じじぃの「科学・芸術_783_アメリカ500年史・キリスト教」

Jimmy Carter on Power and God

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8dsokS9S7D4

ファンタジーランド(上) 狂気と幻想のアメリカ500年史』

カート・アンダーセン/著、山田美明、山田文/訳 東洋経済新報社 2019年発行

キリスト教――異端派、急進派の巻き返し より

現代から見た1960年代の一般的なイメージは、若者、衝突、快楽主義である。確かに1970年代には、ハレー・クリシュナ・マントラやマンソン・ファミリー、ジョーンズタウンでの集団自殺など、目を引く奇妙な宗教活動があちこちにあった。だがいずれも、常軌を逸したこの十数年の間に生まれては消え、大した重要性を持つには至らなかった。瞑想やヨガに、これといった信仰など必要ない。だが実際のところ、1960年を特徴づけているのは、「セックス」「ドラッグ」「ロックンロール」「非理性的な超自然信仰」だけではない。この時代の遺産の中には、一般的なイメージから抜け落ちているものがある。それは、キリスト教の急進化である。宗教的な狂気がきわめて広範囲に、爆発的に広まったのだ。
1960年代後半、カリフォルニアに増殖していたヒッピーの中に、福音主義キリスト教を信奉する若者から成る、飛び抜けて陽気な小集団が生まれた。自称「ジーザス・ムーブメント」あるいは「ジーザス・ピープル」、ほかの人からは「ジーザス・フリークス」と呼ばれていた組織である。またバークレーでは、「キャンパス・クルセード・フォー・クライスト」が「福音電撃戦」を展開し、イエスを「世界最大の革命家」と呼んだ。そのほか、「キリスト教世界解放戦線」、「イエス・キリスト光と力の仲間たち」という組織もあった。トム・ウルフは言う。「当初のジーザス・ピープルの若者は、ほとんどがLSD常用者だった。彼らはドラッグをやめることを誓ったが、(中略)それでも恍惚とした精神状態を望み、(中略)結局は、福音主義的できわめて熱狂的な根本主義キリスト教にそれを見出した。10年前には、アメリカでの再興はまず無理だろうと思われていた宗派である」。だが、こうした諸組織の誕生は、1960年代の実態から見れば、単なる興味深い余興でしかなかった。
福音派根本主義は、1980年代にかってないほど規模を拡大し、やがて政治的・文化的右派と同義になった。
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リンゼイを含めアメリカの福音主義者によって、1948年のイスラエル建国は、聖書の福音が成就する紛れもない証拠となった。聖書によれば、この世の最後の出来事が展開される前に、ユダヤ人はイスラエルに戻ることになっている。それが実現したのだ。アメリカで「終末」の幻想がまた盛り上がりを初めていた1967年には、イスラエル軍がアラブ軍を破り、エルサレムを取り戻した。ルカによる福音書21章24節にはこうある。「人々は剣の刃に倒れ、(中略)エルサレムは異邦人に踏み荒らされる」(訳注:以下も含め、聖書からの引用はすべて新共同訳による)。1960年代から70年代にかけて、中東は現実世界のハルマゲドンの瀬戸際にいた。そのため「終末」という幻想が圧倒的な規模で復活し、爆発的に広まったのである。
新たにヒステリックなキリスト教がブームになるにつれ、アメリカ人は、毎週日曜日の朝に合理的かつあいまいな説教を行う宗派への興味を失っていった。南部バプテスト派は、1965年ごろにはアメリカ最大の宗派となり、さらに成長を続けた。長老派は、超幻想的な派閥が分離し、独自の宗派を形成して急成長した。こうして1960年代末には、アメリカのプロテスタントの大半が福音主義を信奉していた。ペンテコステ派聖霊運動からうまれた教団)の最大会派であるアッセンブリーズ・オブ・ゴッドのアメリカ人会員は、1960年には50万8000人だったが、1970年代末には会員と「支持者」を含めて260万人に成長した。一風変わった革新的なキリスト教のパイオニアである末日聖徒イエス・キリスト教会モルモン教会)も同様である。20世紀前半はゆっくりとした成長にとどまっていたが、1960年代から70年代の間にアメリカの信者数はおよそ3倍に増えた。モルモン教徒は、快活で勤勉、まじめ、正直、非1960年代的など、表面的にはきわめて普通に見える。それが、突飛な信仰の普及を促した側面もある。
やがて、こうした福音主義の隆盛に、とうとう誰もが注意を払わざるを得なくなった。福音主義が国内政治にかかわるようになったからだ。だが、当初その影響を受けたのは、共和党ではない。トム・ウルフは1976年の秋にこう記している。「政治家が大統領選で、非理性的で熱狂的・恍惚的な宗教を利用した奇妙な見世物を行うようになったのは、1976年からだ」。「ジミー・カーターは、神秘的・宗教的傾向を一身に帯びていた。福音主義のバプテスト派の信者で、最近になって、”新生””救剤”され、”イエス・キリストを個人的な救い主として受け入れた”という。つまり、書見台を叩いてアーメンを唱える熱狂的な伝道師のような、ヤマハのキーボードを使って十指でハ長調の和音を奏でながら礼拝をおこなうような、テーダマツの森が広がる南部の人たちのような信仰を抱いている」。これは画期的な瞬間だった。

それまでは、モルモン教徒のジョージ・ロムニーにせよカトリックケネディにせよ、妙な宗教を信仰している大統領候補者は、その信仰をあまり重視していないように見せかけなければならなかった。だがカーターの場合、福音主義信仰が大統領選の勝利につながったのだ。