じじぃの「科学・芸術_683_文明・帝国がたどる道(連作絵画)」

Thomas Cole - The Course of Empire 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yvhy6iybvXI
Cole Thomas:The Course of Empire Desolation (帝国の荒廃)

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『文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因』 ニーアル・ファーガソン/著、仙名紀/訳 勁草書房 2012年発行
結論――ライバル同士 より
文明の生命周期(ライフサイクル)を推し量るには、ニューヨーク歴史協会の展示室に掲げられている、トマス・コールの5枚の連作絵画「帝国がたどる道」(1836)を鑑賞するのが最善だろう。19世紀のアメリカ風景画の主流であるハドソン派の開祖コールは、いまでも人びとの心を捉える文明のサイクル理論を、みごとに視覚化している。
5つの作品は、大河の河口で岩場が露出した想像上の光景だ。最初の「未開の原野」には壮大で手づかずの自然が広がり、荒れ模様の夜明けのなかで何人かの狩猟採集民が乏しい食料をあさっている。2番目の「牧歌的なのどかな風景」では農業が始まっていて、住民は木々を伐採して開墾し、畑で農作物を栽培し、ギリシャふうの優雅な神殿を建てている。3番目は最大の絵「帝国の完成」で、画面いっぱいに広がる大理石の建物か荷物の集成場所として賑わいを見せ、2作目に描かれていた思索的な農民の姿はなくなり、こぎれいなみなりをした裕福そうな商人や地方提督、消費者である一般市民らがたくさん描き込まれている。人生でいえば、最盛期だ。そして4番目に、「破滅」がくる。夜のとばりが降りるなかで町はもえさかり、侵略者が女を手込めにしようと、あるいは略奪しようと迫るなかで、住民は逃げまどう。そして最後の5枚目の「荒廃」では、月明かりの下、無人の光景のなかで柱だけが残って林立し、バラやツタが絡んでいる。
コールがこの5部作のアイディアを得て作品を残したのは1830年代の半ばだが、ここには明確なメッセージが伝えられている。すべての文明は、たとえどれほど栄華を誇っても、いずれ凋落して滅びる、という歴史の教訓だ。
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現在、シュペングラー、トインビー、ソローキンの著作を読む人はほとんどいないだろうが、キグリーの「陰謀説」(ものごとは偶然に発生するものではない)には、一定の支持者がいる。似たような発想の現代版としては、広く読まれたポール・ケネディの『大国の興亡』(1987)がある。これも「歴史は繰り返す」ことがテーマだが、大国の興亡は産業基盤の成長率にかかっており、また、経済規模に見合った帝国維持の費用対効果がカギだとされている。トマス・コールの連作絵画「帝国がたどる道」にも描かれているように、帝国が版図を拡大すると、将来の衰亡のタネを蒔くことになる。ケネディは言う。
「国家が戦略地域を拡大しすぎると、……拡張費用もかさみ、潜在的な利益のだいなしにしかねないリスクを覚悟する必要が出てくる」
この「帝国の過剰拡大」は、ケネディによれば、どの大国にも共通した傾向だ。この本が出版されると、多くのアメリカ人が危惧を抱いた。――アメリカも、同じ病にかかるのではなかろうか。
さらに新しい本としては、文化人類学者のジャレド・ダイアモンドが書いた『文明崩壊』(2005)がある。これは「緑の時代(グリーン・エイジ)」にふさわしい歴史サイクルの物語だ。話は17世紀のイースター島から21世紀の中国まで、自然環境を自ら破壊した結果(あるいは破壊しつつあるため)、自らが破滅する話だ。