仏教が中国その他へもたらされる門であった。アレクサンドロス大王による征服以来、ガンダーラはまたインドと西洋世界の接触の主点となり、哲学、芸術、通商において大いに交流が行なわれた。
今から2000年前、仏僧たちは樺の樹皮に書かれた経典の巻物を丸い陶器の壺に詰め、砂漠の丘に埋めた――おそらく、経典の新しい複製を作成した後、廃棄するものを仏塔(ストゥーパ)の聖別の儀式に用いたのだろう。菜食と慈悲という仏教の教義を踏まえ、僧は樹皮の代わりに樺の内部樹皮を用いていた。樺の樹皮を打ち伸ばして貼り合わせ、巻物にした上で、鉄筆とインクで文字を書いたのである。
1994年に大英図書館に寄贈されたカローシュテイ写本コレクションは他に例を見ない13巻の巻物で、カローシュテイ文字を用いたガンダーラ語で書かれており、1世紀半ばのものである。巻物の元来の出所は明らかではないが、アフガニスタン東部の都市ジャララバード近隣にある古代ギリシャ式仏教の中心地であるハッダに由来すると考えられている。この巻物はおそらくサカ族統治下の時代の1世紀半ばに書かれたもので、だとすれば知られている中で最古の仏典であると共に、インド系の言語による現存最古の写本であるということになる。
その後の考古学発見によって、研究対象となる古代の樺皮文書の数は76にまで増加した。それらはワシントン大学図書館、米国議会図書館、スコイエン・コレクション、平山コレクション、林田コレクション、ビブリオテーク・ナスィヨナル・ド・フランスなどに収蔵されている。
テキストの多くは現在も部分的に判読可能で、幅広い仏教の教義を伝えている。これまでに翻訳された作品の中には哲学的・専門的教義の他、『犀角経』『無熱悩池偈頌』などの一般向けの教訓的な経文もあった。
それらは、ゴータマ・シッダールタ(「仏陀」)が菩提樹の下で瞑想して悟りを開いたのと同時期に発祥したと考えられている初期インド仏教に対する多くの新たな洞察をもたらした。今日の世界にも、自らを仏教徒と考える人は5億人もいる。