じじぃの「科学・芸術_784_アメリカ500年史・ケネディ暗殺の陰謀論」

Intrigue still surrounds assassination of President John F. Kennedy

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=cMTdt_gE2Lw

Who Killed JFK

ファンタジーランド(上) 狂気と幻想のアメリカ500年史』

カート・アンダーセン/著、山田美明、山田文/訳 東洋経済新報社 2019年発行

現実か、フィクションか――20世紀の陰謀論 より

1960年代には、極右の幻想も満開となった。上院議員ジョセフ・マッカーシーが死んだ直後、その支持者だった富裕層の一人、ロバート・ウェルチが「ジョン・バーチ協会」を設立した。ウェルチはこう考えていた。共和党政権にも民主党政権にも、「ソ連の陰謀に意図的・計画的に加担している熱心な工作員」が閣僚として潜んでおり、「クレムリン専制的・暴力的に支配する世界的な警察国家」を建設しようとしている、と。やがて1960年代初頭になると、ジョン・バーチ協会は全国メディアの多大な注目を集めるようになった。数十の州にある支部で何万もの会員を集めたほか、全国各地に機関誌『アメリカン・オピニオン』を置く書店を展開し、その「読書室」を設置したからだ。ウェルチは1961年にこう述べている。現在の連邦政府の「50パーセントから70パーセント」が共産主義者であり、「共産党支配下」にある。学界や財団やニュースメディアに工作員が潜入しているのはもちろんだが、アメリカの医師会や商工会議所も「共産党シンパ」である、と。
やがてこうした陰謀は、ソ連や中国のために活動するアメリカ人共産党員やそのシンパだけにとどまらない広がりを見せるようになった。ジョン・バーチ協会が新たに採択した網領によれば、共産主義は、全世界的なマスタープランの一部、「国際的な悪の結社」によるはるかに壮大な陰謀の道具にすぎないという。これは、18世紀ヨーロッパのイルミナティを想起させる。その病的な妄想が、1世紀ぶりにアメリカに復活したのだ。
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こうした下地があったおかげで、1972年に出版された『None Dare Call It Conspiracy(誰もそれを陰謀とは言わない)』もまた、大ベストセラーとなった。この本も、以下のような内容である。「陰謀家は、社会の最上層から現れる。彼らは非常に裕福で、高度な教育を受け、きわめて洗練されている」。つまり「インサイダーズ」やロックフェラー家、ロスチャイルド家、「学界やマスコミのエリート」、イルミナティらが、「全世界的な超政府」を樹立する陰謀を企んでいるという。この本のカバーに記された推薦文の中には、アイゼンハワー政権の閣議で最初の祈祷を主宰した、あのモルモン教徒の農務長官の名前もある。この本の発行部数は500万部に及んだ。
大仰な怒りと疑念に満ちたこのような世界の見方は、1963年にケネディ大統領が暗殺されると、政治的立場を超えて広がり始めた。あのような暗殺が、頭のいかれたたった一人の負け犬の手で、通信販売のライフルを使って行われたとはとうてい思えない。きっと、共産主義者かCIA、ジョン・バーチ協会、マフィア、ロシアの財閥、あるいはそれらが手を組んで、裏で糸を引いているに違いない。
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1964年になると、左派のライターが、ケネディ暗殺を陰謀と主張する本をアメリカで初めて出版した。この本によれば、黒幕はテキサスの石油業者だという。すると間もなく、政府の調査委員会は隠れた陰謀に気づかないふりをしていると主張する本が、無数に出版されるようになった(ちなみにこの委員会の委員長は、極右に嫌われて最高裁長官アール・ウォーレンだった)。その中の1冊で、左派の法律家マーク・レインが執筆した『ケネディ家の謎――オズワルド弁護人の反証』(邦訳は中野国雄訳、徳間書店、1967年)は、6ヵ月にわたりニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストに掲載された。1967年には、ニューオーリンズの地区検事長が、何を血迷ったのか、頭のおかしな右派によるケネディ暗殺の陰謀に加担したとして、地元のビジネスマンを起訴した。その検事長によれば、暗殺は「テキサスの石油成金から資金を提供されたナチスの仕業」であり、CIAやFBIやロバート・ケネディが隠蔽に強力しているという。NBCがこの主張を否定する独自調査を報道すると、検事長は、このドキュメンタリーは一種の「思想統制」であり、NBCの親会社であるRCAから制作を命じられたに違いないと反論し、こう述べた。「RCAは10本の指に入る大軍需企業であり、私たちが彼らの陰謀を暴こうとしているため必死なのだ」。こうしてケネディ暗殺にまつわる巨大陰謀説は、アメリカ人の社会通念と化した。