Disneyland for Adults
Disneyland for Adults
大人になるのは悪いこと?――ディズニー化するアメリカ より
3年前、私のラジオ番組『スタジオ360』で、ディズニーのテーマパークについて1時間のドキュメンタリーを制作したことがある。その番組では、カリフォルニアのディズニーランドでアナベルという少女にインタビューをした。ディズニーランドが大好きな理由を語ってくれたのだが、その説明はこの本にぴったりだ。「もうあたしの年になったら、本物じゃないとわかっている。でも、そこで遊んでいると、ぜんぶがすごくリアルに感じられるの。頭の中の学校とか科学とか算数を考えるところは、『これは本物じゃない、しっかりしなきゃ、本物じゃないんだから』って思ってる。ただ、別のところ、たぶん夢を見るところや空想をするところは(中略)『でも、すごくリアルね』って言ってる。まるでファンタジーの本の中にいるみたい」。9歳の子の話としてはとても気が利いた答えだし、チャーミングだ。
しかし現在、テーマパークを訪れる人の少なくとも3分の1は、子ども連れではない大人だ。毎年何千ものカップルがディズニーランドのテーマパークで結婚式を挙げる――女性は自分の結婚式を『シンデレラ』のラストシーンのように思い描く。あるいは、ディズニー・フェアリーテイル・ウェディングで購入したキャラクターのガウンを身にまとい、王家の使用人の格好をした人に見られて、自分のことをアリエルやベルやジャスミンだと想像する。
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では大人になった今、ディズニーワールドの何がそれほどすばらしいのか。「自分が特別な人間になったみたいな感じがするんです。私は何万人もの中の1人だけど、それでも私は特別で大切なんだって。ミッキーマウスとミニーマウスのファンタジー、魔法と不思議の世界を見たい気持ちが、なんだか自分の中に湧いてくるんです」。
セレブレーション(1945年あたりの理想的なアメリカの街を意識して再現したもの)に引っ越すとすぐに、33歳で独身のジュリーはディズニーワールドで働くようになった。どんな仕事なのかを尋ねてみた。「キャラクターたちを助けるんです。たいていミッキーのとミニーですけど、ほかのキャラクターも。たとえば、シンデレラのスージーとパーラとか、ピノキオとか、ティモンとか、あとグーフィーの息子のマックス、ロビンフッド、くまのプーさんとピグレット、ム―シュー、アンクル・スクルージ、『ターザン』のターク」。
キャラクターを「助ける」とは具体的にどういうことなのか、尋ねた。
みんな、とても仲のいい友だちだったんです」とジュリーは答える。「いろんなショーに出る準備を助けたり――あと、ゲストに会って挨拶するときにヘルプが必要なら助けたりとか」。
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政治の世界であれどこであれ、この子どもっぽいスタイルはしばしば子どもっぽい考え、つまり空想と一体である。児童心理学の元祖ジャン・ピアジェは、子どもの心と大人の心は根本的に異なり、子どもは自己中心的で魔術的な考え方をするが、大人は合理的で野性的だと考えていた。ピアジェの考えでは、大人になるおいうことは、あるモードから別のモードへと移行することにほかならない。心理学は、ピアジェのこの影響力ある考えに修正を加えてきた。現在では、子どもと大人の違いを断絶としてではなく、連続体としてとらえるようになっている。ファンタジーランドが現われると、多くのアメリカ人がその連続体の大人の側から離れていった。心理学で、総合失調症の位置づけが妄想的から理性的へと修正されたのも、偶然ではない。
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ハーバードの児童心理学者ポール・ハリス は、著書『Trusting What You're Told: How Children Learn from Others(言われたことを信じること――子どもはいかに他者から学ぶのか)』で、「客観性と啓蒙に向かって必然的に発達していくわけではない」と言う。「認知発達の終点は、客観性と均衡ではない。自然と超自然、真実と空想、信念と疑念が混じり合ったものだ」。
アメリカの大人たちの心理では、この混合が異様にバランスの悪いものになっている。「みんな子ども」症候群の中でも、これは不安をかき立てる要素だ。ハリスはあのように論じていたが、それでも世界を現実に基づいて理解する方向へ向かう何らかの発達はある。たとえば、ほとんどのアメリカの3歳児はサンタクロースや歯の妖精を信じているが、ほとんどの9歳児は信じていない。子どもたちは10歳ぐらいまで、存在物や出来事にはすべて目的があると自然考えている。すべて何らかの役割を果たすべく、誰かあるいは何かによって設計されたと思っている。カバは動物園で見世物にされるために、雲は雨を降らすために、ママは自分をやさしくしてくれるために。そして年齢を重ねるにつれ、直感に反することやがっかりすることを経験しながら、さまざまな真実を知っていく。
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ボストン大学の有名な児童心理学者によると、幼い子どもは「直感的な有神論者」で、何らかの神が万事を動かしているに違いないと自然に信じる傾向にある。本書の主な論点の1つは、アメリカ人がとりわけ信心深いだけでなく、アメリカで支配的な宗教が、特に過去50年間できわめて原点に忠実かつ空想的になった。つまり子どもっぽくなったということにある。永遠に若いままでいたいという幻想。「みんな子ども」症候群が現われたのも50年前だった。好みと考え方において、アメリカの大人がかつてないほど若者や子どもに近づき始めた時期だ。これらが同時に起きたのは偶然かもしれないが、私にはこれもまた1つの文化的な共生関係のように思える。
それに、子どもっぽい魔術的思考の相乗効果は、「キリスト教徒」だけに見られるわけではない。ロング・バーンは『ザ・シークレット』で、「どうすれば信じられるようになるのか?」と問いかける。これは、何かを願い、何かのふりをするだけで成功できると主張するオプラ・ウィンフリーお墨つきのニューエイジのガイドブックだ。バーンはそれに答えて、こう記している
「ふりを始めなさい。子どものようになって、願いがすでにかなっているふりをしよう。望みのものをすでに持っているかのようにふるまおう。ふりをしていれば、すでに受け取っていると思えるようになる。(中略)もう持っているという信念。その不滅の信仰が、このうえない力になる。自分が今望みのものを受け取りつつあると思えたら、心の準備をしよう。魔法の始まりだ!」。